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2025年4月17日無料公開記事今治の中堅造船業と20年 内航NEXT

《連載》今治の中堅造船業と20年⑤
カナサシと2工場体制で建造効率最大化
村上秀造船・村上英治社長

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 内航船やLPG船、ケミカル船、近海貨物船をプロダクトミックスで建造する村上秀造船。この20年で船台の拡張やカナサシ重工のグループ化などの設備投資を進め、売上高も200億円規模に増加した。特色とする「オートクチュール」とともに、今後はマーケット動向に基づいた標準船型の開発・シリーズ受注にも積極的に取り組む方針だ。村上英治社長はカナサシ重工との新造・修繕でのシナジー効果を最大化すべく「両工場の良い面を取り入れながら、より効率的に船を建造していく」方針を示す。

■船台拡張・2工場体制に

 ― 今年で今治市が合併20周年を迎えた。この20年を振り返ってほしい。
 「伯方町が今治市になり、今治市の造船振興計画で埋立工事を実施して、土地を購入し、工場を拡張した。実績ベースでバルカーが2万5000重量トン、ガス船が1万5000立方メートル型を建造できるように船台も拡張して、ブロック定盤も整備し、現在の工場の形になっている。2014年にはカナサシ重工(静岡県静岡市)をグループ化し、新造船と修繕の2本柱で営業活動を進めている。売上規模も大きくなり、今期(2025年11月期)は船価の上昇もあり、200億円規模を計画している。現在のインフレを考慮すると、その水準は維持していきたい」
 ― 村上秀造船とカナサシ重工の両工場のシナジーは。
 「カナサシ重工は修繕拠点としての立地が良く、顧客のニーズにより一層応えられるようになった。カナサシ重工はもともと漁船や官公庁船、平水域のフェリーの修繕が多かったが、グループ化以降は当社が主力とする内航タンカーの修繕も増えている」
 「カナサシ重工は当社よりも工場敷地が広い一方で、マンパワーが当社の約半分なので、工事量自体は増えていない。両工場の良い面を取り入れながら、より効率的に船を建造していく」

■オーダーメードとシリーズ建造

 ― 建造船種は。
 「当社はもともと液体を輸送する船の実績が多いが、コロナ禍にツインデッカーの近海貨物船を十数隻建造した。ツインデッカーは鋼材使用量が当社の従来メニューと比べて多く、インフレの影響も受けやすく、現在は1万5000立方メートル型のLPG船を建造している。その後は1万3000重量トン型ケミカル船と自動荷役装置を搭載した5000キロリットル型の内航タンカーのプロダクトミックスの体制になる。カナサシでは、物流費の上昇で瀬戸内地域からのブロック輸送コストがかさむので、小型船型で今後需要が見込める内航の2000キロリットル(999)型タンカーを連続建造していきたい」
 ― 村上秀造船の特色・強みは。
 「オートクチュールを強みにやってきたが、1隻ごとに新しい船型を設計・開発するのに規則対応や省エネ・環境性能の向上にも対応する必要があり、設計期間が以前よりも長くなっているうえ、日本の造船業全体として設計リソース不足の状況もある。全く新しいデザインを2隻続けて受注するのではなく、基本船型を連続建造できる船種とのプロダクトミックス体制でやっていきたい。例えば、ケミカル船では市場調査を踏まえて港湾制限などを網羅した船型コンセプトを開発してシリーズ建造するという形でも展開している」
 「内航船は同じ船型でも1隻ごとにデザインや仕様が異なることが多かったが、物理的な時間・人的資源という観点から時代とともに対応するのが難しくなってきており、標準船型・仕様の形に近づけていかなければ、今後建造する造船所も減少してしまうように思う。当社でも2000キロリットルの999型内航タンカーのシリーズは、同じメーカーズリストの仕様の省エネ船として10隻以上建造している」
 ― 新燃料をはじめとした環境対応船の取り組みは。
 「カナサシ重工でメタノール燃料の内航タンカーを建造した。当社が建造する小型の船種の多くは新燃料に対応した主機がまだなく、燃料タンクの問題もあり、まだ方向性が定まっていない。高齢船を重油の最新鋭船に代替するだけでもCO2排出量を減少できるので、まずは重油焚きの省エネの最新鋭船に取り組む。当社の999型の内航タンカーシリーズは内航船省エネルギー格付制度の五つ星も頂いている」

■新規商談は3.5年先へ

 ― 現在の手持ち工事の状況は。
 「現在は2028年後半納期の商談を進めている。コロナ禍以降は事業環境が大きく変わり、現在はマーケット動向に加えて、操業や調達の問題、人手不足、インフレ、環境問題などさまざまな要因がある中で、3~4年先の話を進める難しい状況となっている」
 ― 今後の課題は。
 「数多くあるが、特に人材の確保・育成、技術継承、建造設備が大きな課題と捉えている。まずは船を造れるような設計・現場を若い人に継承していかなければならない。技術の継承だけでなく、船の建造を10~20年継続するために現在の建造設備のままで良いのかという問題もある。DXの活用も試行錯誤で取り組むべく努力はしているが、成果として形になるまでは時間がかかる。また、人口減少が進むなか、外国人材を積極的に活用している。目的意識があり優秀で、伯方島に戸建てを購入した外国人従業員も2人いる」
 「新造需要は今後もあると考えている。特に内航船は船員不足の問題や老齢船の多さが顕在化しており、日本国内の物流の約半分が海上輸送とされるなかで社会的な責任もあり、当社としても内航タンカーの建造を継続していく」
 ― 海事都市今治との関わりは。
 「40歳までの若手を対象とした造船所、船主、舶用、損保、銀行などが集まる今治市の交流会が開催されているほか、当社として日本中小型造船工業会を通じた進水式見学会なども実施している。今治には造船所、船主、舶用など日本海事クラスター全体の中枢企業が集まっており、バリシップが開催されるようになってからその認知度も向上しているように思う。バリシップを通じて今治と業界が盛り上がればというのが一番の思い。船の重要さを来ていただいた皆さんに知っていただけたらと思う」
(聞き手:松井弘樹)

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