2023年2月20日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉙
脱炭素でスクラップ輸送に脚光
豊國海運・相田豊社長(日本内航運送取扱業海運組合前理事長)

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 内航船オペレーターの豊國海運の相田豊社長は、製鉄の脱炭素化の流れによって電炉向けの鉄スクラップの輸送量が増加し、内航船の主要貨物になりつつあると語った。これに対応して同社は運航船隊を10隻に倍増させるほか、船主・造船所と協力してスクラップ輸送の標準船型を確立する考え。相田氏は日本内航運送取扱業海運組合の理事長を2022年6月までの6年間務め、現在は常務理事。利用運送業である内航運送取扱業の現状と今後の課題も聞いた。

■船隊拡大しスクラップ輸送需要に対応

 — 豊國海運の事業概要は。
 「内航船のオペレーター業と内航運送取扱業を手掛けている。運航船隊は一時24隻まで拡大したが、リーマン・ショックを機に半分に減らし、その後も売船を進めて現在は5隻まで縮小した。かつては鋼材、飼料などを主力としていたが、数年前にスクラップ輸送に注力することを決めた。ある試算では現在国内のスクラップ輸送の4分の1を当社が担っている。スクラップは船体が痛みやすいといった理由から敬遠される貨物で、当社がスクラップ輸送を始めたのもの元々は消極的な理由からだった。ただ、カーボンニュートラルが叫ばれる中で高炉製鉄よりもCO2排出量が少ない電炉製鉄が脚光を浴びるようになり、技術の進展で電炉でつくることができる鉄鋼製品の種類も増えた。日本のスクラップは品質の高さからこれまで輸出されることが多かったが、これからは国内の電炉で消費していくことになり、内航船が活躍するチャンスも増えるだろう。その中で外航船社を含めて内航のスクラップ輸送に進出するケースが出てきている」
 「当社もスクラップの輸送需要の増加に対応して船隊を再び拡大する。24年に新造船が2隻竣工し、中古船の購入も検討しており、数年以内に10隻体制にしたいと考えている。スクラップ輸送に対する船主の意識も変わってきており、これまでは船体が傷むからと敬遠されていたが、最近は新造船を当社に預けるのでスクラップを運ばせて欲しいと声をかけられるようになった」
 「スクラップを運んでも傷みにくい船を船主・造船所と相談しながら造りたいと考えており、スクラップ輸送の標準船型を確立したい。一方、荷主からスクラップの需要増に伴い船型の大型化を打診されたが、荷役の問題があるため難しいと答えた。働き方改革によって昔のように夜通しの荷役などが今はできないからだ。このため、現状では標準的な499総トン型がスクラップ輸送に適しており、荷主がヤードを増やすことで輸送効率を高めるという対応がとられている。このように荷主と密に相談を重ねながら日々ブラッシュアップしている」

■コスト増が利用運送業の収支圧迫

 — 日本内航運送取扱業海運組合の活動についてお聞きしたい。
 「1965年に創設された組合で、内航船を使った利用運送事業を手掛ける事業者で構成されている。2003年に貨物運送取扱事業法が貨物利用運送事業法に改正されたが、組合名に内航運送取扱業という言葉が残っている。組合加入社数はピーク時は約120社で、商社なども加入していたが、規制緩和を契機に激減し、現在は37社だ。以前は専業も多かったが、現在は当社を含めてオペレーターや港湾関連などの基盤となる事業を持ったうえで取扱業を行っている会社がほとんどだ。組合員の地域では沖縄が3割を占め、支部を置いている。当組合は上部団体がないので行政に対して意見をダイレクトに伝えられるのが強み。このメリットをアピールして加入社を増やしたい」
 — 内航海運業と内航輸送取扱業の課題は。
 「これまでは瀬戸内や九州をはじめとして内航船の船主が沢山いたが、苦労してきた親の姿をみて家業を継がずに廃業するケースが増えている。これからの時代に内航船を維持するためには、オペレーターが自ら船を造って保有する必要があり、さらに進んで荷主とオペレーターが船を共有する時代も遠くないと感じる」
 「船員不足も重要な問題。より高い給与を求めて会社を転々とする船員も多くなった。内航船員の高齢化が深刻で、今は60代でも若いという印象だ。高齢の船員はどうしても健康問題が出てくるため、当社はIT企業と組んでオンライン診療の実証を進めた。船内にタブレット端末を置き、診療の結果薬が必要と判断されればドローンで船に運ぶといった構想だ」
 「船員費、船の整備費、燃料費などが増加し、船社は利用運送事業者に運賃の値上げをお願いするが、利用運送事業者はなかなか荷主に値上げを言えず、荷主とオペレーターの板挟みになる。コストが増えると利用運送事業者の利幅も減ってしまう。諸課題に対応しながら内航海運業を継続していくために必要な適性価格について、オペレーターだけでなく利用運送事業者も共通認識を持つことが重要だと考えている」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

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