2025年1月16日無料公開記事海事都市今治の20年

《連載》海事都市今治の20年
人が集まり強くなる
【座談会】日鮮海運×今治造船×BEMAC④

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn

座談会参加者(氏名五十音順)
日鮮海運社長 阿部克也氏
BEMAC社長 小田雅人氏
今治造船社長 檜垣幸人氏
(司会)海事プレス社 中村直樹


異文化を取り入れる


― 将来的に海事都市・今治をどのような場所にしていきたいか。

小田 海事都市は今治の核であることは間違いない。船に関わる人たちが集まるとすごく強くなる。一方、思考や行動は許容範囲が狭くなり、海事産業の常識に染まると広がりがなくなるので、異質のものを受け入れる懐の深さが必要ではないか。船の業界は、今治で会った人が次にはドイツで出会うような狭い業界でもある。スポーツ、食、アートや他業界が集まることができる街にしていくことが大事だ。さまざまな意見が集積する場所にしてこそ、さらに懐の深い業界になると思う。そのために人材や企業をどう集めるかだ。

檜垣 人口が減り、人手不足が深刻になる中、外から人が来てくれる、移住してくれる街にしたい。この20年で変わったことは造船業など海事産業もタオル産業も外国人が増えたこと。インド、フィリピン、中国、インドネシアなどから多くの人が来てくれているので、外国人も今治で働きやすく稼げる街にしないといけない。15年以上働いているフィリピン人の子どもが日本語しか話せないという場合もある。また、高い教育レベルを求める外国人の要望もあるので、インターナショナルスクールなども必要だろう。そのような人たちにとって住みやすい街にすることが、今治に人が集まり、地方創生にもつながる。今治は住みたい田舎ベストランキングに挙がるが、まだその実感がわかないところもある。実感を味わえるような街づくりをしないといけない。サイクリングのような観光資源もできてきたし、インバウンドで欧米からの人が増えるとサービス産業も盛り上がるだろう。多様な人が集まる街にしていきたい。

阿部 今治市の人口は15万人だが、問題はその構成だと思う。高齢者が多く、若い人が少ない。若い女性は特に少ない。千葉県流山市では子どもの送迎の仕組みがあると聞く。今治は港づくりやコンベンションセンターの設置を進めるが、ハードだけでなく、インターナショナルスクールや子どもの送り迎えなどソフトの部分も同時に取り組むことで、若い人が生活しやすい街にしないといけない。伯方島も人口が減っている。街づくりをして人口5000人前後を死守し踏み留まろうとしているが、人口を増やすには外国人に頼らないといけない状況だ。実際、人口の1割は外国人で500人ほどおり、フィリピン人など海事関係者が多い。魅力ある街にすることで自然と暮らす人が増えるように伯方島でも考えている。

小田 例えば人口が何人に増えるまで出産、移住に対してもっと補助金を出すといった、極端なことをやらないといけないのかもしれない。

― 人をどう集めるかが将来の課題ということ。

阿部 港も『生きた港』にして、お城や商店街を元気づけると、まんざら捨てたものではないと思う。加えて、ソフトの部分との両立てで進めていくべき。イベントだけで人を集めるのは難しい。時間のある日は里山に行こうとか、港に行って潮風に当たりながらコーヒーやビールでも飲もう、と自然に思えるようになったらと思う。外国にはそういう街がある。

小田 今後20年、30年と長期的に考えると、松山市の存在がとても大事になると思う。今は松山-今治の移動に車で1時間かかるが、これが35分で結ばれたら60万~70万人の生活圏になる。松山は生活費が安く近くに温泉地もある。今は49㎞の距離が遠く感じるが、近くなれば松山の人でも今治で就職しやすくなる。

檜垣 確かに松山と今治が30分で結べたらよい。松山は教育面も充実している。何らかの形で今治、松山、西条を結べたら面白い。
 

あらゆる取り組みを同時に


― 今後、今治市がさらに発展するために解決すべき課題は。

小田 海事都市という視点では、今治は新しい技術を最初に試せる街だと思う。新技術のプロジェクトは北欧諸国と比べてまだまだ少ないように感じる。今治は銀行、商社、損保など周辺産業を含めて海事に関わる人たちがすべて揃っているので、今治から発信し、新しい技術をどんどん試すプロジェクトをもっとできるのではないか。

― そのために足りないピースはスタートアップなどか。

小田 SUNABACOなどIT、スタートアップも徐々に今治に来ている。また、今治に常駐しなくてもプロジェクトに関わってもらうことはできる。そのためにはコンベンションセンターや人が集まる場所が必要だ。

― 今治海事クラスターに海事の教育機関があれば、という意見もある。

檜垣 当社は愛媛大学で寄付講座を10数年にわたり行っており、いまは浅川造船などとコンソーシアムを組んで「船舶海洋工学センター」の運営を支えているが。愛媛大学の船舶関係の学部を今治の新都市にキャンパスとして立ち上げる構想もある。岡山理科大学の今治キャンパスは定員が満杯だと聞く。学生は900人、先生が200人いて、若い人が集まるし、外国人もいる。若い人が来ると街が活性化する。

― 阿部さんはいかがか。

阿部 市町村合併して20年やってきたが、若干の閉塞感があると思う。船隊規模は増したが、日本の用船ビジネスは以前と比べて減り、新燃料、脱炭素に向けてどうしていくかという課題もある。仕事を維持・拡大していくために海外とのビジネスにもうしばらく頼らざるを得ない。日本の造船所にとって中国や韓国はライバルではあるが、組めるところは組んでいただき、ウィンウィンの関係を築いて世界に向かって戦っていければと思う。そのような視野で取り組んでいってほしい。もちろん1丁目1番地は今治であり日本だが、そういう視点でそろそろやらないとオーナーは自分で外へ行ってしまう。先回りしてもらいたい。
 長期的にはハード、ソフト両面からの街づくりが大事だ。今治港は松山や高松よりも早く2023年に開港100周年を迎えた。1万トン前後の船が入港できるようにして、賑わいを取り戻せば、問屋街も街づくりに参加してもらえるのではないか。街づくりをする過程で人が集まると、働く人や人口が増えてきて、賑やかで持続可能な街になると思う。あらゆる取り組みを同時に進めていくことで、初めて効果が出ると思う。11月に今治市の未来創生のために今治造船・正栄汽船・瀬野汽船とともに寄付を行ったが、これが起爆剤になり、今治市民がこの街に誇りを持って全員野球で前を向いて進んでいければと思う。
(座談会おわり。)

関連記事

  • 増刊号修繕ドック2025
  • 増刊号今治