座談会出席者(社名五十音順、カッコ内は所属地区)
浅川汽船・宮政彰社長(今治)、朝日海運・三宅恭介代表取締役専務(波方)、えびす商会・野間裕人代表取締役(伯方)、如月汽船・坂邊幸信社長(伯方)、金力汽船・多田憲司社長(伯方)、錦城海運・田窪昭彦代表取締役(今治)、幸洋汽船・藤澤賢宏取締役(今治)、進宏海運・大木祐輔常務取締役(波方)、大東汽船・馬越康友取締役(伯方)、聖海運・﨑山傑取締役(波方)、明運汽船・赤瀬慎専務取締役(伯方)
<司会=海事プレス社:深澤義仁、伊代野輝/会場=波方船舶協同組合(今治市)>
― 船員不足はさらに悪化しているのか。
「求人倍率は、肌感覚としては貨物船で4~5倍くらいで、タンカーは10倍近いと思う」
「これまで内航船員は、外航海運や漁船の船員の転職者の受け皿として機能しており、何もしなくても人材が入ってきていたが、いよいよ不足感が深刻になってきた。水産高校も減ってきており、人材の取り合いだ。知恵を出しながら求人活動をしなければならない」
「船員不足が叫ばれているものの、データ上の船員数は横ばいだ。しかし、船員不足による停船が実際に出てきている。なぜなら、欠員が出た役職に合う人材がいないからだ。例えば、499総トン型貨物船で甲板を4人で回すには、船長が休暇の時に一等航海士が代行できないといけない。その一方で、船長ができる人は下の役職の一航士をやりたがらないので、代行できる一航士が辞めてしまうと代わりを探すのは難しい。転船や部屋替えを嫌がる船員も多く、空いたポジションを埋めるために自ら乗船したり、求人活動に多くの時間を取られる船主は多い。経営は二の次で、人手の心配ばかりしている状況だ」
「二航士の給与相場が特に上がっており、一航士レベルの給与を提示しないと採用できないケースもある。他の船員に内緒で給与を上げて採用し、そのことが広がって船内の人間関係が悪化するケースなどもある」
「海技免状を持っていて乗船履歴もクリアしている若手船員を二航士に昇格させたものの、『二航士の仕事はやりたくない』と言って退職した話を聞いた」
「何かトラブルが起きると荷主やオペレーターが責任を押し付けるような言い方をしてくることに耐えられないという船員も多い。船員の給与水準が上がってきているため、より責任が重いポストに昇進するよりも今の給与に満足している人は少なくない」
「乗船しながら求職登録をしている人もいる。求人側は求職者リストをもらって電話をかけてもつながらず、反対に求職者は登録した帰り道から電話が鳴りやまない状態になる。運よく最初に電話がつながった求人者は、その日か翌日に求職者に会いに行かないと他所で採用が決まってしまう」
「船員の求人では求人者の方が求職者に会いに行くが、陸上の職業では考えられないことだ。船員が会社を訪問する場合は旅費詐欺もある。同じエリアで複数社回っても、それぞれから旅費を請求するといった具合だ」
「今は船員が転職しやすい環境だが、同じような仕事で給与が段違いに良い求人は、人間関係など何かしら厳しい面がある」
― 船員不足解消のために必要な取り組みは。
「動力をバッテリーなど別のものにしてメンテナンスを簡単にするといった対策が必要だ。エンジンは壊れてみないと勉強にならないが、若手を1人で乗せてトラブル対応をしてもらうわけにはいかない。トラブル対応の経験がないと、故障時にメーカーの担当者の方と電話でやり取りできたとしても、指示の内容が分からないから、ちょっとした故障でも担当者を呼ばないといけなくなる」
「機関士は予備機関士1人で3隻分の機関士の休暇消化対応が可能で、コスト抑制のため最低限の人数で回している会社が多いのではないか。それでは人材が育たない」
「海技資格の乗船履歴を短くして欲しい。四級海技士試験に必要な乗船履歴は3年だが、長すぎると感じる。もちろん経験を積む必要はあるが、安全できる人は1年でできるし、できない人は3年経ってもできない」
「役職がつくまでは給料も安いので、1年頑張れば給与が上がるというのは若い人にとって船員という職業の魅力向上につながる」
「規制緩和による事故の増加などの懸念はあるが、それをしっかりと担保したうえで、緊張感を持って仕事をすることが若い船員の成長に繋がる」
「トヨタが静岡県で進めている実験都市はあたかも『ドラえもん』の未来の世界だと聞く。一方で、内航船はいまだにファクスが主な連絡手段で、推進機関もディーゼルから変わっていない。スターリンクなども登場しているが、全体的にアップデートが必要だと思う」
「アップデートといっても、そもそも積み揚げ地の工場の設備が変わらないため、船の大型化もままならない」
「内航船員の求人時の給与表示は手取り額が一般的だが、陸上職業と同じように総支給表記にして欲しい。例えば税金が上がって手取りが減ると、船主に怒りの矛先が向く」
「最近陸上から転職してきた人がいて、その人は総支給と手取り額を理解してくれている」
「税金と言えば、今治市などの一部の自治体が外航船員を対象に行っている住民税の減免措置を内航船員にもぜひ実施していただきたい。海事都市としての認知が広がれば、住む人も増えて税収増につながるのではないか」
「若手の税金に対する不満は大きい。3カ月乗船1カ月休暇の船員であれば、年間90日しか陸上におらず、市民サービスを受ける機会が相対的に少ない。こうした現状も鑑みて検討いただきたい」
「日本にとって海運は欠かせない産業だ。国には船員の職業的地位の向上とコスト面での支援をお願いしたい」
「船員をしっかり育成している人たちが報われて、ちゃんと利益を得られるようにするべきだ」
「エンドユーザーの理解がないと、船員の職業的地位の向上や運賃・用船料の値上げは難しい。今は米不足によって米農家の皆さんに対する理解が進んでいる。エンドユーザーが興味を持てばマスコミも取り上げてくれる。内航海運は一般消費者との接点が少ないため、こうした機会を増やしていくことが必要だ」
― 本日はお忙しい中でお集まりいただき、ありがとうございました。
(連載おわり)