2023年10月2日無料公開記事内航NEXT 内航オペレーター座談会

<内航NEXT>
《連載》内航オペレーター座談会<下>
内航船のCO2削減に既存技術を動員

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左から、栗林氏、田渕氏、榎本氏、杤木氏

<参加者(社名五十音順)>
榎本回漕店 榎本成男社長
栗林商船 栗林広行常務取締役
田渕海運 田渕訓生社長
杤木汽船 杤木一彌常務取締役
<司会>
海事プレス記者/COMPASS編集長 日下部佳子

■燃料転換にハードル

 — 内航船の環境対応に話を進めたい。脱炭素化に向けて有力と思われるソリューションについてどう考えているか。

田渕 国土交通省は内航海運について2030年までに二酸化炭素(CO2)排出削減目標を17%減(13年度比)を目指し、それに向けて連携型省エネ船の導入を進める。この削減であれば、エンジンを変えずに船型や省エネ付加物の組み合わせで対応できそうだ。ただ問題は2030年の先。例えば2040年に40%減など、より高い削減目標が設定されると対応は大変だ。

榎本 内航海運から排出されているCO2は産業全体の1%と小さい。その中で、内航海運にどこまで求めるのがよいのか。

田渕 現在の削減目標には対応するにしても、その次の目標を設定するには、新燃料の供給に関する答えを示すことが必要だろう。新燃料の技術は外航船から持ってくるとしても、日本の港で重油以外の燃料の供給を受けられるのかが大きな問題になる。

杤木 内航海運はもともと無駄のないエコな輸送モードだと思うが、われわれもそれにあぐらをかいているわけにはいかず、何かしらの対策をしなければならない。当社としては、運航面の取り組みとして、減速航海にも取り組んだが、燃費改善効果がある一方で、航海時間が長くなるので船員の働き方改革には逆行する。船を満船にして航海の回数を減らして、仕事量に対するCO2排出量を減らすことはできるのだろうが、オペレーターにできることはそうした工夫に限られる。来年竣工する当社の新造船は燃費のよいエンジンを搭載する。自社船なので、燃費が良くなればその分、収益に反映される。一方、船主がそのような船を提供してくれても、燃費が良い分、用船料を上乗せするシステムが現状ない。そうした仕組みを考えていかなければいけないだろう。

栗林 当社のRORO船は次の新造リプレースまでに新燃料の方向性や港の補油体制が整うかを見ながら、新燃料を使った船や、私の祖父の栗林定友相談役が開発に携わった「ゲートラダー」を搭載した低燃費運航船など、環境対応を重視しながら新造船の投入を検討していきたい。ゲートラダーは、コンテナ船に搭載した実績として、約15〜20%の燃費改善を実現している。さらに肥大船型では2〜30%を越える可能性もあり、検証中である。これを広めることで、CO2排出量の削減に貢献できると考えている。当社も次のリプレースで搭載を検討している。実績があるのは499総トン型とコンテナ船だが、海外ではバルチラと提携して大型船への搭載も進めている。設計をしっかりすれば、どのような船でも成果が出ると考えている。また、2050年カーボンニュートラルという課題に対応するため、既存船に対しては大規模な設備投資を行わずに新たな燃料へ切り替えられるかどうかを検討していく必要があると思う。

杤木 ゲートラダーで15%の燃費改善効果があるというのはかなり大きい。非常に前向きなアイデアだと思う。

栗林 初期投資はかかるが、数年あれば十分に費用対効果を期待できる。

— 環境対応コストについて、他にはどうか。

栗林 CO2排出量を削減するためにはコストが上がる。RORO船の場合は、トラックや鉄道と競合しているのでコストが上昇すると競争力が低下する。内航海運の環境対応を本気でやるのであれば、環境対応船が普及するまでの間、国による補助をしていただきたい。

榎本 499総トン型以下の小型船の場合、たとえ補助金があったとしても環境対応のコストを吸収できるのか気になるところだ。小型船は不定期船が多いので、各地のインフラの問題もあって、現状では(新燃料対応は)難しいと言わざるを得ない。オペレーターだけで取り組めることでもない。現実的なのは先ほど話が出たゲートラダーのような既存技術とこれから出てくる技術を組み合わせて、できるだけCO2を削減することだと思う。

