2023年1月11日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉗
次期船隊もLNGフェリーを検討
フェリーさんふらわあ・赤坂光次郎社長

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 フェリーさんふらわあが運航する日本初のLNG燃料フェリー“さんふらわあくれない”が13日、大阪/別府航路に就航する。赤坂光次郎社長は、「LNG燃料の環境性を評価していただける顧客も増えている。こうした顧客をターゲットとして利用促進を図っていく」と話す。今後の船隊整備については、2028年ごろをめどに神戸/大分航路の運航フェリー2隻のリプレースを検討している。赤坂社長は、「重油船に立ち戻ることは考えにくい。LNG燃料船か、さらに先進的な脱炭素型のフェリーになるだろう」と語った。

■環境性を生かして集荷促進

 — 日本初となるLNG燃料フェリーが就航する。改めて新造船の特徴は。
 「最大の特徴はLNG燃料化だ。LNG燃料化により、硫黄酸化物(SOx)排出量をほぼゼロにするとともに、従来燃料比でNOx排出量はIMOの1次規制比で約80%削減(IMOの3次規制に適合)、CO2排出量を約25%削減する。近年は、一般消費財を製造する大手メーカーなどを中心に環境対応について敏感となっている。LNG燃料の環境性を評価していただける顧客も増えており、ターゲットとして利用促進を図っていく」
 「新造船は、既存の大阪/別府航路の運航船と比べて2倍近く大型化する。一方で定員は変わらず、個室化を進めたことから、一人当たりのスペースは広くなり、従来のフェリーと比べてゆったり船旅を楽しめる。船内に入ると、エントランスの吹き抜けがパーティー会場のようになっており、旅の高揚感を出せればと考えている。プロジェクションマッピングに加えて、コロナ禍が収まれば船内イベントも開催していく予定で、楽しんでもらいたい。女性の要望にも応え、パウダールームや展望大浴場も充実させた。長距離フェリーとして初となるコネクティングルームを設置したのも特徴だ」
 「貨物輸送の観点からは、積載能力が50%程度増加する。当社は、中九州航路として大阪/別府航路と神戸/大分航路を運航しており、2航路でスペースを埋めていくという考え方だ。時間帯と発着地に応じて適切に各航路へ乗船していただきたいと考えている。新造船の就航により、積載能力が高まったことを踏まえ、集貨営業を進めていく」
 — 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、フェリー業界に大きな影響が出た。足元の事業環境は。
 「新型コロナウイルス感染拡大の第8波が始まっている。以前は感染が拡大すると旅客輸送の予約がキャンセルされるケースも多かったが、今回はあまりキャンセルが発生していない。全国旅行支援などもあり、コロナ前と比較すると7~8割程度は需要が戻っている。ただ、個人の旅行需要は回復しているが、修学旅行などの団体客の需要が無くなっており、今後も元に戻るかは不透明だ。一方で、乗用車はコロナ前の水準に戻っている。感染防止のため、自家用車でフェリーに乗って旅をする流れが出てきている。貨物輸送はコロナ前の水準と比べて数%程度の減少となっている。飲料や消費財が伸び悩んでいるほか、半導体不足や部品不足などの影響で工業製品も減少している」
 — 貨物輸送はコロナ前の水準に戻っていないが、「2024年問題」への対応策としてフェリーが注目されている。
 「トラック会社も、フェリーを使わないと運べなくなるということは理解しており、大手企業は既にフェリー利用を意識しているが小規模の企業は、理解はしているものの、具体的な対応策を実施する段階まで進んでいない状況だ。フェリー会社として、『2024年問題』への対応策としてフェリーの利用に向けた働きかけを行っているが、今はモーダルシフトの波を待っている状態だ。需要が高まった時にいかに対応していくかが課題となる」
 — ドライバー不足や「2024年問題」への対応策として、シャーシを使った無人航送が鍵を握っている。
 「『2024年問題』やドライバー不足に対応するためには無人航送を行うべきだ。しかし、小規模企業については、両端でのオペレーション拠点の整備や、シャーシとトラクターヘッドへの投資コストの問題などもあり、トラックによる有人輸送からシャーシによる無人航送への切り替えが難しい。片荷の場合、有人車であれば陸送で貨物を集めながら帰ってくることができるが、無人航送を行うと空車で発地へと回送する必要も出てくる点も課題だ。しかし、将来的には、時間外労働規制の強化により、貨物を集めながら陸送で帰ってくることも困難になるため、無人航送が進むのではないか」
 — 子会社のさんふらわあ物流と、商船三井フェリー子会社のブルーハイウェイエクスプレス九州が事業統合し、今年4月から新会社「さんふらわあエクスプレス」として営業を開始する。事業統合の狙いは。
 「ブルーハイウェイエクスプレス九州は南九州エリア、さんふらわあ物流は中九州エリアを中心に、海陸複合一貫輸送事業を展開してきた。ただ、九州を1つとして見たときに、事業主体が分かれているのはもったいない。事業統合を通じて、保有シャーシなどの経営資源の集約し、有効活用するほか、九州全域をカバーできる営業体制を構築し、組織を強化していく」
 「航路が寄港している鹿児島県、福岡県や大分県を中心に営業展開してきたが、宮崎県や熊本県も商船三井グループのフェリー・RORO船事業として重要なエリアとなる。こうした地域にも展開して、新たな顧客を増やしていきたい。特に熊本県は半導体産業の集積が進んでいる。工場が稼働してくれば、生産品を出荷する需要に加え、労働人口が増えることで消費も増え、物流が活性化する好循環が生まれる。商船三井フェリーとは、オンラインセミナーを通じた共同セールスや情報交換なども積極的に行っており、新たな需要獲得に取り組んでいく」

