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2025年4月11日無料公開記事今治の中堅造船業と20年 内航NEXT

《連載》今治の中堅造船業と20年③
内航・近海船できめ細かくニーズ対応
伯方造船・木元裕行社長

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 内航タンカーや近海ケミカル船などを主力とする伯方造船。友好顧客向けを中心にニーズをきめ細かく取り入れながら使い勝手のよい船を造り上げてきたのが強みで、省エネ船型の新型タンカーの開発・建造にも取り組んでいる。新規商談が2029年まで進むなか、木元裕行社長は課題としてインフレと人手不足をあげ「設備投資を含めて労働環境の整備を進める」方針を示す。

■新規商談は29年納期へ

 ― 今年で今治市が合併20周年を迎えた。この20年を振り返ってほしい。
 「今治市の造船振興計画で2010年に埋立工事を実施して、この土地を購入し、敷地面積を拡張した。敷地の拡張に伴って、新造用の2号船台、修繕用の1号船台とも約15メートル船台を延長し、岸壁も整備した。これがこの20年で最も大きな設備投資になる。市町村合併前の伯方町だけでは愛媛県に対してこうした申請・施策はできなかったので、市町村合併により各社が恩恵を受けたと思う」
 ― 新造船と修繕船事業を手掛けているが、ここ数年のメニューや実績は。
 「主力製品は内航の油タンカー、近海ケミカル船、コンテナ船だ。従来から取引のある友好顧客向けの建造を大切にしてきたので、船型の大型化や無理な増産はしてこなかった。ここ数年の建造隻数は年間4~6隻の水準だ。修繕は入渠工事が年間約40隻で、そのほかに沖修理がある」
 ― 足元の受注状況は。
 「新規の引き合いは29年まで進んでいるが、造船所も船主も先の価格が読めないので、新造整備計画が立てづらい」

■労働環境を念頭に設備投資

 ― 伯方造船の特色や強みは。
 「内航タンカーや近海船で馴染みの付き合いのある顧客向けを中心にして、顧客の要望を細かく取り入れながら最新のルールを適用させることで、より使い勝手の良い船を造り上げてきた。海事産業強化法でも省エネ船型の新型タンカーの開発・建造が認定されている。今後もその強みを活かしていきたいが、働き方改革の影響で従来のようにニーズに応えていくことが難しい面も出てきている」
 ― 設計では3次元CADの活用も早くから進めてきた。
 「現在は船殻に加えて、配管などの艤装にも3次元CADを活用し始めている。設計段階で間違いを減らす目的に加えて、若い人が取り組みやすいよう2008年から導入を進めてきた」
 ― 設備投資の状況は。
 「2017年に200トンに代替したクレーンなどの建造設備だけでなく、働きやすい職場作りを念頭に置いて取り組んでいる。人材確保策として2021年に独身寮も新築した。当社は本社社屋を含めて1995年に大掛かりな工事をしており、定期更新の時期に現在差し掛かってきているので、労働環境の整備や仕組み作りを考慮しながら設備投資を進める。グループウェアの導入やクーラーの増設など現場の意見も取り入れながら細かな取り組みも進めている」
 ― 課題は。
 「働き方改革や世代交代、日本の人口減少による人手不足への対応、インフレに対応した収益の確保だ。人手不足への対応としては設備などの労働環境の整備のほか、賃上げ、休日の増加、中小型造船工業会で実施している外国人材の活用も進めており、インドネシア人の方に設計として働いてもらっている」
 「人手不足は新造船事業だけでなく、修繕船事業への影響も深刻で、修繕ドックや造船所が個別に対処できる範疇を超えている。例えば、内航船は延命による高齢化も加速しているが、古い船ほど修繕の入渠期間が長いうえ、働き方改革で時間外の上限が決まっているので修繕ドックで手掛けられる工事量が限られており、海難事故など突発的な工事への対応が難しくなっている」

■内航タンカーは新造需要増加

 ― 内航船業界では船員不足などの大きな課題もあるが、主力とする内航の油タンカーの今後の事業環境をどうみるか。
 「2023年時点で船齢14年の船が7割を占めており、今後の代替が進まなければ、船隊が減少することになる。長年デフレ政策が続き、石油の今後の需要動向がみえない中で、新造船の建造には多額のコストが発生するので、荷主は代替期にも内航タンカーの新造に消極的だった。今後は高齢船の代替需要、ジェット燃料輸送能力不足、船員の働き方改革、製油所トラブルなどを背景に新造船の需要が出てくることが予想されている」
 「こうした状況下で懸念しているのはインフレの動向だ。昨今は船価が高いとも言われるが、世の中の資機材価格の高騰や、人手不足、働き方改革の影響で積み上げ式に上がってきているもので、造船所だけが船価を上げているのではなく、世の中全体のインフレの結果として上昇しているものだ。インフレ上昇分を運賃としてみてもらえず、船のリプレースのタイミングで用船料が十分に上がらないという厳しい取引環境や過度なインフレ進行による新造計画の見直しともなれば、船員不足の問題から廃業してしまう内航船主がさらに増えてしまうことも予想される。内航船の船員不足という大きな問題がある中で、内航船主の廃業や内航業界離れが進んでしまうと、海上物流の維持が困難になってしまう」
 ― 海事都市今治とのかかわりは。
 「大船主や造船所、メーカー、金融機関など海事クラスターが集積しているので、情報交換の場には積極的に参加している。当社は伯方島から通勤している従業員が多いものの、かつてと比べて今治市街から通勤する従業員も増えている」
 「バリシップでは全国に向けて海事都市今治をアピールし、世界でも強い海事都市となれるように切磋琢磨していく気運が盛り上がればと思う」
(聞き手:松井弘樹)

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