2025年8月27日無料公開記事海事スタートアップと描く未来 内航NEXT

《連載》海事スタートアップと描く未来㉛
ヒヤリハット事例をAIで有効活用
chaintope、まずは内航海運業界で展開

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村上COO

 ブロックチェーン技術やAIなどを活用したソリューションの開発を手掛けるchaintope(チェーントープ、福岡県飯塚市、正田英樹代表取締役CEO)が、船舶のヒヤリハット事例をAIで分析して安全運航に役立てるサービス「Chaintope Greeners(チェーントープグリナーズ)」の提供を9月から開始する。生成AIを利用してヒヤリハットの整理・分析を瞬時に行えるようにするとともに、個社のヒヤリハット事例を特定の情報を伏せた上で、海運業界全体で役立てる仕組みの構築を目指している。まずは内航海運業界向けに提供を開始し、将来的に外航海運業界にも拡大する考えだ。村上照明取締役COOにサービスの概要や今後の展望を聞いた。

■ヒヤリハットは情報の宝庫

 ― chaintopeが海運業界向けサービスを始めたきっかけは。
 「物流や建設、医療などの領域で活躍するエッセンシャルワーカーの方々の社会への貢献度を可視化する仕組みをつくりたいと考えたのがきっかけだ。当社はシステム開発を手掛けるハウインターナショナルからスピンアウトして2016年に誕生した。ブロックチェーン技術で社会に貢献していこうという志を持つメンバーが立ち上げた会社で、大手企業からも出資いただいてブロックチェーンやAIといった先端技術を活用した独自サービスを展開している。『Chaintope Greeners』では行動の記録共有にブロックチェーン技術を活かし、内航海運業界向けにサービス提供を開始する」
 ― Chaintope Greenersの概要は。
 「船舶のヒヤリハットを事故防止に活かすためのサービスだ。海運会社数十社にヒアリングをする中で、各社がヒヤリハット事例の収集と整理に苦労しているだけでなく、分析結果をノウハウとして活用するために必要なデジタル化ができていない現状を知った。そこで、AIを使ってヒヤリハット事例を分類し、傾向の分析を行うサービスを開発した。過去のヒヤリハットは重大事故を防ぐ鍵となる情報の宝庫であり、これをもっと活用して安全運航に役立て、DX化を強力に推進するサービスになる」
 「具体的には、現状、本船からヒヤリハットの収集や分析、レポートの作成に時間がかかっている。そこで、AIを活用しヒヤリハットをリアルタイムに分析し、学習したAIが、客観的に重大度分析や傾向・原因分析を行い、荷主や船主への定期的な報告書作成もサポートする。これにより、ヒヤリハットの発生状況を航路や船内の位置別など、さまざまな視点から整理できる。文字による説明だけでなく、航路図や船内図、グラフなどを駆使して直感的に把握できるようにしている。また、そのヒヤリハットに気づけなかった場合にどのような事故につながる可能性があったのかといった高度な分析も可能だ」
 「ヒヤリハット事例を蓄積することで船員の方々の安全に対する意識がどう変わるかも評価する。事故につながる行動を起こしてしまう前に気付けたケースが増えれば、安全への意識が高まっていると評価できるからだ。その推移を記録することで、本船と会社の安全運航の意識がどの程度醸成されているかが分かる。こうした評価を踏まえてAIが次の目標をアドバイスすることも可能だ」

■信頼できる情報を選別

 ― 収集したヒヤリハット事例を、当該企業だけでなく参加企業全体で利用するのか。
 「インプットしたデータをサービス利用者全体で使うことを念頭に置いている。利用を中止してもこれまでインプットしたデータは残るが、会社や船舶などを特定できないようにする。安全のためのノウハウは競争する領域ではなく、業界で共有して全体の安全向上に生かすべきという考えを海運会社にも共感していただいている」
 「AI特有のハルシネーション(もっともらしい誤答)対策として利用者が回答を評価できる機能を搭載しており、利用者がその機能を活用すればするほど正確性が高まる」
 ― 今後の展開は。
 「引き合いが多いのはタンカーとフェリー。タンカーは危険物を取り扱うこともあって安全意識が特に高く、フェリーも旅客の命を預かるため安全運航への関心が非常に強い。もちろん他の船種の海運会社にも幅広く関心を持っていただいている。9月から、タンカーオペレーターとフェリー船社への提供を開始する予定だ。船種を問わずサービス提供可能なので、市場展開を加速したい」
 「より使い勝手の良いサービスにするために、音声による情報入力やアドバイスの読み上げ・画像による出力といった拡張も考えている。また、われわれはさまざまな業務上の質問に答えるAIエージェントの開発に注力しており、『Chaintope Greeners』も将来的にAIエージェントに集約していく。例えば『東京港を出て博多港に向かうときに気を付けることは』と聞くと、過去のヒヤリハット事例などを基にしたアドバイスをもらえる。これはインターネットで収集した真偽不明の情報ではなく、本サービスのユーザーである海運会社の過去のヒヤリハット事例という信頼性の高いデータからアドバイスを導き出す。海運会社もAIエージェントに興味を持っていただいており、ヒヤリハットだけでなく過去の事故事例なども入れることでサービスを拡大していきたい」
 「内航船員は極めて多忙で、船の運航から荷役までの安全確認のポイントを見落としてしまう可能性がある。また、陸上から本船への支援業務も負担になっている。これらの課題を解消するために、AIが作業の注意事項や対応策をアドバイスする。このサービスにはベテランの知見を継承するという側面もあり、属人化しているノウハウをAIエージェントに学習させて業界に残していく」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

AIを使ってヒヤリハット事例を分類

AIエージェント

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