商船三井は海外事業と新規事業を含む非海運事業の強化などを掲げた新経営計画「BLUE ACTION 2035」を今年度からスタートさせ、また人財政策の基本的な考え方を示す「商船三井グループHuman Capitalビジョン」を策定した。橋本剛社長は、海外事業・新規事業を拡大していくためには「ダイバーシティをさまざまな角度から進め、異なるバックボーンを持った人たちを集め、そのチームを率いることができる人材を育成していかなければならない」との考えを示すと共に、「キャリアコースの専門人材と経営人材の複線化が必要」と語った。
— 最近の採用状況は。
「22年度は計150人を採用し、内訳は陸上新卒採用24人、キャリア採用66人、契約社員からの正社員採用10人、契約社員21人、海上職員29人だ。このうち女性が53人。23年度は4月1日付で90人の新入社員(海上新卒採用14人、陸上新卒採用44人、海上キャリア採用1人、陸上キャリア採用31人)が入社済み。これに加えてキャリア採用をさらに行う予定で、通年で前年度並みの採用人数になると思う」
— キャリア採用を増やしている理由は。
「経営計画でも拡大を掲げる非海運事業などの新規事業やDXを推進していくためには人材が必要。また、コーポレートガバナンス・コードのさまざまな要件を充足するには管理部門の人材を相当手厚くしていく必要がある。加えて当社は国際会計基準(IFRS)を導入する方針を決めたので、IFRSに円滑に移行していくための体制をつくっていかなければならない。これらは以前から課題として認識していたが、過去2年の好業績で財政的な基盤が整ってきたため実行に移した」
— 求める人材像とその採用・育成方法は。
「これまでの当社はどちらかいうとジェネラリストを育てる意識が強かった。若い頃にさまざまな業務を経験させて何でもひととおりできる人を育成し、その中から本社やグループ各社の経営を担う経営人材が出てくるという考え方だった。しかし、これからは高いリテラシーをもったスペシャリストが必要で、特に海外事業や新規事業で勝負していくためにはひととおりの業務ができるぐらいでは通用しないと思う。一方で、組織や戦略などを常に考える人をマネジメントの中核に置かなければならない。そのために、これまでの単線型のキャリアコースを改めて複線型にし、専門人材として上がっていく人とジェネラリストから経営人材として上がっていく人の2つのルートをつくる必要があると感じている」
「自分自身のキャリアを振り返るとプレイングマネージャーのように動いてきたが、おそらく今後はマネジメントに特化して全体に目を配りながら人を動かしていくことが仕事という人たちを組織の中につくっていかなければならない。一方で、マネジメントのことを考えるよりも外回りをしたいという人もいる。それぞれの人が持っているタレントを冷静に見極めたうえで上手に組み合わせて組織を運用していくような体制に転換しなければ、変化に対応できない」
「業務でのOJTによる育成と並行し、各階層に求められる基本的な能力を養うための階層別研修、経営者・リーダー育成のための選抜型研修、その他ビジネススキル習得のための選択型の各種研修プログラムを用意しているが、今後、キャリア研修の拡充など、研修体系の見直しも進めていく。また、今年度に社内公募制を導入するなど、より多様な人材が活躍の機会を見出せるよう自律的なキャリア形成の支援を推進していく」
— 女性活躍推進や海外人材活用の取り組み方針は。
「当社は2020年度〜22年度に3年連続でなでしこ銘柄に選定されているが、これから世界で事業を伸ばしていくには、女性活躍推進を含め、多様性やフレキシビリティをさらに高めていかなければならない。これまでの日本人の男性中心の極めてモノカルチャーなやり方は世界では到底通用せず、日本の中ですら通用しにくくなりつつある。ダイバーシティをさまざまな角度から進め、異なるバックボーンを持った人たちを集め、そのチームを率いることができる人材を育成していかなければならない。その中では、私の考えでは女性活躍推進は比較的取り組みやすい課題であり、まずはここで成功体験を積み重ねていくべきだと思う。よりハードルが高いのが海外人材や専門人材の活用などで、それらを乗り越えるにはマネジメントの専門性を高めていかなければならない」
— 海外人材の活用についてはLNG部門などで実績がある。
「中国やインドなどで海外人材が活躍してくれて事業を広げることができた経験はとても貴重だったので、それを他の地域にも横展開していきたい」
「既に常務執行役員、執行役員、本社部長に1人ずつ海外人材を置いている。また、今年度新たに設置した地域組織の統括職(本社部長と同格で、地域組織のコーポレート機能と営業機能をそれぞれ統括)に2人の海外人材を登用した。現在は新しいタレントマネジメントの仕組みの導入を準備中で、幹部候補となり得る海外人材を本社でもしっかりと把握していく。そのうえで、地域に根差した地域戦略の牽引役を担ってもらうのはもちろん、適所適材の観点から登用を行っていく」
新規事業領域・海外市場への展開といった業容の変化やDXなどを踏まえた各社の人材戦略を邦船大手3社の社長に聞く。