2023年9月29日無料公開記事内航NEXT 内航オペレーター座談会

<内航NEXT>
《連載》内航オペレーター座談会<中>
船主廃業も、自社船拡大で備え

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<参加者(社名五十音順)>
榎本回漕店 榎本成男社長
栗林商船 栗林広行常務取締役
田渕海運 田渕訓生社長
杤木汽船 杤木一彌常務取締役
<司会>
海事プレス記者/COMPASS編集長 日下部佳子

■船価高が課題

— 次に、内航船の船隊整備の方針についてうかがいたい。

榎本 船員を確保できるうちに自社船を少しずつ増やしていきたいと考えている。1隻よりも3隻くらい保有するとコスト効率がよいと言われている。今、廃業する船主も出てきている。後継者や船員確保の問題があることに加えて、中古船が高く売れることも背景にあるようで、日本の内航船が韓国や東南アジアでかなり高額で取引されていると聞く。円安なので海外企業が買いやすいということもあるのだろう。新造船価が安い時に造った船は、売船すれば手元に資金が残るケースもあり、苦労しながら事業を続けるのであれば、手仕舞いしようという気持ちの船主もいると思う。実際、今年秋に当社の船隊に加わる中古船は廃業を想定している企業から購入したものだ。中古船は、高齢船だけでなく、船齢10年未満の船もある。廃業だけでなく、意図的に売って船を切り替えていく人たちも出てきているからだ。当社としては、今後、廃業して抜けていく船主が出てくることを念頭に、ある程度の自社船を確保しておきたいと考えている。

田渕 当社の場合、カーボンニュートラルが叫ばれる前は順調にリプレース船に対する投資、特に大型船への投資を進めたが、今後は2050年を見据え、少しでも二酸化炭素(CO2)を削減できる船に取り組んでいかないといけないと考えている。しかし、内航船での新燃料エンジンの開発がこれからであることと、港などで重油以外の燃料のバンカリングが現状できないので、しばらくの間はエンジン以外の部分でのCO2削減船(連携型省エネ船)に取り組むことになるだろう。現在、久しぶりの船価高に見舞われて当社としては建造を迷うところもある。本来ケミカル船は船齢15年以下で入れ替えていくが、最近は処分せずに船齢20年など長く使っている。船員確保の観点からも船は新しい方がよいので、一定のところでリプレースが必要なのだが、船価が高すぎて稼げなくなる。このためリプレースは少しずつ進めていくしかなく、今後の新造整備は、2025年前後に499総トン型ケミカル船2隻と、竣工時期は未定だが老朽化した自社船2隻のリプレースを検討しているくらいだ。また、まだ時間はかかりそうだが一部の小型タンカーで2層甲板船の研究が進んでおり、今後の展開がどうなるかを見ていきたい。

榎本 一般貨物船も新造船価が上昇しており、運賃水準と合ってない状況だ。

栗林 当社のRORO船は2000年前後に造った船が多く、19〜20年にかけて4隻のリプレースを行った。このため当面の新造整備は落ち着いた状況だ。連結子会社の青函フェリーも22〜23年に2隻連続でリプレースした。造船所は円安もあって海外船主からの発注が増えており、新造船価はかつての1.5倍くらいになっている。舶用機器も値上がりしている。今のタイミングで新造船を造ると採算が合わない。RORO船は固定の荷主がいるわけではないし、競合相手は船だけでなくトラックや鉄道もある。このためわれわれの理屈だけで運賃を上げるのは荷主からの理解が得られ難い。

杤木 当社は、来年自社船をリプレースする。確かに船価は高いが、建造納付金がなくなったことと、低金利、エンジン改善による燃費向上という、コストダウンに寄与する部分もある。自社船を増やすのは、事業を継続できない船主が将来出てくるリスクに備えるためでもある。やる気があってもファイナンスの面でリプレースできない用船船主に対しては、当社がその船主に出資して増資するかたちで一緒にリプレースを進めるやり方もある。船主とのお付き合いに当たり、当社が注目しているのは10年後を担う後継者がいるかどうかということ。未来の見える船主に当社の船隊に参加いただいている。

