2025年8月1日無料公開記事洋上風力発電
英国で洋上風力基地港湾事業に参入
商船三井、浮体式視野に総合ロジスティスサービス目指す
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洋上風力バリューチェーンで新たなピース埋める
商船三井は7月31日、三井物産と共同で、英GEGホールディングスが保有するスコットランドのニグ港における基地港湾事業と洋上風力・石油・ガスを中心とするエネルギー産業向け鋼材加工・機器製造事業を買収することに合意し、株式売買契約を締結したと発表した。買収対象事業を今後、三井物産が51%、商船三井が49%出資するグローバル・エナジー・サービス・ホールディング(GESH)で運営する。買収は今年夏ごろの完了を予定。商船三井は洋上風力のバリューチェーンで広く事業開発を行っており、今回新たに事業のピースを埋めた。基地港湾に対する知見獲得を進め、今後拡大する浮体式洋上風力を視野に、浮体の製造、洋上据付に関わる「総合ロジスティクスサービスプロバイダー」への成長を目指す考えだ。
GEG社は2012年4月に三井物産からの25.5%出資を受け入れ、英国のエネルギートランジションに併走するかたちで事業展開してきた。今回の買収対象事業は商船三井のクリーンエネルギー普及を推進する事業方針とも合致することから、三井物産と連携することになった。
英国では石油・ガスの安定供給と洋上風力を主とする再生可能エネルギーの導入加速が見込まれる。ニグ港が近接するスコットランド北海地域に世界最大の洋上風力開発エリアがあり、今後は着床式のみならず、浮体式洋上風力のハブ港として重要性が高まることが期待される。商船三井はニグ港を、欧州における洋上風力発電や海洋開発の最重要拠点と位置づけ、将来性の高い港と評価している。
今回の買収を通じ、商船三井の海運会社としての船舶・港湾事業アセットと、三井物産の総合商社としての幅広い産業ネットワークを掛け合わせることで、基地港湾事業、鋼材加工・製造事業、それらを核としたサプライチェーンの強化を目指す。
商船三井は洋上風力発電分野で、浮体式洋上風力を「本丸」と位置付ける。浮体式は着床式と異なり、港湾に求められる要件が高く、船舶を含めた効率的なオペレーションが必要。商船三井は今回の出資を通じて、基地港湾に対する需要の理解増進、知見獲得を進め、「当社が湾内のロジスティクスを司る存在として浮体の製造および洋上据付に関わる総合ロジスティクスサービスプロバイダーへと成長することを目指す」との考えだ。
また、獲得する知見・ノウハウを長期的には日本を含むアジア地域への還元することで、グローバルなエネルギートランジションへの貢献を目指す。
今回の事業の展開について、短期的にはニグ港の既存事業である油・ガス田開発向け、着床式洋上風力向け事業での高い競争優位性をもって、底堅い収益を維持することを目指す。加えて、商船三井からの出向者が中心となり、基地港湾の需要を把握し、宇徳をはじめとするグループ会社の協力も得ながら、ニグ港の事業運営と損益改善に貢献する考え。
中期的には、2030年頃までにニグ港を浮体式洋上風力のハブに成長させる考え。商船三井が得意とする海上輸送と作業船サービスの提供、浮体ロジスティックスにおいて不可欠な港湾を取り込むことで、双方の価値向上を図る。さらに中長期的に、「ニグ港での成功を他地域へ展開する」との構想だ。
商船三井は洋上風力をグループ経営計画「BLUE ACTION 2035」の重点領域としている。この領域では、サプライチェーンビジネスと発電事業の2本柱で取り組んでおり、今回の買収はサプライチェーンビジネスの拡大につながる。同社の洋上風力発電関連事業では、海域調査や、内航モジュール船などによる部品・資材の海上輸送、サービス・オペレーション・ベッセル(SOV)などの作業員輸送、送電ケーブル敷設、北拓との風力発電メンテナンスや人材育成など、調査から建設、運転保守(O&M)まで、各分野でグループを挙げて取り組む。発電事業では、台湾で2件のプロジェクトに参画しており、発電事業者のニーズや課題を吸い上げることで、洋上風力発電事業のさらなる展開につなげている。