2024年7月12日無料公開記事

日本クルーズ市場へのインパクトは
ディズニークルーズ、最大の日本船籍就航で

  • X
  • facebook
  • LINE

ディズニークルーズ(イメージ) ©Disney

【解説】9日、ディズニークルーズの新造船が日本で就航することが発表された。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが契約を締結、新規事業として実に3330億円を投じるという。新造船は14万総トン級の日本籍船。このビッグプロジェクトが日本のクルーズ市場に与えるインパクトとは。
 

■日本籍船にする意義


そのニュースは予想していたよりもはるかにビッグニュースだった。東京ディズニーリゾートなどを運営するオリエンタルランドがディズニー社とライセンス契約を締結、同社がこれまで手掛けてきたテーマパーク事業やホテル事業に次ぐ第3のビジネスとしてクルーズ事業に新規参入するというのだ。しかも2028年をめどに、ドイツのマイヤー・ベルフトで14万総トン級客船を新たに建造し、日本籍船にするという。就航すれば日本籍船として史上最大となる。

ディズニー・クルーズラインの客船が日本籍になるというインパクトはかなり大きい。記者会見の場でオリエンタルランドの吉田謙次社長兼COOは「顧客のニーズに合った無寄港で短期のクルーズができること」を日本籍船にした理由として挙げた。

現在米国を拠点にしているディズニー・クルーズラインが運航している客船はすべてバハマ籍。そしてバハマ籍のままでも日本周遊クルーズを行うことは不可能ではない。現在のプリンセス・クルーズが“ダイヤモンド・プリンセス”で、MSCクルーズが“MSCベリッシマ”で実施している、外国船籍による日本発着クルーズというスタイルだ。

雑誌『CRUISE』(海事プレス社刊)編集部が当初予想していたのは、ディズニーもこのスタイル、外国船籍のままで日本発着クルーズを行うというもの。すでにディズニー・クルーズラインの船は米国を拠点に5隻就航しており、今後3隻就航する予定がある。2025年からは初のアジア配船としてシンガポール発着も決定しており、日本来航も近いと目されていた。

ただしオリエンタルランドはその道を選択しなかった。外国船籍のままだと「クルーズ中に一度は外国の港にワンタッチすること」というカボタージュ規制があり、例えば横浜発着でクルーズを実施した場合、最低でも5泊程度の航程になってしまうからだ。

カボタージュ規制とは、自国の沿岸輸送(内航海運)は自国籍船に限るという規制である。 国家の安全保障や国内産業の保護などの目的があり、例外はあるものの日本以外の多くの国でその政策がとられている。だから外国籍船によるクルーズでは、クルーズ中に海外にワンタッチするコース設定になっている。

先述のとおり、吉田社長兼COOは、当初は2泊~4泊の無寄港のクルーズを実施するとした。このクルーズを実現するには日本籍船にするより他に手段はなく、それが今回の英断につながったといえよう。
 

■気になるクルーズ代金は


今回のディズニークルーズに関しては、記者会見で1人当たり10万~30万円という価格帯が提示された。これには食事代やショーなどのエンターテインメントを含む価格で、一般的な客室の価格だという。

オリエンタルランドは就航後、安定的な運航がなされた場合、年間40万人の集客と1000億円の収益を見込んでいるという。平たくすると1人当たり25万円となる。先に1人当たり10万~30万円の価格帯と記載したが、客室の中にはコンシェルジュサービスが付くものや、広々としたスイート客室も設けられることも考えると、1人当たり25万円という売り上げ見込みは非常に現実的だろう。

現状、東京ディズニーリゾート周辺のホテル、それも最上級の客室が満室で予約が取りにくいことを考えると、ディズニークルーズの勝ち筋も見えてくる。日本船籍にすることで運航コストが上がることが予想されるが、それもディズニーというブランド力で回収できるのだろう。

ちなみに米国でディズニー・クルーズラインはいわゆるカジュアルクルーズ、気軽に参加できるクルーズラインに属すとされている。しかしディズニーという世界観が共有できるゆえ、カジュアルなクルーズラインの中では、クルーズ代金は比較的高額で、1泊1人当たり約200ドル~。このクルーズ代金に加え、現地まで行く飛行機代などを考えると、日本のディズニークルーズの価格設定は非常に妥当なものになりそうだ。


■日本籍船をドイツで建造


オリエンタルランドは現在就航中の“ディズニー・ウィッシュ”をベースとした新造船を、同船と同じマイヤー・ベルフトで建造するとした。現在マイヤー・ベルフトでは、日本籍船の“飛鳥Ⅲ”が建造中だ。ディズニークルーズの新造船が建造される暁には、“飛鳥Ⅲ”で養った英知が生かされることが想像される。


■発着・寄港する港は


米国のディズニー・クルーズラインでは、カリブ海エリアでは「キャスタウェイ・ケイ」というディズニーのプライベート・アイランドに寄港するのが一般的なコースになっている。日本の場合、当初は首都圏発着の2泊~4泊の無寄港クルーズから始めるという。これはいわゆる「どこの港にも寄らないクルーズ」で、その分洋上の夢の国を存分に楽しめる航程だ。

どこの港から発着するかも気になるトピックスだろう。現在、ディズニーランドのお膝元である千葉県では木更津港が16万総トンサイズのクルーズ船まで着岸可能となっている。ただし今回の記者会見では詳細は明らかにされなかった。どこの港が発着港になるのか、はたまた新たなクルーズターミナルを新たな場所に建設するのか…想像は膨らむ。

吉田社長兼COOは「ゆくゆくは海外クルーズなども実施したい」との構想を明かした。ただし14万トンのサイズとなると、入港できる港も限られてくる。16万総トンの“MSCベリッシマ”が現在までに入港した港湾などは寄港の可能性があるかもしれない。

ディズニークルーズの日本就航は2028年とあと4年後。それまでは今後のニュースを楽しみに待ちたい。
(吉田絵里)
  • カーゴ
  • 第10回シンガポールセミナー