2025年2月18日無料公開記事洋上風力発電

洋上風力バリューチェーン全体に貢献
商船三井、発電事業や北拓の知見活かし

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商船三井は調査から建設、O&M(運転保守)に至るまで洋上風力発電のバリューチェーン全体で幅広いサービスを提供しており、SOV(サービス・オペレーション・ベッセル)やモジュール船の保有・運航、O&M人材の育成、台湾の「フォルモサ1」発電事業への参画など多角的に取り組んでいる。森口岳泰風力事業ユニット長は同社の洋上風力発電関連事業の強みについて、発電事業そのものへの参画と北拓との資本提携を挙げる。この2つの強みを活かし、洋上風力分野でメニューを拡げている。

発電事業への参画について、森口ユニット長は「発電事業自体への関与は船のユーザー視点からの学びが多く、船会社としてのメニューの伸びしろにつながっている。洋上風力のプロジェクトで実際に起きていることを、さらにさまざまな角度で見ることができるように、発電事業との関わりを強めていきたい」と語る。北拓との資本連携については「昨年資本提携した北拓はすでに陸上風力で確固たるメンテナンスの実績とノウハウを持っており、それを洋上、あるいは海外に展開し、船とメンテナンスをパッケージで提供していくことが今後可能になる」とし、グループで連携してサービスの付加価値を高める方針だ。

森口風力事業ユニット長

メンテナンス作業員輸送を行うSOV事業では、商船三井は大統海運(タ・トン・マリン)との合弁会社の大三商航運(タ・サン・シャン・マリン、TSSM社)を通じ、台湾で事業を展開している。SOV“TSS PIONEER”は2022年に竣工し、オーステッドと締結した最長20年間の用船契約に投入されている。「同船はアジア初のSOVで、いわばフラッグシップのような存在として業界内外からの注目度も高い。顧客満足度も高く、洋上風力発電所の順調な操業に貢献できている」(森口ユニット長、以下同)。

“TSS PIONEER”は111基の風車で構成される大彰化洋上風力発電所のメンテナンス支援に従事しており、波等による船体動揺を吸収するモーション・コンペイセイション機能を備えたギャングウェイを風車に接続し、安定した姿勢でメンテナンス作業員を風車に渡すことができる。操業開始以降、風車への接続回数は約4000回にも上る。SOVの収容人数は90人で、乗組員が約30人、メンテナンス作業員が約60人だ。2週間に1回、基地港に定例寄港し、燃料補給や食料品の積み込み、作業員や乗組員の交代などを行い、再び沖合に戻る。「乗組員にはDP(ダイナミック・ポジショニング)、ギャングウェイやクレーン専門のオペレーターのほか、船にはホテル機能もあるため客室の清掃や洗濯などを行うケータリングクルーがいる」

SOVは2隻目が今年末、3隻目が26年末に竣工する予定だ。「“TSS PIONEER”は完成した発電所のメンテナンス作業に投入されているが、建設工事におけるSOVのニーズの高まりも現場で感じていたことから、発注を決めた。2隻目は最初の用船契約がすでに決まっており、3隻目はマーケティング活動を行っているところだ。4隻目以降についても需給バランスを見ながら考えていきたい」

SOV事業の今後の展開について、「TSSM社のSOV事業は台湾での運航がメインだが、当社のSOV事業はグローバル市場に打って出る覚悟だ」。欧州をはじめ、韓国や米国も視野に入れる。各地で現地のパートナー会社とともに取り組んでいく方針だ。「人員を輸送するCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)やSOVは内航船と同じ扱いで、外国企業が単独で取り組むには難しい場合が多い。地元のパートナーとの連携が1つの肝だと考えている」。日本向けについては、「当然、ホームグラウンドとして地に足をつけてやっていきたい。国内プロジェクトの建設工事の本格化、操業に目掛けてどのような船をどういったかたちで投入していくか検討を進めている。CTVも顧客の要望に応じて対応していく方針だ。必ずしもCTVかSOVかということではなく、CTVとSOVが併用されることで建設工事や操業の効率化を果たせる世界もあると考える」

商船三井グループは洋上風力発電のバリューチェーンで多様なサービスを用意する中、浮体式洋上風力のフィールドを「本丸」と位置付ける。この分野では、グリーンイノベーション基金「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトのフェーズ2となる浮体式洋上風力発電実証事業で、愛知県田原市・豊橋市沖のプロジェクトに商船三井は北拓とともに参画しており、北拓は風車のメンテナンス、商船三井はCTVの運航を担う予定だ。また、商船三井は2023年に浮体式洋上風力開発を行うノルウェーのオドフェル・オーシャンウィンドに出資参画しており、今年中に技術者を現地に派遣し、事業開発に関わっていく方針だ。

また、昨年発注したJFEエンジニアリング向けのモジュール船は26年春に竣工予定で、竣工後はJFEエンジニアリングのモノパイル製造拠点(岡山県笠岡市)から国内の洋上風力発電建設地への海上輸送に投入される。「モジュール船については日本向けに限らず、外航にも領域を広げていきたいと考えている」

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