2023年1月25日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉘
中央と地方の意思疎通改善を
関東沿海海運組合 榎本成男理事長

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 全国海運組合連合会(全海運)傘下の地方組合の1つである関東沿海海運組合の榎本成男理事長(榎本回漕店社長)は、地方海運組合の目から見た内航業界団体の課題について、「特に課題だと感じるのが地方と中央の意思疎通の方法だ」と語り、インターネットなどを活用した中央と地方のコミュニケーションの促進などを提言した。

■組合の統合も視野に議論を

 — 関東沿海海運組合の現状は。
 「組合員数は現在75社で、オペレーターと取扱事業者が多いが船主も所属している。活動状況は、2カ月に一度理事会を開いているほか、関東地方船員対策協議会の事業として小中学生や海上技術学校・水産高校への講演会、業界PR活動などを行っている。関東地域の内航海運事業者数自体は近年はほぼ横ばいだと思うが、当組合の組合員数は減少傾向にある。これまで加入していなかった内航取扱業者などにも参加して頂いたが、会員数を維持するのはなかなか難しい」
 — 地方海運組合の目から内航海運業界団体の課題をどのように考えているか。
 「特に課題だと感じるのが地方と中央の意思疎通だ。現在の体制では日本内航海運組合総連合会(内航総連)と傘下の5組合、地方組合までの間の情報伝達が伝言ゲームのようになっていて、情報が伝わる過程でぼやけたり抜けが生じるなど、必ずしもうまくいっていないように感じる。私自身は内航総連の理事会にも出席しているためそこで直接中央の情報を得ることができるが、内航総連に対する船主・オペレーターからの声が必ずしも正しい情報を基にしていないと感じることもある。そこは情報伝達の方法を変えることでかなり解消できると思う。例えばウェブを活用するなどしてダイレクトなやり取りができれば、齟齬が減るのではないか」
 「中央も地方の海運組合も組織を維持するためには会員数を維持する必要があり、それができないなら会費を値上げしなければならない。一方で、組合間で重複したり時代に合わなくなりつつある活動もあると思うので、事業の選択と集中を行うべきだ。内航海運業界が取り組むべき課題は船員関連だけでも山積しているが、内航総連と傘下の組合が何をどこまでやるかを、立場ごとに意見が異なる中でまとめなければならない。その際にも中央と地方と密に連携してコミュニケーションを図る必要がある。将来的には中央と地方それぞれで組合の統合も視野に入れて議論すべきだと個人的に考えている」

■船員のPRに注力

— 内航海運の最大の課題とされる船員の確保育成に対する業界の取り組みをどう考えるか。
 「船員という職業のPRに業界を挙げてさらに注力する必要がある。私が会長を務める関東地方船員対策協議会では、小中学生に内航業界について周知する活動を行っている。一般の方々は内航海運という業界自体を知らない。高校に入学する前に知ってもらうことで、進路の選択肢になりうる。中学校卒業者が入学できる海上技術学校は現在全国に3校(館山、唐津、口之津)しかなく、唐津は来年度から短大化される。若者が業界に入りやすくするために選択肢は多いほうがいい」
 「榎本回漕店では以前から船員の年間120日の休日を確保している。3カ月乗船して1カ月休暇、年間休日90日が内航船員の一般的な休暇サイクルなので、それと比べて当社は休みが多い。その効果もあってか当社では船員の採用にはそれほど困っていない。陸上では週休三日制も検討されている中で、船員だけ休日が年間90日しかないというのは求人を行ううえで非常に不利になる。業界全体で休日を確保するには船員数を増やすしかなく、まずは内航海運業界に興味を持って頂く人を増やすことが重要だ」
 「女性船員の採用も進めていくべき。ただ、船員の確保が難しいという声を耳にする一方で、女性船員が就職に苦労したという話も聞く。当社も対応がなかなか進んでいないのが実情だが、業界全体で取り組んでいかければならない課題だ。受け入れる男性船員にもどのように接すればいいか分からないという戸惑いがあるが、課題を克服した会社の事例を共有しながら、男女の船員双方が気持ちよく働ける職場づくりをしていければと思う」
 — 内航船員の働き方改革の一環で2022年4月から船員の労務管理を強化する改正船員法が施行されたが、対応状況は。
 「榎本回漕店では労務管理アプリを使って船員の労働時間を記録している。さまざまな企業がアプリを提供しているので、さらにブラッシュアップされていくことを期待している。また、すぐに実現するのは難しいが、自律運航や遠隔操船などの新たな技術の開発を推進していかなければならない。現在さまざまな実証試験が行われているが、実用化のためには船上の通信環境の改善が必須だ。携帯電話がつながらない海域が一部あるので、安価で使用できる低軌道衛星システムに期待したい。通信環境が整備されてデータの蓄積が進めば、状況は一気に変わるのではないか。ベテラン船員の退職が増えてくると技術的なサポートがこれまで以上に必要になるので、そういった場面でもデータの活用は活きるだろう」
 — 船員の働き方改革では2023年4月に産業医制度もスタートする。
 「船員の健康確保に向けてはリモート診療システムが有効活用できるのではないかと思う。榎本回漕店でリモート診療をテスト導入し、現在は船員の平均年齢がそれほど高くないのであまり利用していないが、年齢層が高い船を中心に需要はあるだろう。一方、持病の薬なら休暇の際にまとめてもらえばそれで十分という方もいる。産業医制度やリモート診療システムを実際に運用していく中で現場が本当に求めていることが分かってくると思うので、4月の制度開始を契機に改善していけばいい」

■脱炭素へ出力ダウンも一案

 — 脱炭素も内航海運業界が取り組んでいなかければならないテーマだ。
 「中小企業が大部分を占める内航海運業界で脱炭素に向けた技術開発を自分たちだけで行うのは難しく、またある程度のコストで導入できなければ普及しない。技術を開発する造船所・舶用機器メーカーとわれわれが情報を共有しながら目指す方向性を定める必要がある。代替燃料については、内航船は小型船が圧倒的に多いためLNG、アンモニアは難しいのではないか」
 「内航船では近年安全運航の意識の高まりから避難率が向上しており、荒天下で出力を上げるための大出力のエンジンが不要になりつつある。航路や船種にもよるが、エンジンの出力を落とすことによる省エネ効果を検証する価値はあると思う」
 「内航船の荷主は大手企業が多いため、環境問題を非常にシビアに考えている。輸送中のCO2排出削減について足元でできることはそれほど多くないが、いずれ荷主から要望が出てきた時に対応できるよう準備しておく必要がある。荷主もコストを負担して輸送中のCO2排出削減に取り組む事例が今後増えていくだろう」
(聞き手:深澤義仁)
 

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