2023年8月21日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊴
コンセプトシップで新技術実証
内航ミライ研究会・浦山代表理事

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 内航ミライ研究会が開発・建造を進めてきた次世代コンセプトシップ「SIM-SHIP」の第一号「SIM-SHIP1」として、499総トン型内航貨物船“國喜68”が2023年5月に山中造船(愛媛県今治市)で竣工した。船主は高知県高知市の國喜商船、用船者は川崎近海汽船。今治海事展「バリシップ2023」(5月25~27日)開催中に今治港で同船の船内見学イベントを開催し、約3300人が見学した。今後は船員の労務負担軽減、温室効果ガス(GHG)排出削減などの内航海運業界の課題解決に向けて各種の実証実験を行う。浦山秀大代表理事(雄和海運代表取締役)にコンセプトシップの建造をはじめとする同会の活動を聞いた。

■コンセプトを結集

 — 内航ミライ研究会の活動状況は。
 「2020年10月に一般社団法人としてスタートした。舶用甲板機械メーカーのSKウインチ(愛媛県今治市)が19年に国土交通省のi-Shipping助成事業としてデジタル電動ウインチを開発する際に複数の船主・開発会社とチームを作ったのをきっかけに、内航海運が抱える課題解決のために内航船主や舶用機器メーカー、設計会社などの有志が集まって発足した。現在の会員数は法人会員60社・個人会員5者の計65社・者で、特別会員としてオペレーター、銀行、商社など、オブザーバーとして鉄道建設・運輸施設整備支援機構、海上技術安全研究所、日本海事協会に参加頂いている。入会に当たっては具体的に何をやりたいかを重視しており、入会審査では当会でやりたいことをプレゼンして頂いている。常時4~5社の入会希望を頂いている状況だ」
 「これまでの主な活動として、21年竣工のスマートアシストシップ・コネクテッドシップ“りゅうと”の建造に携わった。21年7月にシステムインテグレーター事業の『シップス・インテグレーション・マネージャー(SIM)』とコンセプトシップ『SIM-SHIP』を発表し、22年に第一号『SIM-SHIP 1」の建造を決定、22年12月に起工、23年5月に竣工した。その他にもグループ単位でさまざまな活動を行い、例えば船員にやさしい船の研究を22年度にとりまとめ、また内航船のGHG(温室効果ガス)排出削減に関する取り組みを行っている。これらの活動を通じて生まれたさまざまなコンセプトが『SIM-SHIP』の基礎になっている」
 — 「SIM-SHIP」の第一号の499総トン型貨物船「SIM-SHIP1」の特徴は。
 「われわれのこれまでの活動を盛り込んだコンセプトシップになる。この中では小型船に特化した取り組みを行っており、今できるデジタル化、省エネ化、CO2排出削減、船員負担軽減の技術を詰め込んだ船ではないかと考えている。今の小型船の船主でも工夫をすればここまでできるということを見て頂きたかった」
 「例えば、CFD(数値流体力学)による船体性能推定に基づいた最適設計プロペラと省エネ付加物のパッケージ『Monster Package』を採用した。最適なプロペラを設計するためのCFD手法の内航船での採用事例は、大型フェリーではあるかもしれないが、499総トン型などの一般貨物船ではまずない。甲板機械の電動ウインチと電動ハッチカバーの組み合わせも内航船で初めてで、電動ウインチを“りゅうと”に続いて搭載したが、これに加えて今回は巻き取り型のハッチカバーの電動化を行った」
 「陸上サポートシステムは船内ネットワークに接続されたエンジンや他の機器情報を蓄積し、船内で運航データや燃料消費特性などのデータ利用はもちろんのこと、船陸間通信を用いて陸上から本船機器類の正常性を管理・サポートする。新型スラスタ『STEER-jet』は全旋回で真横移動が可能になるほか、バラスト調整を減らして離着桟時間を短縮することによるCO2排出削減を目指している」
 「今回の目玉は『MIRAI-Battery』と呼んでいるコンテナ型バッテリーの搭載で、制御部とバッテリーを1つのコンテナに格納したものだ。船上の余剰電力で充電するのではなく、クリーンエネルギーを陸上から持ち込むというコンセプト。今治市のごみ焼却場『バリクリーン』にバッテリーを持ち込み、ごみ焼却時の熱でつくった電気で充電して船上で使う実験も行う。昨今は船上にもデジタル機器が増えており、ブラックアウトが起こると機器に悪影響を与える。このため、居住区電源や船内発電機と陸上電源をブラックアウトさせることなく切り替えることができる必要最小限のシステムとした。われわれはバッテリーの利活用がさまざまな内航船で進むことを願っている。このためレトロフィットをかなり意識し、設置と交換を容易に行えるシステムを考えた」
 「当会が活動する中で生まれたさまざまなコンセプトが『SIM-SHIP』の基礎になっている。例えば、離着桟における省力化コンセプトは『i-shipping』の中で示したもの。省力化基本コンセプトは、国土交通省の『内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会』の中で発表したものだ。これらの実装について当会内で常日頃から話していて、また『SIM-SHIP』の原型となるものを総会で発表した。そのような中で國喜商船から次の新造船を『SIM-SHIP』にしたいというご依頼を頂き、コンセプトを煮詰めて竣工にこぎ着けた。建造にあたっては環境省・国交省からご支援を頂き、実証フィールドの提供で今治市、アドバイザーとして海上技術安全研究所にご協力頂いた」

■他の船種と貨物船の進化版検討

 — 今後の活動は。
 「『SIM-SHIP』は船種によって数字が変化する。タンカーの『SIM-SHIP 2』にはケミカル船を考えており、できれば数年内に建造したい。その後はコンテナ船、セメント船などを想定している。一方で貨物船のアップデイト版の『SIM SHIP 1.1』も検討し、今回プラス・アルファあるいはブラッシュアップしたものを考えている。陸上サポートシステムや離着桟の高度化にも継続的に取り組む」
 「内航海運にとっての最大の課題は船員不足。その中でわれわれができることは今はまだ限られているが、省力化や労働負担軽減を可能にする技術開発と制度づくりを行政と協力しながら進めていく必要がある。船員の働き方改革への小規模事業者の対応についても、当会としてできる限りサポートしていきたい」
 「われわれが活動を始めた当初は“何者だ”という受け取られ方だったが、“りゅうと”を建造した頃から“本気だ”というふうに変わってきた。そうなってくると現場の方々が支援してくださるようになり、活動が非常にやりやすくなってきた。“次は何を造るんですか”と楽しみにしてくださっている方々もいる。船員の方々からも“こういったことで困っているから、これをやってほしい”という具体的なご意見を頂けるようになり、現場の生の声を開発に活かすということがよりできている。このような船を造りたいという船主からのご相談も多く、SIM事業の中で対応していく」
(聞き手:深澤義仁)

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