2022年12月9日無料公開記事内航NEXT 内航海運事業者対談

<内航NEXT>
《連載》内航海運事業者対談③
働き方改革、荷主の理解を
青野海運・青野社長×宮崎産業海運・宮﨑社長

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<対談参加者(社名五十音順)>
青野海運 青野力社長
宮崎産業海運 宮﨑昇一郎社長
司会 日刊海事プレス副編集長 深澤義仁

■運航に支障も

 ― 今年4月にスタートした船員の働き方改革(船員の労働時間管理強化など)の事業への影響と、来年4月の働き方改革第2弾(船員の健康確保強化など)への対応は。
 青野「今年4月の法改正は当社にとってはこれまでの延長線上なので、事務量は増えたが現場が混乱して船が止まるなどといった大きな混乱はない。目下の問題は労働として明確に線引きされる業務が出てくる影響で見かけ上の労働時間が増え、特にタンカーは超過労働がクローズアップされる可能性があることだ。これまで当たり前にやっていたトレードパターンの変化は不可避だろう。それでわれわれの収入が減少した場合は運賃転嫁しなければならず、すでに来年4月の運賃改定に向けての交渉準備に入っている。荷主にご理解頂ければ問題ないが、そうならないことを危惧している。この法改正は取引先の理解を前提とした制度のはずで、それができないと、労働時間を守るために船の稼働が低下して会社の利益が圧迫されるだけでなく、船員の手当分の給与も下がる。タンカーは荷役とクリーニング作業があるのでどうしても労働時間が超過傾向になる。しかも、複数の荷主の貨物を輸送しているため、皆さんに等しく状況をご理解頂く必要がある。場合によってはこれまで何とか回してきた輸送を急にできませんと言わなければならなくなるため、どのような反応があるか恐い。船の現場も戸惑いがあると思う。船員を増やせばよいではないかという意見があるが、それができる環境ではないから今の議論になっている」
 宮﨑「働き方改革は当たり前のことを当たり前にやるということで、むしろなぜこれまでやっていなかったのかというのが出発点だ。厳格にやっていくと船の定員の問題にもなっていくが、それを荷主が理解してくれるかという問題がある。省人化で人を減らしてきたが、働き方改革を実行すると定員の問題や時間外労働の問題が出てくる。極端な話、定員を増やせない、あるいは労働時間の管理をどんどん強化・厳格化していくと、船も土日は休ませてくださいという話になる。厳格にやると船の運航に支障が出てきてお客様にも迷惑をかけることになるが、これはルールだから守らなければならないということをどこまで理解して頂けるのか。実際に運用が始まったばかりなので、影響がどのように出てくるかは不透明だが、定員の見直し、休日の見直しなどに発展する恐れは十分あるし、船主の立場としては人材確保の観点からもルールを順守するためという正当性を主張していきたい」
 「ただ、産業医制度はあまり意味がないと思う。われわれも産業医を選任しているが、ただ登録しているだけで、医師が船に行って船員の健康管理をしてくれるわけではない。会社に産業医がいるだけで船員が健康になるというわけでもない。会社がきちんと産業医を付けてメンタルも含めてしっかり健康管理しなさいという制度だとは理解しているが、実効性があるのだろうか。陸上社員の場合は実際に会社に来てくれて健康診断などで診てくれるから分かるが、海上の場合は産業医が現場の船に行って診てくれるわけではない。行政としても運用をもう少し工夫してもらいたい。例えば、実際に何カ月に1回は訪船しないといけないという具体的な診察の制度などはどうだろうか」
 青野「産業医制度については手探りの状態で始めているという感じだ。当社は支配船員が50人を超えているが、船員の所属会社が分かれているため産業医の選任が義務付けられる対象会社ではない。ただ、社員の健康確保は企業存続のためには絶対に必要なことなので、法律に関係なくやるというのがわれわれの考え方だ。そうしないとやらされ感が出て来る。それが一番ダメだ」
 宮﨑「制度が形骸化して名ばかりのものになってしまうのが一番よくない。陸上の制度をそのまま持ってくるだけでは、船員の健康管理のためにはならないのではないか」
 青野「当社は産業医を選任する義務はないが、自主的に選任してメンタルヘルスのアンケートを取るなどの手探りの活動を始めていて、その結果を受けて、この人はストレスを抱えているとか、この人はマインドが下がっているといった話を産業医と相談する形にしようと取り組んでいる」
 ― 両社では船員の労務管理規制強化によって船が止まるといった影響は出ていないということだが、業界全体としては影響が出ているのか。
 青野「船が止まるというような影響は出ていないと思う」
 宮﨑「実際にお客様に迷惑が掛かっているかどうかは分からないが、今後はそういった話に発展せざるを得ないのではないかと思う。実際に当社も自動車船の定員を見直している。自動車船は時間外の問題で労働時間が増えるので、これまでの12人から14~15人に定員を増やして4時間交代のウォッチを3時間交代に変更するなどの対応を行っている」

