2022年11月9日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑳
環境対応製品で社会に存在意義
ツネイシクラフト&ファシリティーズ・神原潤社長
-
アルミ船の建造を手掛けるツネイシクラフト&ファシリティーズ(TFC)は、10年前からバッテリー駆動のゼロエミッション船の建造を次々と進め、昨年には世界初となる水素燃料フェリー“ハイドロびんご”も建造するなど、環境対応船の開拓で先行し続けてきた。神原潤社長は「時代の歩調に合わせた製品をしっかり提供できる体制を整えるのがメーカーの責務」と語る。
■『鶏と卵』の議論に先行
― 新機軸の船に挑戦してきている。
「アルミ製の特殊船や高速船、バッテリー、水素燃料など、未来性のあるものに挑戦し続けて、おかげさまで、『面白いものづくりをやっているツネイシクラフト&ファシリティーズという会社がある』という評価を得られるようになった。皆で頑張って来た成果と思う」
― 10年前にバッテリーを搭載したアルミ合金製旅客船を国内でいち早く実用化し、環境対応船にいち早く取り組んできた。この理由は。
「環境保護の視点が出発点だ。環境負荷低減の必要性は20年以上前から指摘されているが、本当の意味でわれわれが環境問題に取り組むには、皆がまず環境について学ぶところから始めることが必要と感じていた。生態系なども含めた自然環境を守るには、まずはその自然の中に入って学ぶことだ。だが、そこに行く交通手段が、生態系を崩すような環境負荷の高いものでは本末転倒だ。そこで、例えば湖の生態系を観察するためには、排出のないバッテリー船でゆっくり航行して行くべきであろうと。社会的に存在価値のある会社とは、こういう製品を造れる会社だと考えた。今で言うSDGsの発想かもしれない。東日本大震災で、リサイクル性や環境に対する考えも一層強まった。また、技術は芸術とは違うので、造ることよりも“使う”ことが重要。コストと社会インフラに適合しなければ技術としては成立しない。研究として造ったというだけでは価値がない。同じような考えを持つ方がたくさんいらっしゃったことで、バッテリー船の実現に結びついた」
― 水素燃料船でも世界に先駆けて旅客船“ハイドロびんご”を建造した。
「バッテリー船の建造を重ねるうえで、鉛蓄電池やリチウムイオンバッテリーは遊覧船では成立するものの、高負荷が求められる船舶での活用には限界があり、速度・運航時間の観点からも旅客船での運用が難しい面があると悩んでいた。代替手段を模索する中で着目したのが水素燃料電池だったが、水素の燃料インフラや出力などに、なお課題があった。そうした中で、CMBグループから水素軽油混焼エンジンの構想を聞いた。このエンジンならば水素が調達できない場合でも軽油でも航行できるので、まずは水素の混焼船を自ら建造して、水素活用へのステップにつなげようと決めた。水素は高いポテンシャルがあるが、水素に限らず、あらゆるエネルギーは、社会インフラが整備できていない限りは成立しない。だが、燃料供給体制と船舶とは常に、どちらが先かという『鶏と卵』の議論になり進まなくなってしまう。当社が先行して水素で走る船を造れば、この船にどのように燃料を供給するかという課題提起になり、さらに水素を使う上でのルールや何をすべきかといったことも整理できると考えた」
「社会全体で、環境に対してもっと真剣に取り組まなければならない時代が来ていると思う。その時代の歩調に合わせた製品をしっかり提供できる体制を整えるのが、メーカーとしての責務だ」
■船は今の形が正解なのか
―日本の洋上風力発電市場向けにクルー・トランスファー・ベッセル(CTV)の建造も進めている。
「19総トン型の独自仕様の双胴型CTVを建造している。通常の旅客用の双胴船とは異なり、人だけでなく荷物も運ぶ必要性があるため重心位置の変化に対応しうる船型になっている。日本では洋上風力発電はまだ暗中模索の段階でもあり、先行している欧州から技術や運用手法などをそのまま導入しようとしている部分もあるが、欧州と日本は海象や海底の状況、船員の確保を含め条件が大きく異なるため、日本に適した在り方を追求する必要がある。CTVも、日本に最適な使い勝手の良いものにできればと思う」
― 今後の技術開発テーマは。
「昨年“ハイドロびんご”を建造し、水素を燃料として使う上で気にかけるべき点を当社や関係各社で整理できたので、次はレストラン船などもう一回り大きい船で水素燃料にトライしたい。また、自動化を含めて、乗っているお客様にとって居心地の良い船造りを一から見直したい。船の形は今の形で正解なのか、という点も含めて、もっと自由な視点で、わがままに考えて良いと思う」
「新素材なども柔軟に考えたい。例えば航空機が外板に使用している厚さ0.8~1.2㎜のジュラルミンを船舶で上部構造物に使えば、現在の外板に比べて重さが3分の1になる。これだけ軽くなれば必要エネルギーが減り、スピードやエンジン出力、CO2削減など良いことが多い。一方で、ジェラルミンの接合は溶接ではなくリベットになるので、一足飛びにはできないが、いろいろ考えていきたい」
■新技術で協力する仕組みを
― クラフト事業の現状は。
「当社は最大で全長40m程度、200総トン規模の船舶まで建造できるが、大きさは19総トン級から150総トン級までさまざまで、船価も1隻あたり1億円以下の船から10億円超の船まで多岐にわたる。かつては年2~3隻ベースの建造で4億円弱の売上だったが、現在は、建造船の大きさによって異なるが年8隻規模。売上高も20億~30億円規模にまで拡大している」
― 経営課題は。
「当社は短納期での商談対応が中心となるが、仕事が枯渇する心配から、受注を積極的に進めている。これにより、ここ最近は繁忙期が続いており、社員にもう少し自分の時間を取れる働き方を提供しなければと強く感じている。やりがいだけでは社員も家族も付いて来られない。作業量の平準化は難しいので、作業量を数値化してメリハリをつけて休めるような仕組みを整えなければと考えている」
― どういう会社にしたいか。
「世の中に必要とされる会社、あって良かったと思われる製品を造り続ける会社でありたい。今は工場もしっかり稼働し、世の中に対して新しい製品を造り出す姿勢も示せてきた。これに加えて、従業員の働き甲斐を実現できる会社にしたい。他社よりも強い工場体質にし、それで勝てる余力を従業員に還元する方法で取り組みたい」
― 内航船業界の課題についてはどう思うか。
「どの経営者も感じていると思うが、造船業界で、設計する人も造る人も足りていない点が非常に大きな問題だ。どのようにこの産業を守るかは、造船所1社では対応できないテーマだと思う。大手が頑張れば良いという問題ではなく、中小の造船事業者が図面を共有したり、新しい技術を一緒に使うといったことも含めて、考え直さなければいけない。もちろん競争は必要で、造船所同士が技術開発で競い合い、それぞれが良いものを提案して切磋琢磨するという姿であるべきだが、それには最低限の人が必要で、いまは競争できるベースすらなくなりつつある。図面もあまり更新されておらず、仕様書を最新のものに書き換えたり、新たな提案をできるだけのリソースが業界全体に不足している。たとえば、国が発注する船では新しい技術を追求するような仕組みだったり、造船業者が協力して新たなものにトライする手法などがあってもよいのではないか」
(聞き手:対馬和弘)