2023年12月6日無料公開記事「2024年問題」船社のシナリオ 内航NEXT

《連載》「2024年問題」船社のシナリオ①
モーダルシフト需要、航路ごとに特徴
フェリー・RORO船社の見通しと対応<上>

  • X
  • facebook
  • LINE

シャーシは中小企業の多いトラック運送事業者には投資のハードルが高い

 トラックドライバーの残業規制が強化される2024年4月まで半年を切り、そのソリューションの1つを提供するフェリー・RORO船の運航船社の対応もこれから本格化する。ただし航路によって需要動向に違いがある。例えば北海道航路は以前から海上輸送が定着しているため大きな変化はないものの、陸送距離をより短くするために利用航路を変える動きが出始めている。現在はトラック輸送が主力の九州発着ルートは、特にフェリーの九州/関西航路でモーダルシフトが加速する一方、RORO船への移行はまだ少なく、九州でのシャーシ普及率が低いことが原因と見る関係者が多い。

■北海道発着は長距離航路へ切り替え

 「2024年問題」は2024年4月から適用される働き方改革関連法によって生じる労働力不足問題の総称で、物流業界ではトラックドライバーの残業時間規制が強化される。トラックドライバーは自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)に基づいて労働時間が定められているが、改善基準告示が4月に改正される。具体的には、拘束時間が年間で最大3516時間から3400時間に、月間では原則293時間が284時間になる。
 国土交通、農林水産、経済産業の各省が開いた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力が24年に14.2%、30年には34.1%不足する可能性があると試算。これを回避するために政府が10月に決定した「物流革新緊急パッケージ」に船舶や鉄道へのモーダルシフトが取り組みの1つとして挙げられ、いずれも輸送量・分担率を10年で倍増させる目標が盛り込まれた。
 モーダルシフトの担い手であるフェリー・RORO船社は2024年問題をどう見ているか。現時点での動向を尋ねると、航路ごとに違いがあることが分かった。北海道/本州の貨物輸送は地理的条件から海上輸送が9割を占めるが、トラックドライバーの運転時間を短縮しようと航路の変更を行う顧客が出てきているという。具体的には、青森/函館航路から八戸/苫小牧航路へ、苫小牧/秋田航路から苫小牧/新潟航路への変更といった事例があるようだ。青森/函館航路を運航する津軽海峡フェリーは、こうした動きも鑑みて青森/室蘭航路を10月に就航。担当者は「青函航路だけでなく中距離航路の開設を望む声が顧客から出ていた。また、苫小牧/八戸航路は混雑でトラックが乗れないこともあるという。代替ルートの需要も見込んだ」と経緯を語る。

■九州でのシャーシ普及が課題

 それでは本州と橋やトンネルで陸続きになっている九州発着ルートはどうか。国土交通省によると、2021年時点の輸送機関の分担状況でトラックが占める割合は関東発九州着で7割弱、関西発九州着は8割強で、トラック輸送が大多数を担っていることが分かる。しかし福岡/東京を例に見てみると運転時間だけで15時間程度かかり、荷待ち時間などを加えると4月に改正される改善基準告示を順守した上で従来のリードタイムを維持する運行は難しい。そのため、フェリーによる有人トラック航送に目を向ける陸運事業者が増えているようだ。
 九州/関西航路のフェリー会社の関係者は「24年4月を前に、早めに対応したいトラック運送事業者が利用し始めている。平日にはドライバーズルームが満室になることも珍しくない。九州/関東の輸送で九州/関西のフェリーに乗船する顧客もいる」と語る。同じく九州/関西航路を運航する別のフェリー会社では、既存客が従来陸送していた貨物のリードタイムを延長してフェリー輸送を増やした案件もある。
 また、フェリー利用を前提とした物流拠点も竣工。北九州市で青果卸を手掛ける北九州青果は、北九州市中央卸売市場(小倉北区)内に「丸北物流拠点」を建設し、九州全土から青果を集めてフェリーで関東・関西へ運ぶ。同社の担当者は拠点建設の経緯について、「2024年問題への対応の1つで、東京九州フェリーの新門司/横須賀航路就航が重なったことも大きい」と話す。
 その一方で、複数の九州発着RORO船社の担当者は「引き合いはあるものの、成約に至るケースはほぼない」と話す。その理由について、「RORO船はシャーシを使った無人航送が主流だが、九州発着の輸送は10トントラックによる陸送が大多数を占めており、シャーシを保有している九州の運送事業者が少ない」と説明する関係者が多い。シャーシは10トントラックと比べてまとまった貨物量が必要になるほか、シャーシやトラクターヘッドが高額なため中小企業の多いトラック運送事業者には投資のハードルが高い。九州でのシャーシ普及が海上へのモーダルシフト拡大の鍵となりそうだ。

※ ※ ※

 この連載では、フェリー・RORO船社の2024年問題の見通しや対応を紹介する。

関連記事

  • カーゴ
  • Sea Japan 2024 特設サイト