天草船主のビジネス拡大のエンジンとなっているのが、豊富な人材リソースだ。民間6級海技士養成コースを運営する九州海技学院(宇城市)には主に陸上からの転職者が船員を志して集まり、天草船主をはじめとした内航船社へ就職する。受講生は船員職の魅力について、まとまった休暇がありメリハリのついた働き方ができることと、給与水準の高さに加え、若いうちから経験を積めて長く続けられる点を挙げる。上天草市出身の6級受講生4人に集まってもらい、船員を目指す理由や職業の魅力などについて語ってもらった。
座談会出席者(五十音順)
岩本遥斗さん(19歳、機関科)、植川伸也さん(43歳、航海科)、福田啓希さん(26歳、航海科)、松本忠徳さん(56歳、機関科)
司会=海事プレス社記者 伊代野輝
― 船員を目指したきっかけは。
松本「上天草市が地元ということもあり周りに船乗りが多く、5年ほど前から興味を持っていた。55歳を迎え、新しいことにチャレンジしてみたいと思い、知り合いに相談して地元の船社を訪れたら採用となった。会社からの紹介で6級養成コースを受講している。今年3月までは製造業の仕事をしていて、もともと機械が好きなので機関科を選んだ。長期間家に帰れないため、『高齢の両親になにかあったらどうするのか』と親戚から言われたりもしたが、両親は『自分の好きなことをしなさい』と応援してくれ、決意を固めた」
植川「友人や先輩に船乗りが多く、まとまった休暇がとれるのがうらやましいと感じていた。知り合いの船乗りが独立して会社を立ち上げ、船員にならないかと誘われて転職を決めた。給与も魅力だ。トラックドライバーを長年やっていたのだが、物流の2024年問題で残業規制が厳しくなり、給与が減ったことも転職の大きな理由の1つ。私も勤務先の紹介で九州海技学院に来ている。家族は『稼いでこい!』と送り出してくれた」
福田「以前は広島にある工場で勤務していたのだが、結婚して子どもが2人になり、妻と私の地元である上天草に帰ることを決めた。その際に、船乗りの義父が給与面から船にのることを勧めてくれ、妻が育児を頑張ってくれているので、私は海で働くことに専念しようと決心した。1月から義父と同じ会社に入って乗船しているのだが、海技免許がないと1人ワッチ(当直)ができないので、資格を取得しにきた」
岩本「この春に高校を卒業した。就職するにあたり、父が船乗りで勧められてこの道に進もうと決めた。船員は給与が安定して高く、高齢になっても続けられる仕事という印象だ」
― 船員のイメージは。
松本「生活に余裕があって明るいイメージ。周囲の船乗りは楽しそうにしていて、辛いことがあっても口にしない。そうした雰囲気が自分も合いそうだと思った」
植川「休暇のときに船員の友人に会うと、いきいきしていると感じる。まとまった休暇があるのでメリハリのある働き方をしているように映る。経済的な余裕があるのも特徴だ」
福田「実際に乗船してみて、年配の方が多く若手が少ない分、若いうちから経験を積める職業だと感じる。私もお金に困らない印象を抱いている」
岩本「父が船乗りなので身近に見ているが、楽ではないんだろうなと思う。その分給与が高いと言える」
― 6級コースを受講しての感想は。
松本「機械がもともと好きなので専門的なことを学べて楽しい。先生は外航船に乗船していたりと豊富な経験があるのに加え、気さくに話してくれる。楽しくて、人生で一番勉強している。受講生には船に既に乗っている人もいて教え合ったりしていて、一人ではないのが支えになる」
植川「一から勉強なので頭が痛い(笑)。でも、一度決めたことなので一生懸命やっている。全てが大変だが、若い人が多く和気あいあいと楽しめている」
福田「乗船経験はあるものの、基礎から学ばないと身に付けられないと思って勉強を頑張っている」
岩本「勉強は大変。やっと分かってきたかなと感じる」
― 船員を目指す人を増やすにはどうしたらよいか。
松本「周りに船乗りがいなければ船員という職業に気付かない人は多いと思う。テレビなどを観ていても船乗りの話題はあまり出ない印象だ」
植川「SNSで動画を配信するなど、知ってもらうための活動がいいのではないか」
岩本「船員の多いエリアでも働き方の実態を知らない人が多い。長期休暇といったメリットを知らないと、船員という職業を選ぼうとは思わないだろう」
福田「若い人はSNSを使って情報を収集しているので、積極的な発信が必要だ」
― 本日はありがとうございました。