栗林 脱炭素化の問題は船会社だけで解決できるものではない。造船所やエンジンメーカー、行政や荷主も含めて解決していかなければならない課題だ。

— 田渕海運は、新燃料船への取り組みに着手している。

田渕 メタノール燃料船への取り組みを始めている。商船三井内航と共同で2024年度からメタノール燃料船を動かしていき、成功すればシリーズとして増やしていきたいと考えている。積み荷がメタノールの船で取り組んでいるものだ。また将来は、洋上風力発電の電気で海水を分解してつくった水素にCO2を加えて合成燃料をつくるなど、化学の総力により生まれてくる知見に期待したい。将来考えられる新燃料は「安全・安定・安価」により近いものが優位であることから、しばらくは重油燃料なのだろうが、やはりメタノールにも大いに期待したい。水素が増えてくれば水素燃料電池も注目を浴びてくるが、電気は保管するのが難しいので、一般的な内航船への導入には時間がかかるだろう。

■認知度向上が必須

— 内航海運のさまざまな課題についてお話しいただいた。各種課題の解決に向けて、内航海運業界として取り組むべきこと、関係者に要望したいことはどのようなことか。

榎本 内航業界の認知度を向上することが大事だ。船員だけでなく、陸上社員も内航海運について最初から理解して入ってくる人は少ない。認知度を高めることが、優秀な人材の採用につながる。個別企業だけでなく、業界団体や行政で力を合わせることが必要だ。内航海運のPRをすることが、船員の確保にもつながっていけばよい。そして、まずは職業の選択肢として内航がリストに入るようにしていきたい。

田渕 栗林商船が出た内航のYouTubeチャンネルのように、一般の人が内航船を目にする機会が増えると理解度が上がっていく。

栗林 当社を取り上げていただいたYouTube動画は、再生回数が30万回くらいになっている。

田渕 内航船の食事風景など船内の動画を発信している人もいる。当社も独自のYouTube動画を増やしていき、日本内航海運組合総連合会(内航総連)の広報活動に協力したいと思っている。

榎本 内航総連の広報活動に、若い人たちの意見をより反映させていくとよいと思う。これから入ってくる世代に近い若手の感覚も生かしながら、うまくPRのやり方を考えていければよい。この秋に、全国海運組合連合会(全海運)の若手の会で意見交換を行い、内航のPRについてプレゼンを行う予定。よいアイデアが出てきたら内航総連などにも展開していきたい。また、内航業界団体の役員などに若手や専門家が参加できるような工夫をしてもよいのではないか。

栗林 船員を目指して商船高等専門学校に進学する人は、中学生の時点で進路を決めなければならない。また各養成機関の志願者減少もあり、船員という職業のアピールを子供たちへも行っていく必要があると思う。

榎本 関東の船員対策連絡協議会で小中学校への訪問を増やそうと思っている。商船大学への進学を考えても、高校からでは遅く、小さいうちに海運について認識してもらうことが必要だ。小さい子どもにとって内航の小型船といっても大きい。私の子供が小学生の時に499総トン型の船に連れていったら、大きいと驚いていた。私たちにとっては当たり前のことでも、子どもたちは違う感覚をもっている。機械が好きな子には、エンジンルームなど見せると関心をもってくれるのではないか。

田渕 当社の操船シミュレーターを近隣の小学生に見せると感動してくれる。小さい頃にそのような経験をした子たちは、船のイメージがわくはずだ。

杤木 小さなお子さんへのアピールは大事だ。幼い時期に船というものをより身近に感じてもらうことで、将来のビジョンの選択肢に船員が入る可能性が増えると思う。現状では船員という職業が選ばれない以前に、選択肢にすら入れていない。電車や車がロボットに変身するおもちゃはあっても、船が変身するものはない。おもちゃメーカーやテレビ番組とタイアップするのもよいのではないか。そのようなところから入っていくことで、子どもの意識に船を植え付けることができるのではないか。

栗林 認知度ということでは、2024年問題への対策としてRORO船が注目されているものの、船は手配が複雑なのではないかとメーカーなどの荷主に思われている。実際はトラックとあまり変わらない。国土交通省にも一緒にアピールしてほしい。

— 他に業界などが取り組むべき課題はあるか。

榎本 内航海運において修繕費を含めコストが上昇していることを、各社がそれぞれ用船者や荷主に説明をし、交渉するべきだと思う。われわれも船主から用船料の交渉を持ちかけられることが減った印象がある。実際に運賃や用船料が上がるかどうかは別として、それぞれの立場で状況を説明していくことは各社の仕事の1つとして大事だと思う。

田渕 運賃・用船料を上げて欲しいというよりも、適正な水準にしていくことが必要だ。

— 本日はありがとうございました。
(連載おわり)

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