今春以降、浮体式洋上風力の機運が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金事業で浮体式実証が決定したほか、浮体式洋上風力の技術開発を目指す業界団体も始動した。浮体基礎の量産化に向けた動きも進んでいる。日本の浮体式洋上風力産業の育成と発展に向け、業界を横断した取り組みや企業間連携が進む。
秋田・愛知で浮体式実証
司会 GI基金事業の「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトでフェーズ2の浮体式洋上風力実証事業の事業者が6月に決定した。
— 2件が採択され、いずれもセミサブ型浮体で、15MW(メガワット)超の風車を採用する計画だ。秋田県沖と愛知県沖で実証を行う。
— 秋田県沖では丸紅洋上風力開発が幹事を務める。このほか東北電力と秋田県南部沖浮体式洋上風力、ジャパンマリンユナイテッド、東亜建設工業、東京製綱繊維ロープ、関電プラント、JFEエンジニアリング、中日本航空が参画する。愛知県沖の実証ではシーテックが幹事を務め、日立造船と鹿島建設、北拓、商船三井が参画する。
— 2件ともセミサブ型に決まるとは思わなかったよ。
— GI基金事業のフェーズ1の要素技術開発ではTLP(緊張係留)型やスパー型の研究開発も進められていたからね。
— フェーズ1ではセミサブ型3件、スパー型2件、TLP型1件で低コスト化に向けて技術開発が行われていた。
司会 それぞれどのような違いがあるのか。
— まず今回実証が決まったセミサブ型は半潜水型のプラットフォームをカテナリー(懸垂曲線)係留で海底とつなぐ方式だ。コラムと呼ばれる支柱3本または4本で構成される形が多い。適用範囲が広く、汎用性が高いのが特徴だ。大型になるため造船ドックでの製造が難しいなど課題があるが、造船所では量産化に向けた技術開発を進めている。
— セミサブ型については中国で1基単位でのプロジェクトが近年急速に進められているね。
— スパー型は円筒状の浮体構造物で、カテナリー係留で海底とつなぐかたちだ。シンプルな構造なので製造が比較的容易で、低コスト化に向いている。喫水が深いので、水深が深い海域が適用範囲とされている。
— TLP型は緊張係留が特徴で、係留索を垂直方向に海底に固定しテンションをかけることで安定させる方式だ。コンパクトな構造で、復原性が非常に高い。設置作業が難しいなどの課題もあるが、海面下の係留索の占有面積が小さいことから、漁業などほかの海域利用者への影響がほかの浮体形式に比べ小さく、社会受容性が高いといわれている。
— バージ型は底面が平らな箱船型の浮体に風車を設置するもので、ポンツーン型とも呼ばれる。カテナリー係留され、水面との接触面が増すことで浮体の安定性を高めるものとなっている。ただし揺れやすいことからほかの浮体形式よりも静穏な海域が適しているとされている。構造がシンプルで比較的小型のため建造コストが安いなどの特徴がある。
— ただこれらはあくまで分類で、各社が開発を進める浮体基礎は同じ型でもそれぞれ特徴が異なる。浮体基礎の開発は世界全体で数十種類に及ぶとも言われているよ。
司会 日本ではこれまでも浮体式実証が行われてきた。
— 福島での浮体式実証では3基が設置された。丸紅らのコンソーシアムがアドバンストスパー型と呼ばれる低動揺形状浮体1基とセミサブ型2基で2013年から順次稼働を開始した。搭載した風車は2MW〜7MWのものだ。22年に撤去工事が完了した。
— スパー型は戸田建設らが2013年に長崎県五島沖で2MW風車を搭載した実証機を設置し、2年間の実証運転を経て、16年から商用運転を継続している。
— バージ型浮体の実証も行った。底面が平らな箱船型の浮体に風車を設置するもので、ポンツーン型とも呼ばれるものだ。丸紅らが北九州沖での3MW風車による実証を2019年に開始した。
司会 まとめると国内ではセミサブ型、スパー型、バージ型で実証が行われてきたわけだね。今回、GI基金事業で行われる実証の特徴はどこにあるのか。
— 今回決まったGI基金事業は早期のコスト低減実現に重きを置いている。グローバル市場を見据え、コスト目標・タクトタイム目標などを設定して行う。福島沖や長崎沖の実証は環境影響や安全性、信頼性などを確認することを目的として行われていたが、北九州沖の実証から低コスト化が視野に入り始めた。
— 注目される点の1つは風車の大きさだ。これまでの実証事業は2〜7MWの風車で行われてきたが、今回は15MW級風車で実証が行われることとなる。15MW級は現在の商用規模の風車の最大サイズだ。
司会 秋田県と愛知県で浮体式実証が行われるのは今回が初めてだね。
— 秋田は秋田港・能代港ですでに洋上風力発電所の運転が始まっているほか、一般海域でも4区域で事業が決まっている。すでに洋上風力先進地として地位を確立しているが、ここにさらに浮体式洋上風力が加わるかたちだ。
— 愛知はこれまで洋上風力のイメージがなかったが、実証が行われる田原市・豊橋市沖は全国でも有数の洋上風力のポテンシャルが高い地域のようだ。
業界横断、企業間連携が進む洋上風力
司会 実証も決まり、浮体式洋上風力の商用化に向けた機運が高まってきている。
— 発電事業者らが協働して技術研究組合を立ち上げたのには驚いた。
— 「浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)」だね。6月時点での組合員は18社にもなる。6月下旬に国際フォーラムを開催していたが、業界関係者はもちろん、デンマークや英国、米国など各国の大使らも多数出席し、その注目度の高さがうかがえた。
— FLOWRAでは発電事業者らが協働で技術開発に取り組む方針だ。技術開発では共同パートナーとして造船所や重電メーカーなどの洋上風力の関連事業者にも協力を求めていくとしている。
— 浮体といえば、住友商事が7月31日に日揮と浮体式洋上風力発電のサプライチェーン構築に向けて合意したと発表した。浮体の生産・供給体制の低コスト化・効率化・量産化を目指すとのことだ。浮体製造のパートナーとなる鉄鋼系・造船系メーカーの開拓などでの協業可能性も検討していくとしている。
司会 浮体式洋上風力で日本がリードしていくべく、業界を横断した連携が進んでいるね。
— 浮体式に限った話ではないが、洋上風力人材についても連携が進んでいる。
— 海洋産業研究・振興協会が有志企業9社と協働で立ち上げた「洋上風力人材育成推進協議会(ECOWIND)」だね。経産省とも連携して人材育成を進めていく方針だ。
— 洋上風力産業が成長していくためにはそれを担う人材育成が欠かせない。
— ECOWINDでは企業と学生をつなぐことを目的に、産業界と高専・大学などの教育・研究機関が持つ人材や教育に関する互いのシーズ・ニーズのマッチングを促す取り組みや、社会一般の洋上風力発電に対する理解醸成を行っていく方針だ。また、各地で取り組まれている産学連携の活動を相互につなぐネットワーク化を目指すとしている。
司会 洋上風力では建設や運転保守(O&M)に従事する洋上風力支援船の分野で海事産業の活躍が期待されているが、特に浮体式では浮体基礎の分野で日本の造船技術の活用が期待されている。引き続き日本の浮体式洋上風力産業の発展に注目していきたい。
(海運、つづく)