2023年5月18日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉟
所有と船舶管理の分離不可欠
デュカム・内藤吉起社長/内藤陽子専務

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(左から)内藤社長、内藤専務

 内航船の船舶管理会社デュカムは、内航タンカー船主の邦洋海運が同業他社と共に2001年に設立した。内藤吉起社長は「所有と船舶管理の分業化とグループ化は内航船主が生き残るために必要な施策」と語る。内藤社長と内藤陽子専務にデュカム設立の経緯と現状、船員不足などの業界が抱える課題の解決策について聞いた。

■任意ISMコード対応で発足

 — デュカムの事業概要は。
 「旭タンカーと共同所有している5000キロリットル積みの白油船と黒油船、旭タンカーの保有船の6500キロリットル積み白油船と5000キロリットル積み黒油船の合計4隻の船舶管理を手掛けている。管理船は一時9隻まで増えたが、現在はこの規模で落ち着いている。船員は78人、陸上社員は6人だ」
 「会社設立は2001年で、邦洋海運が他のタンカー船主と2社で立ち上げた。当時、外資系の石油元売りが任意ISMコード(国際安全管理規則)の取得を義務化するなど、安全運航に対する荷主からの要望が高まり、邦洋海運も任意ISMコードを取得しようと考えた。しかし、取得には組織体制を強化する必要があり、中小規模の企業が1社で取り組むには限界があった。そこで同業他社と船舶管理会社を設立し、任意ISMコードの取得を進めた。この同業他社が内航から手を引いたため、現在は邦洋海運出身者のみで経営している」
 — 船員確保で取り組んでいることは。
 「コロナ前から新卒採用を強化しており、毎年5人前後を採用している。未経験者の採用も行っており、定員外として乗船してもらい自社で人材を育てている。こういった取り組みの成果もあり、船員の平均年齢は39.8歳と若い。未経験者は本当に船に乗りたい人が多いので、技術を吸収しようという強い意欲があり、定着率も高いのが特長だ。女性船員の採用も続けており、現在は3人在籍している」
 「ホームページでの情報発信にも力を入れ、こまめにブログを更新している。船員経験者が担当し、船員目線で船内での業務や生活の様子を綴っている」
 「教育面では、船長経験者を定員外で乗せて後進の指導に当たってもらっている。船長・機関長クラスの高齢化は著しく、健康上の理由で船長ではなく航海士として船に乗りたいというベテランもいる。そういった方に不安なく働いてもらうとともに、後輩を育成する役目を担ってもらっている」
 「一方、退職理由に変化が出てきていることが気がかりだ。数年前までは当社を辞めて他社のタンカーに乗るケースが多かったが、最近は家族と過ごす時間が欲しいなどの理由から乗船サイクルが短い船種に変える船員が目立つ。3カ月乗船・1カ月休暇の一般的な働き方では人が集まらなくなりつつある」
 — 船員の働き方改革の対応状況は。
 「4月にスタートした産業医制度に関しては、今夏のドック入り前にリモート巡回をしてもらったうえで、ドック入りの際に現地巡回も実施する予定だ。制度開始前から船員の健康管理に注力しており、持病のある船員が通院できるように下船日を決めるなど配慮してきた。産業医制度により、メンタルヘルスなどこれまでより幅広い視点で健康管理ができることに期待している」
 「昨年からスタートした船員の労働時間の管理も含め、陸上スタッフの負担がかなり増えた。陸上でも働き方改革が進んでいるところなので、これまで以上に生産性を向上させないとやっていけなくなる」

■船型や制度の標準化必要

 — 生産性向上のためにどのようなことに取り組むべきか。
 「人材を思うように確保できない状況の中で、輸送を続けていくには船型や制度の標準化が欠かせないと感じる。例えば、航空機は型式によってライセンスが分かれており、同じ型式の操縦を繰り返すため習熟度が高い。一方、内航船は1隻ごとに仕様が異なるので船ごとに技術を身につける必要がある。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)などが同じ船型でシリーズ化して共有船を造るなど、業界全体で標準化できれば船員の負担が減るのではないか」
 「制度面についてもそうだ。例えばECDIS(電子海図表示装置)はメーカーごとに講習を受ける必要があり、時間も費用もかかる。こういったところを一本化していくことが生産性を上げるキーになるのではないか。一歩踏み込んで、荷主同士でもルールを統一してもらえると非常にありがたい。現状では同じ貨物でも荷主ごとに検船や荷役時のルールが異なり、船員もプレッシャーに感じることがある。ここを統一してもらえれば船員の負担を軽減できる」
 「船員のタンカー離れの要因の1つが、荷役時の業務負担の重さだ。寒冷地での荷役は氷点下の中立ちっぱなしなので船員の肩に雪が積もると聞く。船員の負担を軽減できるよう荷主やオペレーターと協力して取り組めたらと思う」
 「自動車の自動運転などは国際的なルールが整備されている。内航船も同様に標準化を進めたうえで自動離着桟などが実現できれば、より少数の船員で運航が続けられるはずだ。そのためには船陸間通信網の整備も重要で、海上ブロードバンドがいち早く普及するよう願っている」
 「ただ、自動化がいつ実用化されるかは不透明なので、まずは船員の確保とソフト・ハード両面での標準化による生産性向上が喫緊の課題だ」
 — 今後の展望は。
 「組織を拡大してスケールメリットを出していきたい。管理隻数が増えれば、陸上スタッフの生産性がアップするだけでなく技術力も上がる。船員をたくさん抱えることができるので、乗船期間の短縮も可能になる。不測の事態で船が止まらないよう、予備員率ではなく予備員数を意識して人材確保に努めたい」
 「業界全体に目を向けると、当社のような所有と船舶管理の分離は必要だと感じる。内航海運暫定措置事業が終了し、各社が競争力を問われる時代になった。働き方改革により、体力のない会社は撤退せざるを得ないだろう。分業化・グループ化は生き残るために必要な施策だという認識が広まればと思う」
(聞き手:伊代野輝)

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