2025年1月30日無料公開記事海事都市今治の20年

《連載》海事都市今治の20年
今治船主、歴史と伝統が強み
伊予銀×愛媛銀×広島銀座談会<上>

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左から、松崎氏、品部氏、岡村氏

 20年前の市町村合併によって誕生した新・今治市は、日本では最大、世界でも有数の船主集積地だ。その特徴や強みは「歴史があることと、情報が入ってくること」「国内船主のパイオニアでありベンチマークである」「歴史と経験、人脈、情報などが揃っている」などと指摘される。今治船主、今治海事クラスターなどについて、地元金融機関の船舶融資担当者に座談会形式で語ってもらった。
座談会参加者(社名五十音順)
伊予銀行執行役員シップファイナンス部長 松崎哲也氏
愛媛銀行常務執行役員船舶ファイナンス部長 品部雄二郎氏
広島銀行船舶ファイナンス部長 岡村正之氏
(司会)海事プレス社 中村直樹


■課題は人材


― 今治船主の特徴と強みについてどのように認識しているか。

松崎「強みは歴史があることと、海事クラスターが今治にすべて揃っているのでいろいろな情報が入ってくることだ。しかも、こちらから情報を取りに行かなくても今治を訪ねてきてくれる仕組みが出来上がっている。船主の皆さんは過去の苦しい時代を含めた歴史を乗り越えてきているので、対応方法やノウハウが蓄積されているのも強みだが、時代が変わっているので新しいことへのチャレンジも必要だろう」

品部「強みは歴史と経験、人脈、情報などが揃っていることだ」

岡村「歴史と経験の上に強固な経営基盤を持っておられ、国内船主のパイオニアでありベンチマークであるのが今治船主だと思っている。それに加えて海事クラスターが形成されていることや、人材育成面を含めて地域との連携が取れていることも強みだと認識している」

― 歴史のある船主はやはり強い。

品部「若い頃にお話しさせてもらった時に、為替・金利がこうなったらどうなるなど、いろいろなことを教えてもらったが、多様な経験があるからそういう話ができるのだろうと考えていた。実際に体験・経験した人から話を聞くのとそうでない人から話を聞くのでは重みが違う」

― 情報力も今治船主の強みとしてよく指摘されている。

岡村「同感である。今治には自然に人と情報が集まる仕組みが構築されている」

品部「県内でも今治とそれ以外の地域ではかなり大きな情報格差があるように思える」

― その他の特徴は。

品部「一杯船主から大手船主まで、内航、外航も含めて多様な船主がいることだ。こうした地域は少ないだろう。一杯船主や保有隻数が少ない船主は経営が難しい面もあるかと思うが、多様な船主が一緒になって頑張っているところは面白いし、今治の魅力でもあるのだろう」

岡村「パイオニア精神、チャレンジ精神、かつ明確な戦略と実行力を持っていろいろなことに挑戦されているので、船隊構成は多種多様であり、他の地域の船主も参考にされている」

松崎「今治の中でも伯方島の船主と、波止浜や波方の船主とでは考え方が異なるのは面白い。大きい船を造るとか、新しい船を造るとか、いろいろな考え方があるが、どれが良いとか悪いとかという話ではない。この地域の船主には個性がある」

― 課題はあるか。

品部「造船所だと設計人員が足りなくなっていて、船主だと船舶管理監督が不足しているという話はよく聞く。当行の取引先の中でも人材育成を自社だけで取り組んでいくのは難しいので、数社で連携しながら進めていきたいという話もあった。現実的にできるかどうかは別にして、こうした構想をもう少し広げて、例えば今治の中でメジャーな船主が共同で取り組むようになれば、人も育てやすいし、コストも低くなるのではないかと思う。人材不足は共通の課題だ。それを克服するには、業界連携がキーになると考えている。海事クラスターもそうだが、人材育成でも皆さんで協力してやれれば人材不足にも対応できるのではないか」

