2023年7月14日無料公開記事邦船大手トップに聞く人材と海運経営
《連載》邦船大手トップに聞く 人材と海運経営<下>
変化に柔軟に対応できる人材を
川崎汽船・明珍社長に聞く
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グローバルに通用する海運・経営のプロフェッショナルを育成
川崎汽船は2022年度からの中期経営計画で、事業ポートフォリオを支える人材の確保・育成を進める方針を掲げている。明珍幸一社長は、「事業の成長と変革をリードし、かつ事業環境の変化に柔軟に対応できる人を求めている。チームとして力を発揮する環境を整えるとともに、グローバルに通用する海運そして経営のプロフェッショナルとなる人材を確保・育成していく」と話す。
— 社員の採用状況は。
「2022年度は40人が入社した。内訳は新卒採用が26人、キャリア採用が14人だった。環境対応をはじめとするさまざまな要望、中計で掲げた課題に取り組んでいくために、採用人数を増やすことで拡大するビジネス機会に対応していく。今後については、中期経営計画実行に必要な要員を見据えつつ、新卒、キャリア採用を合わせ計画的に実施していく」
「環境技術を磨いていくためには理系人材も必要になる。最近は新卒採用の2〜3割が理系出身者で、多様性の観点からも今後はそのような技術的知見、素養を持つ人材の採用も増やしている」
— キャリア採用はどのような考え方で実施しているのか。
「2つの考え方がある。1つは社会人経験を有し、さまざまなバックグラウンドを持つ人を多様性確保の観点から採用していく方法。もう1つは川崎汽船として特定の機能を強化するにあたり、足りない部分を補強することができる即戦力人材を採用するという考え方だ。例えば法務やITのような専門的な知見を擁する経験者や、資格を持った人などが対象となる。人柄や経験など面接を通じて見ながら採用している」
「キャリア採用の比率は全社員の15%を占めており、管理職では18%となっている。管理職に占めるキャリア採用の比率が在籍比率よりも高く、活躍している人が多くなっている」
— 求める人材像と、その育成方法は。
「『事業の成長と変革をリードできる人材』で、かつ『事業環境の変化に柔軟に対応できる人』を求めている。こうした人たちが集まり、チームとして力を発揮することが重要だ。グローバルに通用する海運そして経営のプロフェッショナルとなる人材を確保し、育成していく」
「新卒採用とキャリア採用では育成の方法も異なる。新卒については、最初の10年で管理部門と営業部門を経験してもらい、キャリアを積み、育てていく。海運のプロフェッショナルとして必要な知識や、財務・会計、その他経営人材として必要なスキルを日頃の業務や研修などを通じて取得してもらう。その後は、専門性を高めていく。本人の希望、能力と専門性を見極めた上で、活躍できるポジションに配置していくことになる。最終的には将来の経営を担う人材として、高度なマネジメントに必要となる能力を高めていく」
「育成において研修の果たす役割は重要だ。海運の実務のみならず、現場を見るという観点から若手を対象に乗船実習も実施している。スキル研修も充実させている。事業変化に対応する人材を育てていくために、今後はデジタル・トランスフォーメーション(DX)の一般的なリテラシーを、全社員を対象に高めていかなければならない。その上で、社内で約100人を『DX活用人材』として育成し、各部門でDXによる業務効率化のみならず、新たなビジネスをリードして活躍してもらうこと目指していく」
— 雇用制度を見直すことはあるか。
「専門性の高い仕事は、求められる役割やタスクと能力があらかじめ決まっているジョブ型の方が好ましい場合もある。先ほど説明したとおり、当社は新卒採用から育成するいわばメンバーシップ型の育成と、キャリア採用を合わせたハイブリッド型により、専門性を高めながらも、総合海運会社としての本社やグループをリード出来る経営人材を育てていく」
— 女性活躍推進と外国人人材の活用方針は。
「川崎汽船グループで働く約6千数百人のうち、当社単体の日本人は約950人しかいない。さまざまなバックグラウンドを持った社員同士でアウトプットを高めていくためには、ダイバーシティ&インクルージョンがますます重要になる」
「当社は女性の総合職採用を2004年から本格的に開始した。管理職における女性社員比率は現在約7%だが、中期経営計画期間内に15%まで高めることを目指す。基本的には能力に応じて優秀な人を管理職に登用するが、その中で女性管理職を増やしていくためには、新卒、キャリア採用を問わず優秀な人材層を拡充すると共に、ジェンダーやライフステージを問わず育児休暇といった制度や働きやすい労働環境の整備などを進めていく必要がある」
「外国人人材については、各地域の拠点で陣頭指揮を執ってもらい、主要な働きをしてもらうことが大事になる。そのために、働きやすい労働環境と報酬制度を整備していくことが重要だ。また、乗組員の大半が外国人船員だが、船から陸上に上がった後も、船舶管理やトレーニングセンター、環境技術の分野など、さまざまな場所で力を発揮してもらう体制を整えていく必要がある。そのためにフィリピンやインドの訓練施設を充実させていく。当社は船舶管理能力の強化の一環でアジアに拠点を移している。こうした拠点で活躍できる外国人人材を育成していく」