2024年6月19日無料公開記事洋上風力発電

陸上風力と洋上風力の繋ぎ役に
北拓・林社長に聞く

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 風力発電メンテナンス会社の北拓の社長に4月1日付で就任した林龍太社長は本紙インタビューで、就任の抱負について「陸上風力業界を支えてきた北拓が、洋上風力との繋ぎ役になるという業界としての大きな使命を持っていると感じており、その使命を果たしていきたい」と語った。同社最大の強みである「人」と、彼らの技術力をもって陸上から洋上へ乗り出す。

■あらゆる風車に対応、技術培う

 — 北拓は独立系風車メンテナンス事業者として地位を確立してきた。
 「当社は国内の陸上風車約2600機の8割にメンテナンスや部品供給などで携わってきた。風車メンテナンス業界には風車メーカー系、発電事業者系、独立系の3種類の事業者がおり、北拓は独立系の風車メンテナンス事業者だ。独立系の最大のメリットは風車メーカーや発電事業者を問わず、どの企業からも業務を受託できる点だ。そのため当社には日立製作所や三菱重工業などの国産風車や、ベスタスやシーメンスガメサ、GE(ゼネラル・エレクトリック)などの海外メーカーの風車をメンテナンスしてきた実績がある。風車メンテナンスの現場ではマニュアルにない予期せぬ不具合もある。当社はそのような故障にも対応できる技術力を培ってきた」
 「その技術力の1つに、ブレード補修技術がある。風力発電では落雷でブレードが破損することが少なくない。特に日本海沿岸は冬季雷と呼ばれる夏の雷の100倍のエネルギーを持つ雷が落ちるエリアである。1月に逝去した元副社長の吉田悟氏が風車メンテナンス事業を始めた風力業界黎明期でも、日本に風車を納品してすぐに落雷で風車が使用できなくなってしまった。損傷したブレード1枚を交換、あるいはバランス面から3枚全て交換するという大規模な対応が必要になるが、それではダウンタイムが長くなる。欧州ではすでに損傷箇所のみを修理する方法で対応していたが、日本には当時そのノウハウがなかった。このため、当社ではそのブレード修理技術を磨いてきたという経緯がある。ダウンタイムは事業者の発電収入を大きく左右する。当社は事業者のためになることならなんでもするという会社だ」
 — 北拓の強みについて伺いたい。
 「何よりもまず『人』だ。従業員は100人ほどで、みな安全に対する意識が非常に高く、20年間にわたり大きな事故を一切起こしていない。40代半ばになると相当な経験を持っていてさまざまな風車をみることができる。今後、洋上風力向けに事業を展開していくうえで増員が必要だが、質を落とすことがあってはならない。人材採用の効率化と訓練の充実によって、『人』という当社の強みを維持していくことが最も大切だと考えている」
 「当社は自社でメンテナンスを担う作業員を抱えており、訓練施設も複数設置している。福島支店ではGWO(国際風力機関)認証のトレーニングも提供している。また、5月に竣工した北九州の洋上風力発電向けトレーニング施設は、CTV(クルー・トランスファー・ベッセル)などの船舶から風車への移乗など実践的な訓練ができる設備を備えた。そして、自社で陸上風力発電設備を全国各地に保有し、その風車を活用して訓練を行っている。自社の人材育成に加えて、風力業界への恩返しを含めて訓練を提供していきたい」
 「人材確保に向けては全国の高校や高等専門学校で定期的に採用活動を行っているほか、インターンシップ等も受け入れている」
 「2つ目の強みは日本全域をカバーする部品保管・供給体制だ。全国各地に拠点を持つことで、迅速に現場に行き、復旧できる。また、旭川と北九州、福島に大型の部品倉庫を置き、在庫を備えている。全国どこで不具合が発生しても、迅速に部品を供給し、補修ができ、ダウンタイムを短くできる」
 「3つ目として、海外ネットワークも強みになる。部品メーカーとの信頼関係がなければ部品の供給網を確保できない。風車メーカー経由で部品を調達すると時間がかかってしまうが、北拓では20年間にわたり欧州の各部品メーカーと直接提携している」

■海外洋上風力事業も視野に

 — 社長就任の抱負を。
 「北拓は日本の陸上風力をメンテナンス面で支え、マルチベンダーという立ち位置でオンリーワンになっていったわけだが、洋上風力でも同じくオンリーワンになっていきたい。そのためには人材の確保と育成が重要だ。当社はこれまで人手不足により断らざるを得ない案件もあった。そうならないよう、人を育てて、一日も早く一人前にしていきたい」
 「洋上風力と陸上風力の世界を断絶してはいけないと考えている。世界では陸上風力のノウハウを洋上風力に移行するということが行われてきたが、日本ではそこに隔たりがある。北拓がその繋ぎ役になりたい」
 — 今後の取り組みについて。
 「日本の洋上風力公募は第3ラウンドまで進んでいるが、それらの発電プロジェクトのO&M(運用・保守)が始まるのは2028年頃で、まだ先になる。国内向けのメンテナンス需要が出てくるまでの間を埋めるような施策を検討中で、海外の洋上風力事業のメンテナンス作業などを視野に入れている」
 — 北拓は今年1月に商船三井と資本提携したが、その狙いは。
「商船三井グループが有する海・船のノウハウと北拓が有する技術力や顧客基盤を掛け合わせて、洋上風力発電バリューチェーンにおいて新たな価値を創造し、世の中に提供していくことが資本提携の狙い。洋上風力発電という新たな産業の形成、サプライチェーンの構築に貢献していくことでグループの価値向上も図っていくが、北拓はその中核的存在としてさらなる成長が期待されている」
(聞き手:日下部佳子、春日映莉子)

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