2023年5月29日無料公開記事内航キーマンインタビュー 内航NEXT

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊱
「内航船員の誇り残すDX化を」
岡山大学・津守教授に聞く

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 内航海運にとって大きな課題となっている船員問題について、岡山大学の津守貴之教授はDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れていくことを勧める一方で、船員のやりがいや誇りを残すことを指摘する。そのためには業界団体の日本内航海運組合総連合会が役割を果たしていくことを期待している。インタビューでは、内航海運の暫定措置事業の終了後の仕組みの必要性、トラックドライバーの時間外労働時間を規制する「2024年問題」が内航海運に及ぼす影響など考えを語ってもらった。

■中小船主は内航の強み

 — 内航業界でいま大きなテーマは何か。
 「船員問題が大きい。深刻化することはあっても軽減することはない。人の問題は、内航に限らず物流業界全体がそうなっている。やる気のある若い人は海外に出ていっている。そうすると、国内で若者の奪い合いが他の業種と熾烈になってくる。物流業界を希望する人も減るだろう。その構造はおそらく定着していくだろう」
 「その際、DXを使って、いい意味で働きやすくして魅力的にすることを考えざるをえない。だが、問題はDXのやり方だ。船員でも機械でもできるDX化にすると、船員にとってやりがいも誇りも魅力もなくなるため、志望する若手も減るという悪循環に陥る可能性が考えられる。そうした悪循環は回避しないといけない。DXは魔法の杖ではないので、方向を間違えると本末転倒だ。そこは業界団体がリードしていくことが大事だ」
 — 具体的にはどうすべきか。
 「団体が一定のルールを設定することが必要になるのではと思う。内航船員の仕事で培われる技能を可視化していくことが必要だ。こんな技能を持てば、これだけの賃金になるという仕組みがいる。団体は訓練プログラムを整備していくことがいいと思う」
 「内航海運業者の強みは、船員を確保して育成していくことだ。内航海運暫定措置事業が終了したいま、内航総連は存在意義を示してほしい。自由化は野放図に何をやっても良いということを意味するわけではない。良質な事業者が正当に評価される適切な自由競争を機能させるためには、業界団体が自主的なルールを作る役割を果たすべきだ」
 「暫定措置事業がなくなったからといって、運賃・用船料が適正化されるという保証はない。運賃・用船料の適正化はどの内航海運事業者も求めていると思う。それを達成するためには、暫定措置事業に代わるなんらかのルールが必要だ、と以前から言っているが、『暫定措置事業が終わったばかりだからタイミング的によくない』という意見もある。しかし業界の成長を考えたら、必要ならば国と話すことをやるべきと思う」
 — 何かあったら遅いので、いま考えをまとめておくべきということか。
 「そうだ。自由競争になると船腹過剰になる。船腹過剰になると運賃・用船料が低下する。運賃・用船料が低くなると船員の給料にも影響が及ぶ。船員不足が言われるが、解決するためには待遇改善は必要だ。原資になる運賃・用船料が確保できる仕組み、船腹過剰が顕在化しない仕組みをあらかじめ考えておくべきだろう」
 — 暫定措置事業終了後を考えることについて業界はどう見ているか。
 「見方はいろいろある。『過当競争がなくならない原因は中小の一杯船主が多いこと』と見る人もいるが、果たしてそうなのか。中小船主がなくなって、大手・中堅船主、オペレーターに影響はないのか。いまも船員確保では、中小・零細船主がある程度育成して、それを大手・中堅が採用したりしている。一杯船主や中小・零細船主は現場に近い。現場の船員と目線が同じだし、何が必要とされているか、技能はどうあるべきかについて敏感だ。内航船員の技能をよく理解しているのは中小・零細船主であり、それが日本の内航海運の強みにもなっている」

■海事クラスターを再構築

 — 2024年問題についてどう見ているか。
 「両面ある。1つは現場の労働者の争奪戦がさらに厳しくなることだ。物流業界全体がそうだ。いまよりも人手不足が深刻になる。それにどう対応するかだ。もう1つは、人手不足でDXが進むことだ。だが、DXのために投資したが、船主の手元に省力化したことによる利益が残らないと、船主経営は疲弊する。船員の給料が上がらなければいい人材は採用できず、他産業との現場労働者争奪戦はもっと厳しくなる」
 「内航でDXを進めるためには、外航と違ったきめ細かさが必要だ。日本の内航船を前提としたDXで、DXの知識をもった内航船員を再生産する仕組みをつくる。内航船員の技能をDXに合わせた形にしていく。船員の技能も必要とするDXだ。技能を持った船員をサポートするDXだったら、船員のやりがいもプライドも維持される。造船、舶用機器もそうだが、DXにはきめ細かい技術の組み合わせが必要だ。日本の内航海運にマッチしたDXになれば、日本の海事クラスターを作り直すきっかけになる」
 — 海事クラスターを作り直すとはどういうことか。
 「日本の造船業は中国、韓国に大きく水を開けられており、造船会社が減って船舶を設計する技術者も減っている。日本の内航海運業界のニーズを集めながら、設計技術力を維持して造船事業者や舶用メーカーが残り続けることができれば、規模は小さいが質の高い海事クラスターを再構築できるのではないか。内航総連には、造船、舶用工業界とともに考えてほしい。『内航船員にとってこういう機器が必要で、こうした負担が減るといい』とか、アイデアを出し合ってもいい。視野を広くして対応してほしい」
 — 最後に一言。
 「内航海運業界は産業として自立しないといけない。自立は“自己再生産”できるということだ。そのためには内航船員の確保、育成が欠かせない。これは意図的に作っていく必要があり、業界団体がリーダーシップを発揮すべきだ。人口が減少する日本では、DXを絡めてやっていかないといけない。技術だけでなく組織的にも対応すべきだ。時間はなく、もうやらないと再生産は不可能になるのではないか」
(聞き手:坪井聖学)

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