2025年5月12日無料公開記事
欧州燃料油規制用に取引市場開設
オーシャンスコアのグレルCEO、企業間の融通支援
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船舶の温室効果ガス(GHG)排出規制への適用管理ソリューションを提供するオーシャンスコアのアルブレヒト・グレルCEOがこのほど本紙インタビューに答え、欧州の燃料油規制FuelEUマリタイムに対応したマーケットプレイス(取引市場)サービスを開始することを明らかにした。同規制で認められているGHG排出の企業間融通を支援するため、透明性ある取引の場を設けることで業界の規制対応を支援する考えだ。今後も各種規制が始まることで排出管理がより複雑さを増すことに対応し、エンジニアを増員してシステムの高度化にも取り組む考えだ。
■FuelEUへの対応の難しさ
― 昨年の欧州排出権取引制度(EU-ETS)に続き、今年からFuelEUマリタイムが始まった。業界の反応は。
「FuelEUマリタイムは非常に複雑で、多くの業界関係者から『EU-ETSはエクセルで管理できたが、FuelEUマリタイムは対応しきれず、専用のソフトが必要だ』との声が上がっている。これを受けて、当社の排出規制対応ソリューションも多くの受注を獲得している。また、FuelEUマリタイムでは最終的な責任を持つDOCホルダー(船舶管理者)にとって、用船契約における用船者と船主との費用負担の条項が合意に至っていないケースが多く、大きなリスク要因になっている。どのように公平な条項を作り、いつ確定させるかが課題として浮上しており、当社にも契約条項の確認などの依頼が増えている」
「さらに悩ましいのが、個船のGHG排出量の過不足を複数の船で相殺できるプーリング制度の活用だ。船社間での過不足の売買も可能だが、価格が不透明である上、代替手段となるバイオ燃料も価格が変動するため、バイオ燃料利用とプーリング利用のどちらが良いか、社内でプールするか外部のプーリングに参加すべきか、など戦略立案が難しくなっている」
― オーシャンスコアとしての対応は。
「当社はFuelEUマリタイム対応のマーケットプレイスを5月から立ち上げる。これは、GHG排出の余剰分を持つ企業と不足する企業が直接取引を行える場で、市場の透明性が高まり、価格動向を把握できることで、より的確な意思決定が可能になる。当社のソリューションを利用している海運会社70社の利用を見込んでおり、多くの関心が寄せられている。実際に取引を行わなくても、市場価格を確認するために参加する企業も多いだろう。多くの企業が参加しやすいようマーケットプレイスの利用料金は非常に低価格に設定しており、当社は取引の仲介料も取らない。規制により余計なコスト負担が生じるのは望ましくないので、当社はこのサービスで利益を得るのではなく、市場の透明性を高め、企業の適切な判断を支援することを目的としている」
■複数規制の統合管理が可能
― 環境規制は複雑化している。
「今年10月の国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC)では、4月のMEPC83で合意された規制枠組みの採択が予定されている。来年1月には英国版ETSが施行され、トルコでも2027年にETS導入が予定されている。もしIMOの規制が採択されなかった場合、英国は独自のETSを英国発着の全船に拡大する可能性があり、他国もこれに追随するだろう。こうした複雑化する規制環境に対応するため、当社はソリューションを抜本的に見直した。従来の『ETS Manager』はEU-ETSのみに対応していたが、今年1月にリリースした『Compliance Manager』では、今後も新たな規制が導入されることを前提に、複数の規制を統合管理できる設計とした。最新の規制に応じて更新し続けており、今後の規制がどのような動きになろうとも、当社の体制は万全。社内には複雑な規制に対応できるようチームを構築しており、ソリューションも規制の変化に合わせて進化できるよう設計している。すでにIMOの規制案をシステムに統合する準備も進めている」
― システム開発に対応できるようエンジニアは増員しているか。
「大幅に拡充した。現在、データサイエンティストなどエンジニア15人が開発に従事しており、この分野としてはかなり大きな陣容だ。さらにメンバーの追加も進める。開発にあたっては、単に規制の内容をコード化するだけでは不十分で、用船契約の内容をシステムに反映させることが重要になる。用船者、船主、管理会社の本当のニーズを理解し、システムに落とし込む必要があるが、こうした要件は後から決まることが多い。例えば、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)が2023年に公表した契約条項をシステムに組み込むことは可能だが、実際の現場ではBIMCOの条項そんままでは運用されず、より複雑だ。そのため当社は常に運用実態に即した形へシステムを改良し続けている。EU-ETS対応のシステムは完成したが、FuelEUマリタイムに関しては新しいマーケットプレイスの導入のように、年間を通じて機能を強化し続ける方針だ」
― オーシャンスコアの競争優位性はどこにあるか。
「当社のシステムは非常に成熟しており、効率的なワークフローを備えているため、1人でも巨大な船隊の排出規制対応を管理できる。これは70社以上の顧客から得た知見とフィードバックによって実現できたもので、顧客と共に学びながらシステムを改善している。EU-ETS排出管理システムには多くの企業が参入したが、FuelEUのコスト負担の重さから撤退した企業もある。当社のFuelEUのマーケットプレイスは、複雑なトークン化や煩雑な顧客管理プロセスを必要とせず、他社のモデルと違って驚くほど使いやすい設計になっている」
(聞き手:対馬和弘)