2022年12月8日無料公開記事内航NEXT
内航海運事業者対談
<内航NEXT>
《連載》内航海運事業者対談②
若年船員増加、課題は定着率
青野海運・青野社長×宮崎産業海運・宮﨑社長
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<対談参加者(社名五十音順)>
青野海運 青野力社長
宮崎産業海運 宮﨑昇一郎社長
司会 日刊海事プレス副編集長 深澤義仁
■高齢化する船隊
― 船員と環境以外での内航海運事業の重点課題は。
宮﨑「内航は荷主ありきの業界だが、荷主業界も合理化で工場をどんどん集約している。、例えば、鉄鋼メーカーが高炉を1基減らせば当然貨物も減る。内航は荷主がいて始めて成り立ち、言い換えれば荷主への依存度が強過ぎる。日本の産業界がどんどん工場をつくってくれないと内航業界は現状維持が精一杯で、増えるということはあり得ない。成長性の問題で言えば、新たにある外資系の半導体の工場が九州に建設される予定だが、それができたとしても内航船の輸送にはほとんど関係ない。セメント、石炭、石油化学などの太宗貨物の大きな工場が増えず、逆に減っていることに危機感を感じている」
「内航事業の大きな課題はリプレースが進んでいないことだ。外航のバルク船ではわれわれ日本船主は15歳以上の船を持つことはほとんどないが、内航は平均船齢が20歳近いし、25歳でも平気で走っている。それだけ規制も緩い。外航であれば、例えば資源メジャー系の荷主によっては15年の船齢の自主規制を設けているが、内航の荷主は船齢にそこまで厳しくないため高齢化が進んでいる。規制強化すればリプレースは確実に進む。フリートが高齢化してリプレースが進まず、船員も高齢化しているというのが内航業界の大きな課題だ」
青野「問題点を挙げればきりがないが、われわれが内外航共通の課題として据えているのは船舶管理のあり方だ。1つは今の場当たり的な対応から、現状のデータから未来を予見しながら船舶管理をするプロアクティブな形にしていきたいと思っている。それが現状の課題となっている内航労務管理をはじめとした働き方改革の実現に直結していく。具体的に言うと、ITを駆使してリアルタイムに船の情報が可視化されている状態を作り、そのデータを積み上げてAIが解析し、監督が管理計画を立てて船員またはマシンが実行する、というイメージだ。そのプラットフォームはまだ決めきれていないが、国内外でそのような船舶管理を目指したスタートアップがいくつも立ち上がっている。中でもMarindows社とはビジョンが合致しており前向きな会話をさせて頂いている。他にもさまざまなスタートアップの方々の話を聞きながら、われわれにとって何がベストなのかというのを社内で揉んでいる。理想と現実のギャップが大きい内航こそデジタルトランスフォーメーションが必須だ」
「加えて、海陸の従業員の健康確保が非常に重要だ。内航船は一人抜けると船が止まってしまうので、全員が健康でなければ困る。それくらい当社は健康問題を気にしており、手探りだがいろいろな取り組みを始めている」
■船員確保で成果
― 内航船員の確保育成に向けて業界全体で取り組むべきことは。
青野「日本内航海運組合総連合会が中心となって船員確保のさまざまな活動を何年も続けてきて、その結果、若者の内航業界への流入が増えているというのは素晴らしい成果だ。それは数字にも表れていて、現に宮崎産業海運さんも当社も若い船員が増えている。ただ、問題なのは若者の定着率で、そこに全力で取り組んでいかなければならない」
「認知度については内航総連が船員対策のタスクフォースをつくってSNSを立ち上げたり、各船主が動画をつくってYouTubeにアップするなど若者に内航船員の仕事を知ってもらう努力をしているが、もう少し若い視聴者にフォーカスしていく必要があるのではないかと思っている。小学生や幼児向けのコンテンツ、例えば身近なマンガ、アニメ、絵本などのエンタメ性のあるコンテンツを提供して、船乗りは格好いいと幼少期に思わせなければという肌感覚がある。私は『キャプテン翼』や『SLAM DUNK』世代だが、漫画の影響で部活を選ぶというのは当たり前にあった。10代前半までにかっこいい船員になりたいと思ってもらえれば勝ちだ。継続的に若い人たちが入って来るような業界にして、定着率も向上させ、現在の2万8000人の船員が3万人を超えて3万5000人になっていけば理想的だ」