■コスト上昇分は輸送増で吸収へ

 — LNG燃料フェリーは燃料バンカリングが課題となる。当面の燃料供給体制は。
 「別府側で、九州電力から調達したLNG燃料をトラック・ツー・シップ方式で1往復1回の頻度で供給する。しかし、トラック・ツー・シップ方式はコストや手間がかかる。LNGバンカリング船を使ったシップ・ツー・シップ方式への早期の移行を望んでいる」
 — 2018年に大阪/志布志航路、今年は大阪/別府航路の運航船をリプレースする。残る神戸/大分航路の運航船の代替計画は。
 「神戸/大分航路の運航船“さんふらわあごーるど”と“さんふらわあぱーる”については、5~6年後ぐらいをめどにリプレースを検討していく。今年末ぐらいには、ある程度の方向性を決めていきたい。重油船に立ち戻ることは考えられないので、LNG燃料船か、さらに先進的な脱炭素型のフェリーになるだろう。一方で船価が高くなり、フェリーを建造できる国内造船所も限られている点が課題となっている」
 — ロシアのウクライナ侵攻の影響などもあり、LNG燃料の価格が上昇している。オペレーションの損益分岐点も既存船と比べて上昇しているが、どのようにコスト増を吸収していく方針か。
 「燃料油価格変動調整金(BAF)は低硫黄C重油を基準に設定しているが、LNG燃料フェリーが就航したからといってLNG燃料特有のBAFは作らない。旅客・貨物双方の輸送料金についても原則、既存船と同じとなる。客室のグレードが上がることで旅客単価は増えるものの、コストの上昇を吸収していくためには、旅客・貨物双方の輸送量を増やして収入を高めていく必要がある」
 — 輸送量を増やしていくためにどのように取り組んでいく方針か。
 「働き方改革の影響で土日に倉庫や工場などが閉まることもあり、週末はトラックが動かなくなっている。週末にも貨物を増やしていく施策や、週の中で貨物量を平準化できる施策を考えていかなければならない。モーダルシフトの可能性をさらに注視し、アプローチしていきたい」
 — 内航業界にとってデジタル化も重要なテーマだ。
 「新造船では、乗船手続きを簡素化するため、QRコードによるスマートチェックイン機能を初めて導入する。また、古野電気と共同で、離着岸支援システムの開発のため、テストを繰り返し行っている。離着桟作業はこれまで、乗組員の長年の経験に基づいて目視で行ってきたが、支援システムを通じて距離などを可視化し安全性の向上を進めていく」
 — 少子高齢化に伴う人材不足が課題となっている。現在の状況と対応策は。
 「船内サービスを務めるスタッフの定着率の向上が課題だ。例えば、インターンシップで実際に乗船してもらったり、採用選考時には内定を出す前にもフェリーに乗船してもらって職場を確認してもらったりしている。ここ数年は、接客業やサービス業のアルバイト経験がある大卒を積極的に採用している。サービス産業に興味を持つ学生からの応募は多いため、まずは定着率の改善に力を入れていきたい」
(聞き手:中村晃輔、伊代野輝)

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