2023年9月29日無料公開記事次代への戦訓 内航NEXT

《連載》次代への戦訓
議論を重ね活気ある業界に
名門大洋フェリー前会長・阿部哲夫氏⑤

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 経営者はタフな交渉を求められる場面が多い。2001年に新門司のフェリー基地用地をケイハンから取得した経緯は印象深い。私は社長になった時から、フェリー事業をするなら自社で岸壁を含む基地を所有すべきだと考えていたし、ケイハンも土地を手放したい意向だったので用地取得は希望通りだったのだが、株主の許可を得るのが大変だった。必要性を説明したが、新造船建造と時期が重なったこともあり苦労した。最終的に周囲の助けもあり用地を取得することができた。
 労働組合との交渉も長らく担ってきた。主に春闘で労働組合との交渉委員になり、その後交渉委員長と大型カーフェリー労務協会の会長も務めた。通常は労務協会会長と交渉委員長を兼務することはないが、団体交渉の結果は船団側が条件をのめば全社がそれに従わなければならず、会社の経営に大きく関わる問題なので責任を持ってやるべきと判断し、やむを得ず長期に務めることになった。
 大型カーフェリー労務協会の加盟会社は事業規模、航路事情や経営状況もさまざまで、一致団結して交渉することが難しくなってきたため2007年に解散し、個別船社単位で交渉することにしたが、やはり業界でまとまって交渉することが良いとの判断となり、改めて2016年に日本カーフェリー労務協会を設立した。
 もちろん乗組員の待遇改善は前向きに考えているが、経営側としてはコストとの兼ね合いは重要事項だと考えている。春闘は喧々諤々の議論を労使双方が本気ですべきだというのが私の考えだ。
 私は80歳を迎え、いつまでもやる訳にはいかないと承知しているが、フェリー業界を去るのは寂しいというのが本音だ。トラックドライバーの時間外労働規制が強化される「2024年問題」など、フェリー業界にとって追い風が吹いているのは間違いないが、近年業界全体に元気がないように感じる。
 最近は全国旅行支援や燃料油価格抑制制度など国の支援があるが、こうした支援はいつか終わる。ここからどうしていくか知恵を出し合うことが大切だ。業界の問題を皆さんで議論する場が少ないことが気になる。私たちの世代が高速道路無料化に反対した時のように、現役の皆さんにはもっと積極的に動いて活気のあるフェリー業界を構築していただきたい。
(この連載は坪井聖学、伊代野輝が担当しました)

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