2022年9月20日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑭
新規プロジェクト・技術開発で貢献
太平洋汽船/太平洋沿海汽船 吉田明博社長
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吉田社長(太平洋汽船のオリジナルパーカーを着用)
2020年11月に日本郵船の100%子会社になった太平洋汽船は、グループの太平洋沿海汽船で内航海運事業を展開している。郵船が内航分野を強化する方針を掲げる中で、郵船グループの内航不定期船社として、新規プロジェクトへの船舶管理・船員配乗業務の提供や自律運航船・環境対応船などの技術開発のためのデータ提供とトライアルの場の提供などで貢献する方針だ。吉田明博社長は「新規プロジェクトへの対応と船員拡充のため新卒・中途採用に力を入れている」と話し、また船員の定着率向上のための船内環境の改善などにハード・ソフトの両面で取り組んでいると語った。
― 太平洋沿海汽船による内航事業の現状は。
「セメント専用船3隻とケミカル船1隻を保有・運航している。新造発注残は当社の保有船では無いが、郵船グループが運航するJERA横須賀火力発電所向け内航石炭専用船のうち来年4月竣工予定の2番船の船舶管理を行うことになった。また、2024年から九州で運用されるLNGバンカリング船の船舶管理を請け負う予定となっている」
「当社の人員数はグループ全体で、内航船員70人弱、陸上社員30人弱の計100人弱。新規プロジェクトへの対応を主目的に船員の採用を増やしている。今年度は新卒の船員を7人採用した。彼らが一人前に育つまでに4、5年かかるため、継続して若干名の中途採用も実施し、乗組員全般にわたり増強を図っている」
― 船員の定着率を上げるために取り組んでいることは。
「船内環境の改善に特にこの1~2年力を入れている。船内Wi-Fiを増強し、スマートフォンを従来よりも快適に使えるようにした。また、大型船でも珍しい2ドア冷蔵庫や羽毛布団を導入するなど、できるだけ船内の生活が快適になるよう船内設備を拡充している」
「郵船の完全子会社になったことで、郵船が力を入れている研修を取り入れることができるようになった。閉ざされた空間でメンバーが変わらない船内はハラスメントが起こりやすい環境なので、ハラスメント研修には特に力を入れている。弁護士を講師に招いて入渠の際に造船所の会議室を借りて行っており、私もできる限り出席して研修の意義を説明している。また、内航船ではまだ少ないBRM(ブリッジ・リソース・マネジメント)研修を行っている。船内環境をハードとソフトの両面で改善することで船員が安全に集中できるようにし、定着率の向上にもつながることを期待している」
「採用活動では船員の仕事や生活についてのピーアールにSNSを活用し、オンラインセミナーも始めた。学校訪問も積極的に行い、学生の方々により親近感をもって頂けるように、訪問するメンバーに若手や女性社員を入れている。理由ははっきりしないが、20~21年に入社した船員の定着率が高く、また志望者もかつてよりも増えていると感じる。コロナ禍の影響もあると思うが、一方でエッセンシャルワーカーである船員という職業が見直されたこともあるかもしれない」
― 親会社の郵船から期待されていることは。
「郵船から期待されているのは、内航不定期船社として引き続き安定的に事業を行うことと、内航に関する新規プロジェクトに内航船の船舶管理、船員配乗、運航業務で貢献することだ。まだ具体的な話はないが、郵船が洋上風力発電関連事業に力を入れる中で船員供給などのニーズが出てくるかもしれない。当社がどのような形で貢献できるか研究中だ」
― 内航海運業界の課題は。
「脱炭素への投資が小型船ということもあって盛り上がりにくく、大型外航船と比べて新燃料導入のハードルも高い。一方で船員不足問題の切迫性は外航船よりも高いため、自律運航船の実用化で先行するかもしれない。当社が船舶管理を行うJERA向けの内航石炭専用船では将来的な自律運航船にも資するデータの収集を行う予定で、このように郵船に対して内航船のデータと新技術のトライアルの場を提供していく」
「内航船の船員不足問題に関しては、定着率に加えて船員の船種間の融通性の小ささもある。例えば、郵船の外航日本人船員は複数の船種に対応できるが、当社の内航船ではさまざまな船種に対応できる船員を育てる余裕がなかった。そのような中で、今後はセメント船の船員を石炭専用船に、ケミカル船の船員をLNGバンカリング船にというように、比較的近い船種から新規プロジェクトのための船員を育成する」
(聞き手:深澤義仁、藤原裕士)