座談会参加者(氏名五十音順)
日鮮海運社長 阿部克也氏
BEMAC社長 小田雅人氏
今治造船社長 檜垣幸人氏
(司会)海事プレス社 中村直樹
投資の哲学
― 今治の海事産業を代表する3社が、お互いをそれぞれどう見ているかを是非お聞きしたい。今治造船のこの20年をお二人はどう見ているか。
阿部 日本国内での建造に特化し、丸亀に大型ドックを掘るという大きな決断もされた。いまや日本の三分の一の建造シェアを持つ造船グループになり、当社も多数の船を建造してもらっている。また正栄汽船も経営している点では船主仲間でもあり、いろいろなコラボもできる、非常に頼もしい存在だ。一方、ここのところ中国造船所の受注がすさまじく、今後、日本と中国の差が広がっていくと非常に問題と思っている。今治造船は日本国内での建造が1丁目1番地であるのは当然だが、われわれ今治の船主が海外に発注せざるを得ない場合もあるため、先回りして、海外に先に出て待っていてほしい、という期待も持っている。
小田 檜垣社長と阿部社長に共通するのは、『投資の天才』。規模もスピードも異常で、とてもキャッチアップするのは大変で、何とか追いついていかなければとこの20年見てきた。檜垣社長にはこれまで、物事は実際の表面上とは違うところで動いており、ビジネスの先の先を見なければいけないということを教えていただいてきた。そのための準備をしっかり整える、ということをこの20年続けている。この先、20年、50年を、どう見ていくかを、しっかり聞いていきたい。
― 投資の話が出たが、投資で心掛けていることは。
檜垣 いざというとき動けるようにキャッシュを持っておくのが基本だと思う。そうすれば余裕がある決断ができる。投資のチャンスは5年に一度くらいやってくる。5年間、待ち続けて、そういうときにドンと投資できるかどうかだ。ちまちまと投資しても効果はないし、自分から投資先を追いかけると、むしろ高くつく。時代が変わる中で、必ず転機はある。そのときに出せる資金を持っておくことだ。それによって相談も来ると思う。ただ、決断するのは本当に怖い。
小田 10年以上先を見据えた投資は、オーナー企業ではないと難しいと感じる。
― 日鮮海運もここ最近の積極的な投資が目を引いた。どういう考えにあったのか。
阿部 脱炭素に向けて世の中が動いているものの、新燃料船はオペレーターや荷主を巻き込まなければできないし、できたとしても数隻から10隻程度。当社はグループ全体で相当な船隊規模になるため、独自にできるベストを探さないといけない。そこで、われわれができることが『トゥデイズ・ベスト』の最新鋭へのリプレースを行うことだった。従来型燃料であっても、主機を最新型にしてチューニングした船型であれば、パナマックスなら年間のCO2排出量が7~8年前の船に比べて4000トンも少なく年1万1000トンで済む。さらにゲートラダーなど、できることはいろいろある。ただ、これを単発で投資しようとしても成立しない。グループで今後の投資方針を相談して決めて、ロットでリプレースに踏み切った。そうすることで用船料やファイナンスも含めて案件が成立する。そういう考えで進めた。古い船を持ち続けていたら、今後どの新燃料を選ぼうかと悩んでいるうちに息切れしてしまう。だが船隊の50%を新鋭船にしておけば、考える時間的余裕ができる。ここから先は新燃料になるので、その時間と余裕を生むための今できる投資だった。
ぶれない経営、発想の経営
― その日鮮海運のことをお二人はどう見ているか。
檜垣 当社と日鮮海運は親子三代にわたる付き合い。私と阿部社長は1988年からのお付き合いだ。当社が計234隻建造した2万8000トン型バルカーの1番船も、日鮮海運向けだった。市況がボトムの時にパナマックスを発注してくれたり、どんなに厳しい時にも、前向きに投資に動いているのが日鮮海運の特徴と思う。今や大型コンテナ船やLNG船を持つ世界的な船主に成長され、尊敬している。
小田 阿部社長は、ぶれない。海外で船主の話を聞くと、こっち向けあっち向けという人もいるが、伯方島と今治を守る思い、規模で勝つということを徹底している。当社も長いお付き合いの中で、日鮮海運から船舶の運航中の技術的な提案をいただき、リアルタイムにいろいろ改善できてきた。また、お二人からは、今治にいる会社を守る、という強い思いを感じており、われわれも大変有難く思っている。一方、守ってもらうだけでなく、当社と付き合って誇らしいと思ってもらえるよう、船主と造船所の困りごとを埋めるために当社がどんな技術を取得すればよいかをずっと考えている。
― BEMACについてはどう見ているか。
檜垣 小田社長とは親子2代にわたる付き合いで、私は20年来の付き合いだ。先代の社長の時代から社員教育と福利厚生がしっかりしているのが大変印象的で、人事方針も参考になる。また投資という点では、BEMACも投資に積極的な素晴らしい会社と思う。良い時期にみらい工場を建設したし、欧州メーカーも買収するなど、積極的な経営をされている。
阿部 みらい工場は、僕ならあのような工場はとてもできないと思う。面白みのない工場になったというか、もう少し地に足のついたものにするというか(笑)。小田社長は、やるべきことをやりつつ、発想がちょっと違う。本業の配電盤や電気工事を愚直に追求するという方法もあるだろうが、そうではなく、軸発電機の海外メーカーを買収したり、動きが面白く、いつも楽しみにしている。
― BEMACはアイデアが面白い。
小田 みらい工場は「こんな無駄だらけの工場は初めて見た」とも言われた(笑)。当社は以前は発信力のない会社だったことが課題で、少し背伸びして外に発信することで、他よりも先に情報や人材が集まるという想定で、無理をしてでも発信するようにしている。
阿部 電気自動車を作るとか、発想がすごい。
小田 その分、いろいろ失敗もある(笑)