2022年12月21日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉕
新たな船舶管理確立へ陸上支援など強化
イコーズ・畝河内毅社長

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 内航船の船舶管理会社イコーズ(山口県周南市)は、業界全体の課題である船員の確保育成への対応で海技資格を持たない一般学卒の採用・育成などに取り組んできた。将来を見据えて自律運航船・水素燃料船の開発などの業界横断プロジェクトにも参画し、重要な役割を果たしている。畝河内毅社長は「陸上からの業務支援などの取り組みをさらに加速させ、新たな内航船の船舶管理のビジネスモデルと内航船員の将来ビジョンを打ち出していきたい」と語った。

■一般学卒者・陸上転職者から船長誕生

 — イコーズの現在の管理船の隻数は。
 「18隻で、船種の内訳はコンテナ船8隻、貨物船7隻、ケミカルタンカー2隻、LAG(液化アンモニアガス)船1隻。管理受託先の船主は十数社(自社船4隻)で、地域は日本全国だ。当社は2000年に発足し、管理船は10~11年のピーク時に32隻まで拡大したが、その後は減少基調で推移している。もとは保有船が1隻から複数隻の一般的な内航船主5社が集まり、将来予想される人材不足を見据えて人が集まる仕組みをつくりたいという思いで立ち上げた会社だ。当初は管理船を増やすことを目標に掲げ、スケールメリットで差別化を図りたいと考えた。ただ、管理隻数と船員が200人近くのピークに達した10年ほど前から業界全体で船員の不足感が急速に感じられるようになった。ちょうどそのころ、急速な業容拡大にも起因した大きなトラブルを引き起こしたことをきっかけに、数を増やすよりも内容と質を見つめ直すことに方向転換を行った」
 「現在の船員数は約140人で、船員の平均年齢は約50歳。海技教育系の学卒者がなかなか採用できないこともあり、同じ海事関係者の皆さんと組織している『海洋共育センター』の6級海技要請コースも利用しながら、10年ほど前から海技資格を持っていない一般学卒者を含む毎年3~4人の新人を採用している。ここにきてようやく彼らの中から船長が育ち始めており、当社の中で育った船員たちなので会社への帰属意識も強い。船員の定着率の向上は業界全体の課題でもあるが、そういたった採用ソースからの生え抜きが新時代を担う船長として定着し始めたのは非常に楽しみなところだ」

■自動運航・水素燃料船開発に参画

 — 船員の定着率向上のために取り組んでいることは。
 「どのようにしてモチベーションを上げるかを常に考えており、その1つがキャリアアップを明示すること。当社では船員の給与のクラスを35等級に分け、職員レベルの等級に達するまでは年に2回評価を行って能力に応じてスピーディーに昇格している。また、当社はコンテナ船、貨物船、タンカーなどのさまざまな船種を管理しているため、船員自身や教育指導においても幅広いノウハウが応用できるのもメリットだ」
 「休暇ローテーションは船員の要望も踏まえて船種によって変えている。通常のインターバルは2カ月乗船・二十数日休暇の年4回休暇だが、例えばコンテナ船は入出港が多いなど忙しい船種なので45日乗船・15日休暇の年6回休暇にしている。船員の働き方改革の目的の1つが陸上の仕事に近づけることなので、その観点からも休暇のインターバルを極力短くしたい」
 「将来的に船員の確保につながる取り組みとして、自律運航・遠隔支援の研究開発プロジェクトに参画している。自動化への取り組みを始めたのは7~8年前で、当時から自動車の自動化が叫ばれていたが、海運、特に内航船の自動化は全くの手つかずの状態だった。そのような中で自動化について手探りし、外航オペレーターや大手造船所などの方々との結びつきができた。自律運航船の実証実験は国内ルールで対応できるといった理由から、海外でもまず内航船で行うケースが多い。一方でわが国の内航船は船員不足をはじめとして多くの課題を抱えているため、内航船こそ自律運航の取り組みを進めるべきという考えを多くの事業者や荷主、そして行政の皆さんと共有して頂けたことは大変有難かった」
 「日本財団が主催する無人船実証プロジェクト『MEGURI2040』で、DFFASコンソーシアムメンバー30社のうちの1社として参画し、当社が管理する749総トン型コンテナ船“すざく”を使って世界初の輻輳海域における無人運航の実証試験を行った。一方、遠隔監視や船内作業の自動化による労務負担の軽減などに関心を持つ仲間が集まって『内航ミライ研究会』が発足した。人口が減少しても大量輸送サービスを維持するのがわれわれ内航海運業界の使命。また、こういった取り組みを通じて安全性が高まり、船内作業が合理化されて労働環境が改善できるということを現役船員や船員を目指す多くの若い皆さんに知って頂きたい。しかし、新技術の導入には搭載スペースやコストなどの大きな問題があり、また、導入効果を最大化し実際に普及を促していくためには現行ルールを見直していく必要がある。検証を重ねて導入が進めば、その効果は、人口減少社会でも大量輸送サービスを発展継続するという明確な形で、荷主やわが国の経済活動全体にも好影響をおよぼすことができる」
 「自律運航船の将来の実用化に向けては、陸上からの支援が重要になる。当社の特徴の1つとして陸上スタッフを約20人抱えており、機関室の遠隔監視やAIS(船舶自動認識システム)による航海管理、カメラ映像による安全運航の確認などの陸上からの支援に既に取り組んでいる。船上の業務負担軽減の観点からもこういった取り組みをさらに加速させ、新たな船舶管理のビジネスモデルと内航船員の将来ビジョンを打ち出していきたい」
 「また、陸上支援の高度化には安価で途切れない通信が不可欠だ。まずは海上の通信環境の現状を把握するため、内航ミライ研究会と共に携帯電話の電波強度を調査している。将来的には次世代衛星通信による海上ブロードバンドサービスなどを導入したい。業務上の利用だけではなく、流行りのNetflixやYouTube、対戦ゲームを船上で制限なく視聴、交信できるようにするなど、船員の福利厚生にも役立てる」

■働き方改革にデジタルで対応

 — 今年4月にスタートした船員労務管理強化への対応状況は。
 「社内では働き方改革と生産性向上を同時に行うという中期的な経営方針を説明している。当面の実務的な課題は労働時間の管理で、管理船と船員が多いため労務管理のデジタル化に取り組んでいる。いくつかのサービスを比較検証し、来年春ごろには導入したい。また、来年4月にスタートする産業医契約制度への対応では、サービスプロバイダーとタイアップして船上でオンライン診療と薬の調達が行える体制を構築する。働き方改革として、陸上と全く同じサービスを海上でも実現することはむずかしいが、DXの導入により限りなく同じような環境に近づけていきたい」
 — 内航海運業界の課題解決に向けた船舶管理会社の役割をどう考えるか。
 「船舶管理会社というのは、一定規模の隻数の管理を効率よく行う手法の1つ。個々の船主が少数隻を管理するよりも船員の雇用育成などでスケールメリットを発揮でき、船員も安心して働くことができる。ただ、船舶管理会社をつくって船を集めさえすればいいという時期はもう過ぎている。その会社が船員の将来ビジョンをどのように示し、人が集まり育てる仕組みをいかに具体的に構築していくかということが問われる時代になったと感じている」
(聞き手:深澤義仁)

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