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2022年12月14日無料公開記事海事スタートアップと描く未来 内航NEXT

《連載》海事スタートアップと描く未来㉔
内航船業務支援ソリューション提供
ゼクト、船上オンライン診療・服薬指導開始

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 情報セキュリティコンサルティングとITソリューションの開発・販売を手掛けるゼクト(東京都千代田区)は、2020年から内航船業務支援の取り組みを開始した。内航船員の働き方改革ソリューション「デジタル船員手帖」を提供するほか、日本調剤と連携してオンライン診療の専用端末・システム「ZMO」(ゼクト・メディカル・オンライン)を用いた長期間乗船する内航船員の治療・服薬をサポートする体制を構築。徳島船主の八重川海運が所有する内航船を対象に今年10月に国内で初めて船上でのオンライン診療・服薬指導を一気通貫で実施した。ゼクトの世古口学代表取締役(写真)は「内航船員の方々の健康確保に貢献したい」と語る。

■八重川海運との出会いがきっかけ

 — 会社発足の経緯と主な事業内容は。
 「私の出身地の三重県伊勢市で2007年に設立し、当初は情報セキュリティに関するコンサルティングを行っていた。個人情報保護法の改正に伴い、重要な個人情報を扱う医療関係からの問い合わせが増え、その中で情報セキュリティ以外の業務改善の依頼を受けるようになった。当初は他社のITソリューションを調べて提案していたが、顧客のニーズにあまりマッチするものがないため、自社でソリューションを作って販売をするようになった」
 「医療関係を中心にサービスを提供してきたが、ZMOの前身となるシステムを作ったNECプラットフォームズから、内航海運向けに展開していきたいので協力してほしいというご相談を2020年に受けた。その時に初めて内航海運業界を知り、知らなかったことが恥ずかしいぐらい日本の社会・経済にとって重要な産業であることが分かった。それにも関わらず課題が大きく、課題の多くが船員に関わることだった。高齢でも元気であれば船員を続けることができるので、内航船員の方々の健康確保のために何か貢献できないかと考えて取り組みを始めた」
 「当社が内航海運に関する活動に本腰を入れるようになったきっかけが、徳島県でプラスチック加工業を営むお客様を通じて八重川海運の村田泰代表取締役をご紹介いただき、内航海運業界のことや内航船員の仕事と生活をお伺いしたこと。さらに内航総連などの業界団体をご紹介いただくなど、多大なご協力を頂いた。八重川海運との出会いがなければわれわれは内航海運業界に入っていくことができなかったので、非常に恩と縁を感じている。皆さまにいろいろ教えていただきながら2年間活動し、ようやく具体的な活動が増えてきた。当社は現在42人で、このうち内航海運チームは6人となっている」

■船員の働き方改革に対応

 — ゼクトの内航海運向けのサービスは。
 「船上でのオンライン診療と同時期にデジタル船員手帖の開発に着手した。これは国土交通省が進める船員の働き方改革のうち、どちらかというと2022年4月からの勤怠労務管理強化に対応したもの。23年4月からの健康管理強化にはデジタル船員手帖とZMOで対応する形になる。デジタル船員手帖の準備を22年4月の改正船員法施行に合わせて進め、中小企業事業再構築補助金にも21年9月に採択された」
 「デジタル船員手帖は船員の勤怠情報の管理を陸上と船上で行うことができ、当然週72時間アラートなどの機能を備えている。今年と来年に二段階で施行される船員の働き方改革に合わせて開発してきたため、健康管理機能としてスマートフォンと血圧などのバイタル機器を接続して健康データを収集する機能も備えている。ストレスや疲労度のチェックに関しても、国交省や海事振興センターが準備しているチェックリストを搭載しており、この結果を産業医や臨床心理士に分析していただくことができる。付属的な機能として、定期的に電波の強度、緯度経度、キャリアのデータを個人情報を除いたうえでクラウド上にアップする機能があり、デジタル船員手帖の利用者は海域・キャリア毎の電波強度情報を共有することができる」

■日本調剤と提携

 — オンライン服薬指導で日本調剤と提携した経緯は。
 「われわれの顧客の三楽病院の方に日本調剤をご紹介いただいたのがきっかけで、トントン拍子で話が進んで提携することになった。ご存じのとおり来年から電子処方箋の運用も開始される見通しで、オンライン診療・服薬指導も含めて医療分野のDXが進む。 そのような中で、日本調剤はオンライン服薬指導を海上・陸上を問わずほとんどの場所で上手くいくと考えておられるようだ」
 — ZMOを使ったオンライン診療・服薬指導の特徴は。
 「ZMOは専用端末を使うサービスで、端末を病院、調剤薬局、本船に置いて運用する。顔認証でログインするため、セキュリティだけでなくご高齢の方でもあまりキーボードを操作せずに利用できる。余談だが、八重川海運に電波状況のテストでご協力いただいた際に、ZMOを使うことで訪船業務がだいぶ楽になったというお言葉も頂いた」
 「ZMOは厚生労働省の『オンライン診療の適切な実施に関する指針』を満足している。ポイントは情報セキュリティの3要素と言われるCIA(機密性、完全性、可用性)に加えて真正性と確実性を満たしていること。さらにそれをクラウド利用する際のガイドラインなど も満足している。オンライン診療で使用する端末に他のアプリが入っていると悪影響を及ぼす可能性があるため、当社では専用端末を使用している」
 — 今後の展開は。
 「2023年4月に始まる内航船の産業医選任制度へのZMOの活用を検討しており、日本調剤グループ傘下で医療従事者派遣・紹介事業を展開するメディカルリソースと協力し、同社が産業医を提供してゼクトがZMOで支援するという体制を考えている。産業医の職場巡視が、陸上の産業医制度の月1回に対して、内航船は年1回で5年で全ての船を回ればよいが、これを所有船が多い船主が行うのはなかなか大変だ。また、産業医制度によって船員のメンタルとフィジカル両方の医療情報を持つことになるので、情報セキュリティの面でもご支援できることはないか考えている」
 「内航海運業界を応援する活動にも取り組んでいる。内航船で働く船員、海上職を目指す学生の方々から写真・動画を募集する『船上カメラマングランプリ』を開催し、グランプリを受賞された方には商品を贈呈。 また、渋谷駅前に設置された『渋谷愛ビジョン』に内航海運を応援するメッセージを流しており、若者が多い場所で内航海運をピーアールすることで船員の採用などに貢献したい」
(聞き手:深澤義仁)

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