2025年1月31日無料公開記事海事都市今治の20年

《連載》海事都市今治の20年
今治海事産業、連携強化で成長
伊予銀×愛媛銀×広島銀座談会<下>

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左から、岡村氏、品部氏、松崎氏

座談会参加者(社名五十音順)
伊予銀行執行役員シップファイナンス部長 松崎哲也氏
愛媛銀行常務執行役員船舶ファイナンス部長 品部雄二郎氏
広島銀行船舶ファイナンス部長 岡村正之氏
(司会)海事プレス社 中村直樹
 

■今治の認知度向上


― 次に、今治海事クラスターにおいて過去20年間で最も大きく変化した点は何か。

岡村「バリシップなどの海事クラスターの連携強化による今治のプレゼンスが向上したことだ。プレゼンス向上によって、人が集まり、育成され、新たなビジネスが生まれるなど、かなりの経済効果になっていると認識している。当行においても、今治のプレゼンス向上によって多くのビジネス機会をいただいており、非常に大きな恩恵を受けている」

松崎「一番変わったのは日本建造船のシェアが減ったことではないか。中国造船業が台頭してきた影響だと思うが、世界的に見て日本造船の存在感はかつてほどではない。一方、プラス面の変化としては、2009年から今治でバリシップが開催されるようになったことだ。その結果、今治が海事都市として世界的に認知されるようになった。海事クラスターのさまざまな企業が今治に拠点を置いたり、今治に出張するようになってきた。実際、われわれもシップファイナンス部を今治に移転している。バリシップは今治の海事産業にとってプラス材料になっているので、これからもぜひ続けてほしいと願っている」

品部「昔は地元今治でも造船や海運を知っている人は少なかったが、バリシップの影響もあって、今では今治海事クラスターの認知度がものすごく上がっている。平成の大合併で2005年に12市町村が合併して現在の今治市が誕生した時に、海事都市構想を立ち上げ、バリシップも始まって、規模も大きくなったことで認知度も上がっている。それに伴って、船主、造船所、舶用メーカーなどクラスター全体が成長してきている。バリシップは海外からの来場者も多いので、今後もそれが具体的な商売に上手く結び付けば良いと思っている。現在では地元の人たちにも造船や海運が今治の基幹産業であるという認識がかなり広まっている」

― 過去20年間における御行の船舶融資における最も大きな変化は何か。

岡村「海運・造船関連専門の組織立ち上げと人員拡充を図れたことが大きなポイントだ。2017年11月に船舶ファイナンス部を新設、2024年1月にはシンガポール現地法人も設立した。シンガポールには船舶の担当者も1人赴任している。また、2016年のバリシップ・フォーラムでは、当時の池田頭取が講演をさせていただいたが、広島銀行が海運・造船業界に力を入れていることについて、改めて周知できる機会をいただけたことに非常に感謝している」
「また、船舶融資残高は増えている。海運・造船関連の専門人員も、最初は数人でスタートしたが、直近では35人程度まで増えた。これも今治における海運・造船ビジネスの拡大に伴って、業界の注目度が高まってきたおかげだと認識している」

― 愛媛銀行はどうか。

品部「金融機関のプレーヤーの数が増えたり、海運業に力を入れる銀行が増えたことだ。一方、用船期間が短くなるなど契約形態が変化してきている中で、地場の金融機関の融資方法は引き続きコーポレートを中心に見るという形であまり変わっていない。将来的にアセット的なファイナンスに変わっていく可能性はあると思うが、なかなか変わりにくいというのが現状だ」

― 伊予銀行にとっての最も大きな変化は。

松崎「融資残高の増加だと思う。当行の残高自体は陸上も含めて全体的に増加しているが、船舶の伸びはものすごく大きくて、当行全体の中でもかなりのウエートを占めるようになっている。船舶の融資残高は2004年には2400億円強だったが、現在では1兆4000億円超になっている。われわれはその金額の裏側にはリスクもあるという認識をしているが、適正なリスクを取りながら融資している。残高の増加に付随する形の変化が人員で、当初は審査部全体の中で船舶を見る行員が1人いただけだったが、シップファイナンスの専門部署設置や、2017年のシップファイナンス部の今治移転などを経て、現状は15人まで人員が増えている。審査だけではなく情報収集の体制も整ってきている」

― 残高が5倍超に増加したのは地元の船主が事業を拡大してきたことが要因か。

松崎「そうだ。シンガポール支店の開設や為替の影響なども要因の1つとしてはあるが、それを除いても残高は増えている。地元の新規取引先や県外の顧客も若干増えているが、愛媛県の今治、波方、伯方などの船主との取引が基本という構造は変わっていない」
 

■支援体制を強化


― 今後、今治海事クラスターに対してどのように貢献していくか。

品部「今まさに行内で議論している段階だ。方向性はまだ定まっていないというのが正直なところだが、部署内では、船舶融資を手掛ける金融機関が増えてきてファイナンスをする銀行のすそ野が拡がっているので、ファイナンス以外の部分で何か貢献できないかと模索している。例えばDXやコンサルの分野などで何か貢献できないかという話をしている。当行には船舶融資の歴史があって人脈もあるし、昔から蓄積してきたデータも豊富だ。こういう状況の時にはこういう対応をしてきたという経験知もあるので、そういうものを上手く船主に還元できればとも考えている。情報を当行なりに分析して開示することができないかと検討しているところだ」
「個人的な興味としては、連携による共同研究などを後押しできればと考えている。大学が造船所や舶用メーカーと共同で研究開発をしているケースが散見される。こちらでも愛媛大学が県や今治市、造船所、舶用メーカー、金融機関とコンソーシアムを組んで2005年くらいから活動しているが、もっと活性化できないものか。他地域の産学連携の取り組みなども参考にして、どういう成果を出しているのかを比較してみたいと思っている。造船所も研究者の目や違う視点からの意見がほしいだろうし、大きな効果があるのではないか」

松崎「現在の事業環境は良好だが、仮に環境が変わったとしても融資の姿勢は変えず、良い時も悪い時もぶれないことが大切だ。それができなくなったらわれわれも皆様からの信用を失ってしまうので、そこは信頼関係を崩さないように取り組んでいきたい。船主の中には後継者に世代が替わる時期に来ている会社もあるが、先代の方が昔からのわれわれの姿勢を評価してくれていても、若い世代も同じく評価してくれるとは限らないので、その方々とも信頼関係を築いていくことが大事だろう。われわれの考え方を分かってもらって、一方で取引先の考えに寄り添う形でやっていきたい。われわれの経営計画の中には造船所や船主の支援を盛り込んでいる。できる範囲は限られるが、人材やDXなども含めて、海事クラスター全体への支援を行い、今治海事クラスターの存在感をさらに高めるために貢献していきたい」

岡村「地元金融機関として、引き続き、ファイナンスを通じた円滑な資金提供機能を発揮していくことに加え、カーボンニュートラルやサステナブルの関連も含めて時代は大きく変化していくと認識しているので、外部企業とも連携しながら、海運・造船業界の皆さまの未来を、広げられるようにお手伝いしていきたい」

 ― 本日はありがとうございました。

(この連載は、今回で終了します。中村直樹、対馬和弘、日下部佳子、松井弘樹が担当しました。今治市合併20周年を記念して本日、増刊号「海事都市 今治 拡大の20年、その先へ」を発行しました)

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