— 船型についてはどうか。

田渕 船員確保の観点からも大型化を進めたいが、港の整備ができてないことは課題。先ほどお話したように、陸上からの本船荷役の支援や、シーバースの整備などを進めていただくことで、効率的な輸送を実現する必要がある。

— 2021年に内航海運暫定措置事業が終了した影響は出ているか。

田渕 内航業界は特殊な世界なので新規参入はないだろうと思っていたが、実際そうだった。

榎本 内航はオペレーターが多すぎるのだと思う。適正な数になり、オペレーターと荷主、船主とが交渉をしながら、互いに利益を上げられる事業環境になっていくことが必要だ。

田渕 貨物船は一杯船主が多い。もともと一杯船主の良さは家族経営。いわば同じ釜の飯を食うことでコストを安く抑えられたが、最近はそのような状況ではないようだ。家族だけでなく、外部から船員を雇って一緒に船を動かしている。

榎本 家族船だと船長としての給与をもらっていないはずで、そこで浮かせたお金を雇った船員の給料に充てているという状況ではないか。

■荷動き減で船員不足感が一部緩和

— 船員の働き方改革、労働時間規制の影響についてはどうか。

田渕 船員不足で船が止まったりしていると聞くが、働き方改革によって本来はもっと深刻な状況になっているはず。しかし、どうにか船が回っているのは、中国が不景気で貨物が減っていることが背景にあるのだろう。現在のエチレン生産設備の稼働率は80%程度で、皮肉にも船員の働き方改革の上ではちょうどよい貨物バランスになっている。しかし、エチレン稼働率が100%に戻ったら、直ちに船舶が不足し、大幅な船員不足につながりかねないと心配している。とはいえ、中国の不景気は相当根が深いので、今後の輸送需要がどうなるかが注目だ。

栗林 われわれのRORO船は貨物の増減に関わらず定期運航をしているので、そこで働き方改革の影響が出ている。法定労働時間を順守するため一部では増員、または当直の変則シフトで対応している。

杤木 当社が2021年の船の動きでシミュレーションをした結果、働き方改革に対応できていない船が何隻かあった。今は荷動きが低調なので対応できているが、荷動きが戻ったときは影響が大きい。

田渕 RORO船は配乗数が11〜12人ということだが、タンカーも6000キロリットル積みの船は12人乗り。乗組員が多い船は働き方改革に対応しやすいが、6人乗りといった少人数の船になると、荷役作業があるタンカーは特にきつくなる。このため貨物を調整して隙間だらけの配船になっている。それでは本来は採算が合わないはずだが、運賃が上がっていることでギリギリ回っている状況だ。以前であれば空きのないように貨物を詰めるほどオペレーターは利益が出るし、それが船主にとってもプラスとなっていたが、いまでは気を使いながらの配船業務となっている。隙間があると本来は運べない貨物が出てきて困る荷主が出てくるのだが、中国の景気が相当悪いことで、どうにか収まっているのだろう。

栗林 RORO貨物も昨年下期くらいから減っている。トラックや鉄道も含めて全体的に国内の輸送需要が減少している。

榎本 自動車生産は回復してきているが、元には戻ってないし、粗鋼生産は低調だ。

杤木 高炉を閉鎖して電炉をつくることで、新たなる輸送ニーズもでてくるのではないか。また、高炉の集約による半製品輸送の増加もあり、長期的に考えれば499総トン型のニーズは今より増える可能性があると考えている。

榎本 高炉を閉めると、すぐに半製品の輸送が出てくる。その先にはスクラップの輸送需要もあるだろう。ただ、荷主が船団をある程度増やしてきた中で、粗鋼生産が落ちているので、心配のほうが今は大きい。

田渕 以前は中国で造られる鉄が中国国内の不動産建設に用いられ、さらに不足分を日本から買っていた。しかし今は中国の景気が低調なので、中国で余剰となった鉄が逆に安値で日本に入ってくると、国内輸送の面ではマイナスになるかもしれない。
(つづく)

杤木氏

榎本氏

田渕氏

栗林氏

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