― 採用は業界全体で取り組むが、定着率の向上については各社で取り組んでいかなければならないのか。
青野「定着率の取り組みは各社マターになる。当社がここ数年で行ったのは給与の抜本的な見直しで、待遇を大幅に引き上げた。若者に限らず、全ての層の待遇を上げたので経営的には厳しいが、実際にそれで雇用が安定した。当社は自社船が多いので若手をどんどん乗船させているが、同型船が少なく、貨物も全て異なるので、若手はいろいろな船を経験させてどの船でも乗れるように育成している。プロモートについても、先代社長が雇って育ててくれた30代の船員たちはすでにキャリアが10年以上あり、船機長を任せられるタイミングが来ているので、彼らを積極的に新造船に乗せて船機長を任せていきたい。当社はもともとコンプライアンス宣言をしているが、新たにハラスメント防止宣言も行った。それに合わせた船内教育の仕組みづくりにあたって、ハラスメントについてもう一度教育しなおしている。また、私が乗組員全員と面談して腹を割っていろいろな話をし、彼らが抱える個々の悩みも共有できたので、それを船員部とも共有し、個々の都合に可能な限り配慮した柔軟な配乗体制を目指している。健康管理については、私は健康は食にあると思っているので、今後は船内の食事メニューを陸上からコントロールすることも考えていく。われわれがメニューを送って司厨長に作らせるか、陸上から食事をデリバリーするというようなことを考えていて、定期的に遠隔診療も受けさせることも想定している。内航船に乗ればどんどんお金を稼げるし健康にもなるというキャッチフレーズでやっていきたい」
宮﨑「新人の定着率を上げるためには教育訓練が大切だ。学校では先生が丁寧に教えてくれるが、実際の現場ではあまり中間層がいないから丁寧に教えてくれる先輩がいない。若い人に対する十分な教育訓練ができていないというのが定着率が悪化している原因ではないかと思う。学生時代の甘い気持ちでやってくると、実際に自分が責任を持つ現場では緊張が高まり精神的にダウンして自信喪失になったりもしている。それが主因か、自分は船員として自信がなったとかで辞めてしまう若い人が多い」
「船上の通信環境の問題もあり、若い人は中学生や高校生からスマートフォンを持っていたので、船上で通信が十分に出来ないというのがストレスになっているようだ。当社の場合も敦賀から北海道に行くRORO船では航路の半分くらいで通信ができないので、若い人たちには大きなストレスになる。船上はいつでもどこでも誰とでも話せる環境、情報が入って来る環境ではないので、通信環境の整備にもっと取り組まなければならないかもしれない。それは若い人の定着率を上げるために重要なことだと思う。船内設備の改善も必要で、今はバス・トイレ付の個室というのが当たり前だし、ビジネスホテルくらいの最低限の設備を整えていないと若い人は乗ってくれない。特に女性船員に対しては船上の洗濯機は男女別にしてほしいとかの要望もありプライバシー確保の充実が重要になる」
― お二人がお話されたような点が改善されていけば定着率は上がっていくのか。
宮﨑「そう思う。もともと船に乗りたいと思って船員の学校を出ているわけだから、待遇が改善すれば定着してくれるだろう。当社ではメンタルヘルスにも取り組んでいる。船に乗っている時の困りごと、仕事以外の個人的なこと、精神的なことなど、本人が抱えている悩みを会社に相談してくれれば会社もできる範囲で協力していく。船上は孤独でプレッシャーを感じることも多いと思うので、会社としてもしっかりサポートしていきたい。当社では困りごとを聞く部署をつくっているが、そこには給料が安いとか、彼女から早く船を降りてほしいと言われているとか、いろいろな悩みが寄せられている。逆に、結婚してお金が必要になったからもっと船に乗せてほしいという相談もある。最近では育児休暇の相談も増えて、1カ月乗船したら必ず1週間の休みが欲しいといった意見もあるので、柔軟な配乗ができるようにしようと検討しているが、それをやると労務管理、配乗が非常に厳しくなる。私が努力しているのは、極力訪船して若い人の意見を聞くことだ。船の状況は船長に聞くことが多いと思うが、若い人に会社に何をしてほしいかを直接聞くといろいろな意見が出て来るので、できる範囲で努力はしている。若い人のトレンドを聞いて、会社として把握しておかなければならない」
宮﨑氏
青野氏