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2023年10月10日無料公開記事内航NEXT

《連載》内航キーマンインタビュー㊷
バッテリー船軸に環境対応に注力
興亜産業・眞砂徹社長

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 内航専業造船所としてケミカル船や油タンカーの建造・修繕を得意とする興亜産業(香川県丸亀市)。創業100年以上の歴史を持つ同社は昨年、世界初のEVタンカー“あさひ”を建造した。内航業界の脱炭素化を見据え、バッテリー船などを軸とした新しい技術を適用した環境対応船の開発・建造などに今後注力する方針だ。眞砂徹社長(写真)に内航船の造船業界の現況や事業方針を聞いた。インタビューには清水泰良シニア・アドバイザーと平田正仁取締役も同席した。

■内航造船所の維持不可欠

 — 内航船の新造船の事業環境はどうか。
 「コロナ禍前は新造船の引き合いも順調にきていたが、コロナ禍直後の2020年から新造船の商談にブレーキがかかった。内航船は外航船よりも発注の回復が遅かったため、2020~22年は受注が少なく、事業環境として非常に厳しかった。当社はコロナ禍前に確保した仕事で何とかつなぐことができ、資機材の納入遅れなど工程に差し支えることもなかったので、幸運な面もあった。当社が主力製品とするケミカル船をはじめとする内航タンカーは22年秋から年末にかけて引き合いが出てきて、今年半ばから成約も増えてきた。ただ、鋼材やステンレス価格が高騰しており、大きな影響が出ている。上昇前と比べて価格が倍以上になってしまっているので、手の打ちようがない。今後は資機材だけでなく、製造業の人手不足が深刻化する中で人件費も更に上昇するだろう。協力会社や外注先も状況は同じで、全てのコストが上がっている。生産性向上やムダの削減には取り組んでいるものの、それだけでは到底吸収できない」
 — 内航船を建造する造船所も以前と比べて減少している。
 「平成のバブル景気の頃は年間300~400隻ほどの内航船が建造されていたが、現在は年間100隻以下の規模に減少しているようだ。かつては香川県内にも多くの造船所があったが、年々減少して内航船を中心に建造する造船所は当社くらいになってしまった。内航船を建造する造船所の数がこれ以上減少すると、需要に応じて船を建造できなくなるうえ、修繕にも問題が生じてくるのではないだろうか。働き方改革により以前のような残業や休日出勤ができなくなり、人手不足の状況下で1社当たりが手掛けられる仕事量が減少しているので、内航船の造船所の数を維持していかなければならないように思う。内航船による海上輸送は今後も不可欠なものだが、運賃低迷や船員不足の問題に加えて、船が造れず、モノを運べないということが現実になってしまってからでは対策をとるのは難しい」

