2023年9月28日無料公開記事次代への戦訓 内航NEXT

《連載》次代への戦訓
三菱下関と新タイプの客室開発
名門大洋フェリー前会長・阿部哲夫氏④

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 2002年に新造船“フェリーきょうと2”と“フェリーふくおか2”を就航させた。この2隻は当社が三菱重工下関造船所で初めて建造した船だ。それまでは三菱重工は船価が高いという印象があったが、下関造船所の幹部とお会いする機会があり、「何とかうちでフェリーを建造してほしい」と言われ、実際にはそれ程高くなく、三菱重工下関造船所での建造を決めた。これ以来、三菱下関にフェリーの建造をお願いしている。
 三菱下関で建造を決めたのは価格以外にも理由があった。当時三菱重工は欧州向けのフェリーを建造していて、豪華寝台列車として知られる「オリエントエクスプレス」を手掛けた英国の「ダクディルマネジメント・アンド・デザイン社」がデザインを担当していた。客室を充実させたいと考えていたので、同社に内装のデザインをお願いした。そこで生まれたのが現在の「ツーリスト」。それまでの2段ベッドははしごで昇降するため、下段の利用者は騒音や振動に悩まされていた。「ツーリスト」は2段ベッドだが、入り口が上段・下段で互い違いとなるカプセルベッドタイプで、相部屋でありながらプライベートな空間を確保できる客室が実現した。画期的だったため実用新案も取得し、期間が切れるまでは他船社が使用料を支払ってこのタイプの客室を採用していたケースもある。こうしたアイデアの実現に共に取り組んでくれるのが三菱重工の良さだと思う。
 また、女性客を獲得すべくレディースルームやパウダールームの充実に注力しているが、内装を担当する長崎船舶装備・Jフロント社の担当者の方々と長時間議論をした。貨物輸送では1台でも多くトラックを積めることが重要であり、ピラー(主柱)を減らすと振動にも影響するので、船体構造について何度も話し合った。フェリーは出港時間が決まっている。搭載する車両は日々違うため、積み付けは大変な作業だ。乗組員の要望を踏まえたフェリーを建造してくれる造船所に感謝したい。
 客室のグレードアップは、利用者獲得に非常に重要だと感じる。大部屋志向ではなくプライバシー重視の傾向になっている。客室だけでなく、レストランにも力を入れ、品数と価格を意識して夕食と朝食合わせて2000円(現在は2400円)とした。コンビニでも安くておいしいものがいくらでも買える時代なので、温かい料理を提供することにこだわっている。レストランはバイキング形式を取り入れることでコストセーブに努めている。サービスとコストのバランスを見極めることは経営者の重要な仕事だ。

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