松崎「課題は人のところが一番大きいと思う。人を集めるには学校などをうまく活用できれば良いが、街に魅力がないと人は来てくれない。今治や伯方島では街づくりに着手しているので、その面では良い取り組みだと思う。われわれもその取り組みに何らかの形で関与していきたい」

岡村「私も人材確保の面だと認識している。今治においては国際海事展バリシップや、造船所主催での地域の方々との交流会なども積極的に開催されている。業界に触れる機会が多くあればあるほど、人が集まり、人材が確保できる機会にもなるので、われわれもお手伝いできることは、積極的に関わっていきたい」
 

■リスク要因が増加

― 今治の船主に関する過去20年間の大きな変化を3つ挙げていただきたい。

松崎「一番大きな変化は契約の形態が変わってきたことだ。昔は国内用船者の長期案件が主流で、われわれも取り組んできたが、今は海外用船者が当たり前になっているし、用船期間が短くなったり、BBC(裸用船)が増えたりもしている。船主が時代に合わせて変わってきているように、われわれも海外用船者や短期用船の案件、あるいは用船に頼らないような案件への対応を迫られている。融資も時代に合わせて変わってきている」
「2つ目はさまざまなリスクが増えてきていることだ。金利や為替のリスクは従来からあったが、契約形態の変化に伴って用船者リスクの問題も出てきていて、リーマン・ショック後の不況時には用船者が倒産するという経験もしている。われわれもオペが倒産する可能性があるという認識はあったが、それが現実になったのが2015~16年くらいで、円高や為替といった従来のリスクとは異なるリスクを意識せざるを得なくなった。海運市況や船価の動きなども含めて、リスク要因がすごく増えていて、多方面に気を配らないといけなくなっている」
「3つ目の変化は環境対策だ。船主も環境対応船やCO2排出対策などに対応していかざるを得ないが、20年前にはなかった話だ。業界全体として環境面を意識しなければならない状況になっている」

品部「1つは船隊規模を拡大している船主が多いこと、2つ目はそれに伴って企業体力が上がっていることだ。ただ、これからも船隊拡大が続くかというと疑問が残る。数は少ないものの船隊規模を意図的に縮小している会社もあるし、これから環境規制が進んで新燃料船になると船価が上がるので、船隊規模を維持、拡大していくのが難しい面もあるからだ。企業体力のところは事業環境によるところが大きい。現在のキャッシュリッチな状況は中古船のマーケットが良いタイミングで売船できたり、円安傾向だった影響を受けているからだ。3つ目は、世代交代がスムーズに進んでいることだ。若い世代になって考え方も今時になって、非常にクールというかシビアになっている」

岡村「1つ目は、海事クラスターの連携強化だ。海外を含めた業界関係者の方々も今治に拠点を置かれるなど、クラスターの輪が拡大してきたことも大きな変化と感じている。2つ目は船隊規模の拡大と船種の多様化。3つ目は資金調達の多様化。やはり、強固な経営基盤とチャレンジ精神を背景に、着実に事業拡大されており、それに伴って既存金融機関によるビジネス強化に加え、新しい金融機関も続々と船舶融資に参入している。特に、新しい金融機関の参入は、今治船主のビジネスが着目されている証しだと認識している。余談ではあるが、船主業が家業から事業に変わっていることも変化の1つではないかと捉えている」

品部「松崎さんの言う通り、契約形態は大きく変わっている。昔は国内オペの中長期契約が主流だったが、今は国内案件が少なくなってきたり、用船期間が短期化してきたり、BBCやSLB(セール・アンド・リースバック)の案件が増えてきたり、以前はなかったプール運航や市況連動の用船料が出てきたりもしている。市況連動は、市況が下がってきた時に定期用船契約が難しくて仕方なく導入する形で増えてきたイメージだが、マーケットが良くなった時にその契約形態を享受した船主もいた。再びマーケットが悪くなって用船料が下がり出したタイミングで、どう対応していくのかの判断が今後の企業体力にも影響を及ぼすことになるだろう。また、償却資産の確保やキャッシュリッチになっている状況もあって、航空機や不動産、オペレーティング・リースなどの案件も増えてきている印象だ」
(下につづく)

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