2023年12月22日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊹
船舶共有建造制度で内航の課題解決支援
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 藤田耕三理事長
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鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の藤田耕三理事長は、船舶共有建造制度を通じてカーボンニュートラルや船員不足といった国内海運業界が抱える課題の解決を支援する考えを示した。CO2排出削減や船内労働環境改善に資する船舶の建造を金利優遇や技術支援などで後押しする。同機構の運営では、「顔の見えるJRTT」をテーマに今年度からエリア担当制や短期出張所の開設といった取り組みに着手。国内海運事業者にとってより身近な存在となることを目指す。
■金融と技術で国内海運を支援
— 4月に理事長に就任し、これまでの所感と今後の抱負は。
「2020年まで国土交通省で行政の立場から交通・物流を見てきたが、JRTTはより現場に近い形で携わっており、新鮮な思いで業務に当たっている。海運分野は国交省時代に直接携わることがなかったが、理事長就任後に現場へ伺う機会を何度か頂いた。その中で国内海運業界の課題を改めて認識するとともに、業界の皆様からのJRTTへの強い期待を感じた」
「JRTTは船舶共有建造制度の主な利用者である中小企業に実質無担保のファイナンスと技術的なサポートを提供するという大きな役割を担っている。ファイナンスと技術支援を同時に提供する制度は他の業界にはほとんどなく、国内海運業界のインフラとしての重要性の高さから生まれた仕組みだと理解している。これからも国内海運業界の発展にしっかりと貢献していきたい」
— 日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団が統合してJRTTが発足してから20周年を迎えた。
「この20年で社会は大きく変化した。現体制となった03年はまだ日本の人口が増えている時期だったが、その後人口が減少に転じ、高齢化が急速に進んでいる。地球温暖化も当時から課題として認識はされていたが、気運が高まったのは最近のことだ。こうした社会情勢の変化に伴い、国内海運でも船員不足やCO2排出削減などの課題が鮮明になっており、課題解決に向けてしっかり取り組む必要がある。その一環として当機構はCO2排出の少ない船舶や労働環境が改善された船舶の建造に重点を置き、一定の成果を収めてきた20年だったと思う」
「業界を継続的に支援していくためにJRTTの健全な財務体質を維持することも重要。20年前はバブル崩壊後の不況の中で多額の未収金があり、債務超過も大きかった。財務体質の改善に取り組んだ結果、現在は債務超過を解消し、未収金も減っている」
「業界内外での知名度を上げるための広報活動にも注力したい。船舶共有建造制度は一般の方々に知っていただく機会が少なく、業界内でもまだまだ浸透していない。具体的には、22年7月から船舶共有建造制度の利用者向けに『共有船ニュースレター』を作成し、適宜情報を提供している。YouTubeやXなどのSNSの活用も始めており、一般の方々を含めて広くご覧いただければと思う」
— 船舶共有建造制度の運用状況は。
「22年度は燃料費の高騰による運航費の増加や鋼材価格の上昇に伴う建造費アップなどを背景に例年よりも建造隻数が少なかった。コロナ前は年間20隻程度だったが、昨年度は貨物船9隻、旅客船7隻の計16隻にとどまった。足元も建造費も高止まりしているが、老朽船の代替などの必要性から相談件数は増加している。こうした状況から、23年度の共有建造隻数は貨物船が昨年度よりも増加し、旅客船は横ばいと見ている」
■心理的・物理的に近い存在に
— 今年度から新たな取り組みとしてエリア担当制と短期出張所を開始した。
「船舶共有建造制度の利用者である国内海運事業者の方々にJRTTをより身近に感じていただこうと、『顔の見えるJRTT』を目標にして取り組みを進めている。心理的な距離感を縮めるのがエリア担当制、物理的な距離を近づけるのが短期出張所だ」
「エリア担当制は相談窓口を四国・関東、中国・近畿、九州・沖縄・北海道・中部・東北の3つのエリアに分けて固定した。いつも同じ職員が担当することでつながりを深める」
「短期出張所の取り組みは、年に数回各エリアの担当者が現地に1週間程度滞在して相談や申し込みを受ける。船舶部門は常駐の拠点が横浜にしかないので、短期出張所を通じて存在を身近に感じていただければと思う。今年度は6月上旬に四国地区(愛媛県今治市・香川県丸亀市)、8月下旬~9月初旬に中国地区(岡山県備前市)、10月上旬に九州地区(福岡市・北九州市)に開設した。3月までに各地区で2回目の開設を予定している。実績の一例を挙げると、中国地区の短期出張所では備前市だけでなく倉敷市や笠岡市の方も含めて28社とお会いした」
— 国内海運業界の課題の解決に向けて今後力を入れることは。
「脱炭素は世界的な大きな課題で、国内海運業界もしっかり対応する必要がある。国交省が連携型省エネ船の開発・普及を図っているほか、既存船の省エネ・省CO2に取り組んでいる。こういったカーボンニュートラルの施策と連携してJRTTが資金・技術の両面から支援を行い、CO2排出削減に資する船舶の建造を促進していく」
「バイオ燃料の船舶利用については『内航船の廃食油回収・バイオ燃料活用の連絡協議会』を関係業界と8月に立ち上げた。まずは内航船で使われた廃食油回収とこれを原料としたバイオ燃料の利用可能性を探るための取り組みを進める」
「トラックドライバーの残業規制が強化されることに伴う『物流2024年問題』という物流全体の課題もある。その受け皿として国内海運の果たす役割に国からも大きな期待が寄せられている。JRTTはこれまでもフェリーやRORO船、コンテナ船といったモーダルシフトに対応する船舶の建造を支援してきたが、引き続き取り組みを進めていく」
「船員の確保育成に関する取り組みでは、個室毎の温度調整を可能とするエアコンの設置など船員の労働負担・居住環境を改善するための設備を政策要件として金利を低減するパッケージを用意している」
「これらの船舶の建造実績は、22年までの5年間でモーダルシフト対応等の物流効率化に資する船舶が12隻、スーパーエコシップが3隻、先進二酸化炭素低減化船が7隻、高度二酸化炭素低減化船52隻、労働環境改善船が8隻となっている」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)