2025年12月22日無料公開記事

戦略・組織作りの名手
商船三井、田村専務が新社長に

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 来年4月1日付で商船三井の新社長に就任する田村城太郎専務がシンガポールの担当になった時、こう聞かれたことがある。「保有・運航隻数で上位に位置するシンガポール船社はどこだと思いますか?」。オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)や地場の有名海運会社の名前を挙げていったが、田村さんは黙ったまま。名前を出し尽くして考え込んでいると、「答えは商船三井です」。
 商船三井はシンガポールでケミカル船やタンカー、ガス船、ドライバルクを担う事業会社を多数展開している。ケミカル船ならMOLケミカルタンカーズ、タンカーやガス船ならMOLエナージアなどが知られているが、それらの事業会社をまとめて考えたことがなかった。「そうなりますよね、まとめて考えない。でもまとめるとすごい規模になり、商船三井のシンガポールでのプレゼンスの大きさが分かるんですよ」。
 田村さんによると、商船三井がシンガポールで運航する船は建造中を含め200隻弱になるという。そう捉えると、確かにすごい規模だ。「そうでしょう。この規模で商船三井の事業を考えていくと、いろいろと打つ手が見えてきます」。
 4月に設置した「シンガポール準本社」もその一環だ。主導したのは田村さん。コーポレート機能の向上、営業連携などで全体最適に向けた施策を打つこと。東京本社のバックアップとしてBCP(事業継続計画)対策を拡充することが当面の主要な取り組み課題になるという。全体のスケールを考えればこそのアイデアだったのだろう。準本社というネーミング、設置の着眼点など田村さんらしい取り組みなのだろう。
 商船三井の社員に田村さんの特徴を聞くと、冷静で、戦略や組織作りが上手く、本質を見抜く力に優れているとの評が多い。課題を見つけ出し、解決策を考え、周囲を巻き込んで取り組んでいく実行力、行動力も兼ね備えているという。
 邦船大手の自動車船部隊が独禁法問題で揺れていた2010年代前半。商船三井関係者によると、部門立て直しに向けた戦略作りやその実行役で田村さんが送り込まれ、組織改革などに腕を振るったという。邦船大手3社のコンテナ船事業統合会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)では、統合時の欧州責任者として複雑な統合作業を進めた。関係者は「商船三井は投資を拡大してきた。今後は成長投資の一方で事業の整理も必要になるかもしれない。これができるのは田村しかいない」と話す。
 近年は経営企画担当として現行の経営計画策定の推進役となり、組織改革、環境戦略など経営の中枢で大きな課題に尽力してきた。近くで田村さんを見てきた社員は「田村新社長に違和感は全くない。社長に近い仕事をもっともしてきた人物ではないか」と納得顔だ。
 鉄鋼原料船、コンテナ船、自動車船、経営企画など幅広く経験し、最も長いのがコンテナ船事業になる。
 海外経験も豊富で、会社員人生の半分以上が海外勤務になる。コンテナ船関連では香港駐在が長く、田村さんは「13年過ごした私と家族にとって第二の故郷と言うべき街」と話していた。ロンドン、シンガポールにも駐在経験があり、海運の主要都市での勤務経験がある。シンガポール法人社長で、東アジア地域や東南アジア・大洋州地域の担当を務めていた時は、月の半分が東京、4分の1がシンガポール、残り4分の1が他国で過ごしていてタフでもある。
 田村さんの人生初の海外旅行は1989年。まだ経済自由化前のインドへのバックパック旅行で、「今思えば無謀だった」。それまで海外とは無縁だったが、大学では一転して周囲は帰国生や留学生だらけで、急に海外が身近になったという。「それじゃあ自分もどこか海外に行ってみよう」と勇躍インドへ向かった。田村さんの行動力を示すエピソードだろう。豊富な部門経験、海外経験を土台に、持ち前の企画力、実行力で社会インフラ企業を目指す商船三井の舵取りを担う。(中村直樹)
 
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