■内航脱炭素化の道筋

 ― 次に内航海運の脱炭素化についてお聞きしたい。2030年度に13年度比17%減という現在の内航海運のCO2排出削減目標をどのように捉えているか。
 宮﨑「17%削減という目標はよいが、具体的にどのように計算するのかという基準がまだ固まっていない。例えば外航船のEEXI(就航船燃費規制)、CII(燃料実績格付け制度)のような燃費規制は内航船ではまだ予定もない。まずそこから話を始めないといけない。目標があるのはよいが、それをどうやってチェックしていくのかが分からない。われわれとしても基準がないと計算のしようがない。内航船と言っても大きさも違うし、十把一絡げにしてやれと言っても無理がある。物理的な制約もある。どういう基準をどういう船に対して適用していくのか。例えば大型船だけを対象にして小型船は免除するなど、ロードマップを作っていく必要があるだろう」
 「個人的に内航船のCO2削減で効果的で実現性がある手段は、燃料を変えることだと思っている。既存のエンジンをアンモニアや水素用に変えるのは無理な話なので、取り得る対応はバイオエタノールなどの燃料に代えてCO2排出量をセーブすることだ。これは実現可能性が高いのではないか。ただ、新燃料をサプライできる港が限られているので、全船というわけにはいかない。このような形で徐々にCO2を削減することを目指していきたい。リチウムイオン電池利用なども、現状では航路が限られたり小型船しかできないといった制約はあるものの、CO2削減には有力な手段だと思う」
 「外航船のようなアンモニア焚きやLNG焚きは、内航船では大型船など特定の船を除き非常に難しい。重油焚きでも今後さらなる省エネエンジンが開発されるだろうし、究極的にはスピードを落とすことでCO2を大きく削減できる。また、船型の工夫によるCO2削減の余地もまだあると思う。これはあくまでも私の持論だが、船の世界は開発のスピードが遅い気がする。自動車メーカーは昭和50年代からエンジンをいろいろ改良して、CO2を削減する環境対応エンジンを次々と開発してきたのに、海運業界はようやく環境対応エンジンを開発している状況ではないか、と指摘されたことがあった。アンモニアやLNG焚きの検討前に、まずは究極の省エネタイプの重油焚きのエンジンをつくるべきだろう。特に内航の場合は燃料タンクの設置スペースなどの制約が多いので、リプレースを進めて新型の省エネ重油焚きエンジンに切り替えていくべきではないか。それが一番効果的と考えている」
 青野「2030年度に17%減という目標は、減速航行だけで十分に達成できる数字ではないかと私は思っている。われわれは2008年からグリーン経営認証を取得して減速航行をしているが、それ以降足元までで、減速航行だけで貨物1トン運ぶのに必要なCO2の排出量を12%以上削減している。小型船でもそれだけ削減できるのだから、全内航海運業者がやれば20%くらいの排出削減になるのではないか。ただ、結果として船のスピードが落ちるわけだから、現在のロジスティクスは絶対に維持できなくなる。それに加えて、内航船員の働き方改革もあるので、労働時間が増えて現場が混乱する。機関トラブルのリスクも増える。それらをどう考えるか、どちらが大事なのかというのは荷主に決めて頂かなければならない」
 「また、私のもう1つの懸念は宮崎さんと同じく排出量基準がどうなるかだ。われわれは内航船の投資に外航船も加わるので、1隻の単位輸送当たりのCO2排出量は減っても、船隊拡大に伴い企業としての総排出量は右肩上がりに増えている。それがどのように判断されるのかが気になる。企業の総排出量に一律で課税するという方向になってしまうと脱炭素船にしか投資できなくなる。当面は1隻当たりの排出量を減らせばいいのだと信じているが、指標と方向性をはっきりして頂きたい」
 

宮﨑氏

青野氏

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