2023年7月10日無料公開記事邦船大手トップに聞く人材と海運経営

《連載》邦船大手トップに聞く 人材と海運経営<中>
「軸のあるジェネラリスト」の集団に
日本郵船・曽我貴也社長

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両利きの経営実現へ個々人の能力最大化

日本郵船は今期から開始した中期経営計画で、中核事業の深化と新規事業の開拓を両輪とする基軸戦略を支える機能戦略の1つに、人材を含むコーポレートトランスフォーメーション(CX)を掲げた。プロフェッショナル人材の採用強化、自律的なキャリア形成による個々人の能力の最大化などに取り組み、両利きの経営を実現する。曽我貴也社長は「それぞれの社員が専門性を発揮できる、『軸を持ったジェネラリスト』の集団にしていく」と語る。

— 社員の採用状況は。

「今年4月1日付で入社した新卒は陸上職36人、海上職26人の計62人。自社養成の採用に長年取り組んでおり、海上職は商船系学校卒と自社養成となる一般大学卒がほぼ半々だ。この他、昨年度のキャリア採用は20人だった。来年4月1日付の新卒入社は、陸上職44人、海上職27人の計71人ほどを見込んでいる。今年度のキャリア採用を16〜20人で見込んでいるので、全体の採用人数としては今年度を上回る見込みだ。採用人数を増やしている」

「陸上職は技術系の新卒採用を増やしており、例年1人だったが、昨年は5人、今年は4人、来年も4人を予定する。環境対応をはじめとしてさまざまな先進技術の開発に対応できる人材を、キャリア採用を含めて増やしている」

「今年の新卒入社では女性比率が45%となり、男女比がほぼ半々に近づいた。必要な人数を確保し、ふさわしい人材を選んだ結果だ」

— キャリア採用は専門性とポテンシャルのどちらを見るか。

「どちらかというと前者で、即戦力として働いてくれる、軸となる専門性を持った人を採用している。ただし、ポテンシャルが高い人が多く入社してきてくれており、入社時に期待した部分を遥かに超えて多様な分野で活躍している。人材の多様性という意味では、海上職の自社養成も同様で、例えば経済学を学んできた人が、いきなり理系の知識が必要な世界で船を動かしている。そのような人材に幹部としても活躍していってほしい」

— 求める人材像と、その採用・育成方法は。

「日本郵船の社員のみならず海外を含むグループ社員皆に求めるのが『軸のあるジェネラリスト』。これまで当社は長い間、専門性を追いかけるというよりは、むしろさまざまな船種を扱い、物流などの事業も幅広く経験しながら、将来的には会社の経営を担えるような、広い知識を持ったジェネラリストを主として育成してきた。しかし昨今、これまでよりも深い知識を持つ必要性が各所で出てきており、自分の軸になる知識や経験もしっかりと備えておかなければ難しい時代になってきた。重要なことは、このような軸のあるジェネラリストを会社が主導して仕立てるのではなく、社員各人が自身の軸について考え、それを磨いていくこと。会社は各人の個性と多様性を尊重し、育成のための研修の内容や手法を工夫し、他企業への出向も含めて学びの機会を提供し、各人の成長につなげていくことだ」

— ジョブローテーションを見直すことはあるか。

「管理職になるまでの15年間、とりわけ最初の10年間は、自分の軸をどこに置くのかを考える機会として、ジョブローテーションは相応しいシステムなので、維持する方向だ」

— メンタリティの部分では、どのような人材を求めているか。

「当社は元気な社員が多い。わくわくして働ける素質のある人材をどんどん採用したいし、各人のわくわく感をさらに高められるような制度や働く環境をそろえることが会社の役目になる」

— 女性活躍や外国人材の活用方針は。

「ジェンダーダイバーシティを進める。女性という切り口では、彼女らが持つ知識や経験を生かせる職場であることが必要だし、そのための制度、働きやすい環境をつくる。リモートワークの導入で以前と比べて働きやすい環境になったとは思うが、子供を自宅近くの保育園に預けたり、ベビーシッターを利用しやすい制度もつくりたい。また、男性社員におかしなバイアスがあると、女性が働きにくい状態になってしまうので、バイアスをなくすためのセミナーを男性を対象として開いたりもしている。女性社員がより働きやすい環境を提供すれば、自身も成長し管理職に挑戦したいという気持ちも出てくるはずであり、それをサポートする意味で、社外研修の機会も提供したい。当社は昨年、『30% Club Japan』に加盟し、先日、社長会に初めて参加した。名だたる企業の取り組み事例を聞き、大変参考になった。当社でも取り組みを強化していきたい」

「外国人材については、従来はコンテナ船事業のグローバルネットワークによる部分が大きく、各地の現地法人に所属するナショナルスタッフは多く、優秀な人もたくさんいた。コンテナ船事業がオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)に統合された今、郵船ロジスティクスが当社のネットワークのエンジンとなっているが、自動車船やバルク事業などの海外現地法人も数多くある。その中に有能な人が数多くいるはずであり、それを発掘し、要職を担ってもらいたい。重要ポストに空席ができた時に自薦による登用ができるグローバルタレントシステムを導入していく。皆がやる気を持って挑戦したいと思えるような雰囲気づくりをしながら、グループ全体の一体感を高め、海外組織の強化、海外人材活用を進めていく」

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