2025年4月3日無料公開記事内航NEXT
栗林商船の新中期経営計画
《連載》栗林商船の新中期経営計画<上>
国内物流収益力向上と事業多角化
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(左から)栗林広行常務取締役、栗林良行取締役
栗林商船(栗林宏𠮷社長)は2025年度から3カ年の新中期経営計画をスタートした。重点課題は、国内物流事業の収益力向上と事業ポートフォリオ拡充によって外部環境に左右されにくい経営体制を構築すること。そのために主力の内航定期船事業で運航船を1隻増やし、物流2024年問題によるモーダルシフト需要を取り組む。事業の多角化では、既存事業の強化に加えて、海運周辺分野の新規事業をM&Aも含めて検討する。栗林広行常務取締役と栗林良行取締役に、新中計の具体的な取り組み方針と、その一つである「マーキュリア・サプライチェーン投資事業有限責任組合」への出資のねらいを聞いた。
― 新中計の重点課題は。
「主力の国内物流事業の収益力向上が大きな取り組みの一つだ。中でも柱になるのがRORO船による内航定期船事業で、運航船を1隻増やしてグループ一丸となって集荷を行う。事業ポートフォリオの拡充では、海事周辺分野でのM&Aなども積極的に検討する。いずれも外部環境に左右されにくい経営体制の構築を目指すものだ。第1次中計(2022~24年度)では日本の社会・産業構造の変化に対応して内航定期船の貨物の多角化を進めたが、今回の第2次中計では既存事業の充実とともにポートフォリオ拡充にも取り組んでいきたい」
「新中計を成功させるには人材が鍵となる。25年度に陸上職の賃上げを実施するなど、採用競争力を強化する。キャリア採用も引き続き行う。会社を大きく変えようというタイミングでは外部の知見も必要と考えており、さまざまなタイプの人材を採用して組織を強くしていきたい」
― 27年度の経常利益目標35億円達成に向けた道筋は。
「内航定期船の増便と既存事業の収益力強化、ポートフォリオ拡充で達成する。増便による運航コストが先行するため25年度の経常利益は一時的に減少するものの、26年度からは増便による収益増加が寄与してくる見立てだ。徐々に貨物が増えるという堅実な計画を立てている。ポートフォリオ拡充は、当社とシナジーのある事業でお互いにメリットがあればM&Aを含めて前向きに検討する。当社グループは外航海運業も手掛けており、現在は近海不定期船2隻体制だが、規模と収益力を上げていきたい事業であることは間違いない。船腹増強のチャンスがあれば検討する」
― 内航定期船増便の具体的な計画は。
「現在他社に貸船しているRORO船1隻を、2025年度後半に自主運航に切り替えて既存航路を拡充する。対象航路は現在検討中だ。今回の拡充は、物流の2024年問題を発端としたモーダルシフト需要の高まりが大きな要因。2024年問題で雑貨と商品車の取り扱いが増えており、航路別に見ると東京―大阪、仙台―大阪など本州間の輸送が伸びた。これらを踏まえ。既存航路を増便してサービスを拡充し、2024年問題とモーダルシフトを後押する」
「2024年問題では、貨物はフェリーにまずシフトし、RORO船に広がっている途中と認識しており、来年度以降さらに増えていくと見ている。RORO船で今伸びている貨物は、建築部材などの平ボディ車で運ぶ貨物で、陸送が難しい大型の貨物からシフトしてきているようだ。商品車や販売用のトラックもそうした貨物の1つだ。キャリアカーであれば一人のドライバーが運べるのは乗用車5台だが、船舶なら何百台を一気に運べるため、モーダルシフトの効果を発揮しやすい。RORO船は冷凍冷蔵や危険物などのさまざまなジャンルの貨物を扱えるため、貨物の多角化という点でも営業活動に引き続き注力する」
「釧路港発着貨物にも注目しており、北海道は広いので道北・道東からのトラックが同港にシフトしていくのではないかと見ている。24年10月にイオン北海道が釧路店に納品する衣料品や食料品などの一部商品の輸送を当社の苫小牧—釧路航路にモーダルシフトした」
― 新規事業の具体的なイメージは。
「当社の主力事業の内航海運業と親和性の高い事業を中心に考えている。われわれはRORO船を主軸とした複合一貫輸送にグループ一体で取り組んでおり、そのプラスになるような事業を念頭に置いている。海事産業や陸運、港湾、倉庫などの物流に直接関連する事業はもちろん、荷主サイドの事業も視野に入れている。実際に富良野の青果物卸売業者である北千生氣(きたちせいき)を連結グループ化した実績もある」
「事業ポートフォリオの拡充は、経営のさらなる安定化につながる。RORO船の貨物の多角化を進めるのに加えて、これまでと違うこともやらなければならないという意識がある。人口減少といった課題もある中、栗林商船としてこれまでの歴史を大切にしつつ、新しいことに挑戦していくことは成長戦略として意義がある」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)