2023年3月29日無料公開記事内航キーマンインタビュー 内航NEXT

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉜
内航船舶管理の質向上目指す
日本船舶管理者協会 望月理事長/永田副理事長

  • X
  • facebook
  • LINE

望月理事長(右)、永田副理事長(左)

 内航船の船舶管理業を対象に活動する日本船舶管理者協会は、業界全体の船舶管理の質を向上させるために行政や他団体も巻き込んだ取り組みを進めている。4月には「2022年度版内航船舶管理者マニュアル」を発行する予定で、国土交通省や日本内航海運組合総連合会などから招いた有識者とともに内容を協議して実務に役立つ冊子とした。望月正信理事長(山友汽船社長)と永田桐哉副理事長(東洋海運社長)に日本船舶管理者協会のこれまでの活動やマニュアル作成の経緯、今後の目標について聞いた。

■船員不足への対応で発足

 — 日本船舶管理者協会の概要は。
 「2006年に発足し、現在の会員数は50社ほどだ。船社やオペレーター、船舶管理会社などの正会員と舶用機器メーカーなどの賛助会員から構成される」
 「発足のきっかけはいわゆる『活性化三法』の施行だ。内航海運業法、船員職業安定法、船員法が05年に改正され、船橋当直を行う船員が全員海技士免許を持つことが義務付けられた。内航船員不足の急激な加速を懸念した船舶管理会社などが集まって同年に設立準備委員会を開催し、オブザーバーとして国土交通省海事局関係者らも参加した。そして翌年に日本船舶管理者協会を立ち上げ、特定非営利活動法人(NPO法人)の認定も受けた」
 「会員を船舶管理会社に限定していないのは、そもそも内航海運では船舶管理会社の数自体が少なくその活用が進んでいないという事情もあるが、船主の自主管理を含めて業界全体で船舶管理の質を向上させていきたいという思いがあるからだ。内航業界は家族経営の小さな会社も多く、外航と比べると船舶管理の重要性への理解が追いついていない側面もある。間口を広くして船舶管理業務の底上げを目指している」
 — 協会の主な活動は。
 「セミナーの開催のほか、国交省の会合への参加など活動内容は多岐にわたる。内航業界は中小零細事業者が大部分を占めており、各企業が個別に船舶管理業務をブラッシュアップしていくのには限界がある。外部から有識者を招いてセミナーを開くなど、会員が業務の質を高められる機会をつくっている」
 「また、個々の企業では行政と意見交換することもなかなか難しいが、NPOであれば発言しやすい。この立場を活かし、07年に開かれた国交省の内航海運業者のグループ化に関するセミナーに参加して実例を紹介したほか、08年発行のグループ化マニュアル作成の事務局を務めた。16年には『内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会』で、船舶管理業務を行う事業者を国が管理するよう調査書を提出した。18年に船舶管理を行う事業者が任意で届け出る『登録船舶管理事業者制度』がスタートし、第三者評価機関として当協会が指定された」

■22年度版船舶管理マニュアル発行

 — 今後力を入れる活動は。
 「4月に『22年度版内航船舶管理者マニュアル』を発行する。21年に当協会が創立15周年を迎えたのを機に、内航船舶管理者マニュアルを初めて作成した。これに大幅な改訂を加えたのが22年度版だ。22年4月に内航海運業法が改正され、全ての船舶管理事業者に登録が義務付けられたのをきっかけに改訂に着手した。21年度版は内航業界における船舶管理の歴史をメインにとりまとめたが、22年度版はそれに加えて実務で役立つ内容を盛り込んだ。具体的には、船舶管理事業者の登録や船舶管理契約、船員の雇入れに必要な手続きについて書類の見本なども交えて示した。また、甲板部・機関部の保守計画や運航実施基準も例示した。船舶管理の実務についてまとめた資料はほとんどないため、多くの事業者の方々の参考になる内容となったのではないか」
 「改訂のための編集委員会には行政や他団体からも参加いただいた。座長には学識者を招き、国交省海事局の内航課長と船員政策課長、日本内航海運組合総連合会の海務部長にも委員やオブザーバーとして意見を述べていただいた。当協会からは、海洋共育センターや内航ミライ研究会にも参加している若手経営者が入り、活発な議論が交わされた。その過程で保険手続きについても掲載しようと決まり、保険会社にもご協力いただいた」
 「22年版マニュアルを会員に配布後、説明会を開きたい。内容を充実させたがゆえにじっくり目を通さないと理解が難しい面もありそうなので、実際に活用してもらえるようフォローアップを行う。また、会員以外にも有償配布し、業界内の船舶管理の質向上に役立ててもらうとともに、協会への加入のきっかけになればと思っている」
 「具体的な予定はまだないが、今後も同マニュアルを適宜改訂していくことになると思う。今回は船舶管理について広く全体を通して説明したが、船型や船種ごとの内容を追加するといったアプローチも考えられる。会員の意見を集めて方向性を検討していきたい」
 「中長期的には、内航業界の船舶管理のクオリティを高める中心的な役割を果たしたい。当協会は船主もオペレーターも所属しており、双方の意見を取り入れて中立的な立場から発信できることが強みだ。多様な視点を得るためには会員増強も欠かせない。船舶管理事業者に登録が義務付けられたことにより、これから正確な事業者数が明らかになる。こういった情報も活用しながら会員数を増やしていきたい」
(聞き手:伊代野輝)

関連記事

  • カーゴ
  • 第10回シンガポールセミナー