■新技術に挑戦する企業風土

 — EVタンカー“あさひ”の建造をはじめ新しい技術の取り組みにも積極的に挑戦している。
 「“あさひ”はチャンスを与えて頂いたことに感謝している。私自身も目新しいものが好きなので、是非挑戦したかった。新しい技術を採用した船を内航の造船所1社がシステムを組んで建造するのは難しいので、今回のように専門チームに加わってタッグを組んで1つのものを造り上げる形が今後必要になってくるように思う。“あさひ”はコロナ禍での建造だったので、バッテリーなどの輸入品が予定どおりに納入されるか気がかりだったが、工程どおり建造できた」
 「“あさひ”の建造以前にも、二重反転プロペラを採用した電気推進システムの次世代内航船(スーパーエコシップ、SES)にIHIMU(現ジャパンマリンユナイテッド)と共同で取り組んで当社で4隻を建造したほか、海上技術安全研究所と共同開発した省エネ船型モデルの499型ケミカル船にも取り組んだ」
 — 内航船の省エネ格付も取得しており、省エネ船の開発にも定評がある。
 「これまでに最高ランクの五つ星を9隻取得した。船種は大半がケミカル船で、海上技術研究所と共同開発して建造した“光令丸”が第一号だった」
 — 海事産業強化法の事業基盤強化計画にも認定され、バッテリーとディーゼル発電機を併用したハイブリッド船の建造にも今後取り組んでいきたいとの方針だ。
 「強化計画が認定された内航の造船所はまだ少なく、大変ありがたいことだ。ピュアバッテリーは平水区域でのバンカー船や離島航路のフェリーなどに採用するのには適しているが、行動範囲が極めて限定的なので、陸上のインフラ設備やバンカリングなどの問題も考慮すると、沿海区域の内航船はバッテリーとのハイブリッドが当面メリットも多いと経営者としては考えている。2050年のGHG排出規制までは20数年しかなく、内航船でもカーボンニュートラルの問題に今後直面すると考えた時、内航の造船所も今から環境対応に取り組まなければ将来的に対応できなくなる」
 「バッテリーを搭載した船が増えてくれば、メンテナンスの需要も増えることが予想されるので、そうした船の修繕も事業として視野に入れていきたい。バッテリーは放電を避けるため、保管場所や空調管理など安全面の管理が厳しく、一定のノウハウも必要になるだろう」
 — 新燃料船への考えは。
 「バッテリーを軸として取り組みながら、水素燃料、メタノール燃料など新燃料の採用が進んだ時に対応できるように準備を進めていきたい」

■100年の歴史で築いた信頼

 — 2020年に創業100周年を迎えた。強みをどのように考えているか。
 「当社は大量・多品種生産ではなく、特定の船種に特化して年間4隻を目指す建造スタイルを維持し、リピート顧客を優先して営業しているのが特徴だ。当社で建造した内航タンカーを中心に修繕やメンテナンスフォローも手掛けており、エンジンの不調やパイプ1本の修繕まで顧客の様々な要望に対応してきたのが強みで、内航タンカー以外に貨物船やフェリーも定期的に入渠して頂いている。当社が拠点を置く丸亀は水島コンビナートにも近く、様々な船種が数多く入港するので、修繕拠点としての地の利もある」
 — 操業水準は。
 「現在の年間4隻が当社の最大かつ適正水準と考えている。499型に加えてリピート顧客向けの199型や299型の建造を今後も継続していくので、年間4隻の中でどう船台をやりくりして、顧客のニーズに応え続けながら、船型や船種による作業量や売り上げの変動をいかに平準化していくかが当社の課題の1つだ。また技術の向上には異なる船種の建造も必要で、一般貨物船やフェリーも建造している」
 — 手持ち工事のめどは。
 「多少歯抜けはあるが、2026年春先まで2年半から3年分はめどがついた状況だ」
 — 建造設備の状況と設備投資の方針は。
 「本社と工場を2007年に高松から丸亀に移転した。工場の船台は3本で、いずれも新造船と修繕兼用の仕様だが、現在は新造船専用が1本で、2本は主に修繕に使っている。新造船用船台は980型まで建造許可をとっている。修繕事業も考慮して今後も主に499型以下で対応していく」
 — 業績は。
 「売上規模は30~35億円で推移。採算は最終段階で黒字を確保しているが、ステンレス価格や仕入機材、外注労務費などの高騰が直撃している」
 — 人員体制は。
 「社員が40人、協力会社を含めて100人程度で、外国人実習生が3人、特定技能外国人が1人だ。現在のような売り手市場や働き方に対する意識も以前と変化する中、人手不足がより深刻化することを強く懸念している」
 「将来の海事人材の確保につながればと、地域との関わりも強化している。地域の子どもたちや保護者の進水式見学のほか、当社の100周年記念事業として多度津高校に溶接機、丸亀市の小学校に高性能カメラを寄贈した。当社の進水は巻き下げ式で、ゆっくり楽しんでもらえるのが特徴なので、子どもたちに感動や船のスケールの大きさを感じてもらい、将来船造りに携わるきっかけになってくれることを願っている」
(聞き手:松井弘樹)

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