2022年11月22日無料公開記事内航NEXT
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉒
ジェットフォイルは離島航路に最適
東海汽船・山﨑潤一社長
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東京諸島航路を運航する東海汽船は今年、ジェットフォイルの就航20周年を迎えた。山﨑潤一社長は、「ジェットフォイルは離島航路に最適な船。災害時の救援活動にも必要不可欠だ」と強調。一方で、建造費負担や技術的課題が大きいことから業界としてリプレースが進んでいないことを踏まえ、「国に対して旅客船業界として建造支援を求めていきたい」と述べた。カーボンニュートラルに向けては、軽油代替が可能と確認されているバイオ燃料の活用を模索するほか、運航の効率化にも取り組む。アフター・コロナに向けた旅客輸送では、「自然環境型観光」の魅力向上と情報発信に力を入れる方針だ。
■「自然環境型観光」の魅力発信
― コロナ禍で旅客輸送事業に大きな影響が出た。現在の事業環境は。
「2020年に新造貨客船の3代目“さるびあ丸”と国内で25年ぶりとなる新造ジェットフォイル“セブンアイランド結”を就航させた。新造船投入による需要増を期待したが、コロナ禍により移動需要が減退した。旅客数は今年1月からの累計でもコロナ前の約7割に留まっている。ただ、足元では、全国旅行支援や都内観光促進事業の開始などにより徐々に回復傾向にあり、ほぼコロナ前の水準に戻った。また、その流れで、10月から週末に実施している東京湾夜景クルーズでの横浜/東京間の乗船が、SNSや口コミで広がった結果、想定以上に好調に推移していることも大きな要因だ。今後はこの流れを更に東京諸島への船旅需要につなげていきたい」
― アフター・コロナに向けた旅客輸送事業の施策方向性は。
「当社の運航している航路は生活航路であり、安全かつ確実に島の方や生活物資を運ぶ責務がある。島では少子高齢化が進んでおり、今後は観光需要をいかに増やしていくかが喫緊の課題となっているが、一方で島の豊かな自然などに触れていただくレジャー航路としての側面もある。足元では若い客層も増えているが、大自然の中に身を置くことで癒しを得る『自然環境型観光』が脚光を浴びると確信しており、もっと広めていきたい。目的地である島の豊かな自然という重要な観光コンテンツの情報発信に力を入れると同時に、『安全運航』と『良質のサービスの提供』という当社の経営理念に立ち返り、船の魅力も伸ばしていく。コロナ禍で止まっていたさまざまな取り組みを、未来へ動かすためにチャレンジしていく」
― 物流事業の現況と今後の方針は。
「コロナ禍においても順調に推移している。当社の輸送品目は、生活関連品目が約7割、工事関連品目が約3割となっている。生活関連品目はコロナ禍に伴う観光客の減少により、観光客が消費する飲料などが落ち込んだが、島民の巣ごもり需要が活発化した。特にEC市場の成長もあり、アクティブシニアがネット通販などで注文した品目など宅配貨物の取扱数がコロナ前よりも増加している。こうした状況を踏まえ、宅配貨物のさらなる効率化を目指し、新たに宅配貨物専用コンテナを導入した。また、今年4月からはジェットフォイルを利用した荷物の輸送サービス『東海汽船はこぶね便』をスタートした。新幹線などで小口貨物を運ぶ取り組みと同様で、迅速に荷物を輸送したいニーズに応える。今後は伊豆大島以遠の新島や神津島への高速輸送も順次始めていく予定だ」
― 昨年、小笠原海運の株式を日本郵船から一部取得し、連結子会社化した。
「長年の念願だった小笠原海運の連結子会社化が実現でき、伊豆諸島と小笠原諸島を合わせた東京諸島11島全体での連携・PR強化に取り組み、更に新キャラクター等の展開による新たな若いターゲット層の掘り起こしと獲得を進めていく。ECサイトを通じた島の特産品のPRとそれに伴う物流の活性化など、さまざまな角度から東京諸島・東京宝島としての多面的な営業展開を図る」
■ジェットフォイルが就航20周年
― 今年はジェットフォイル就航から20周年という節目の年を迎えた。
「ジェットフォイルは、波に強く、揺れないほか、高速で運航できる強みがある。当社は02年4月からジェットフォイルを導入したことにより、夜行船を敬遠していた客層を取り込むことができ、ファミリー層や女性層の利用が増えた。13年には3隻体制から4隻体制とし、20年間で約750万人を輸送した。今年は20周年企画として東京湾を周遊する『東京湾ぐるっと周遊クルーズ』を実施したほか、新キャラクター『東海汽船はこぶね課』を発表した。若いターゲット層の掘り起こしと、船に親しみを感じてもらえるようなPRを進めてきた。また、11年の東日本大震災や15年の伊豆大島土石流災害などの災害時には、機動力を生かした救援活動にも役立った。事業継続活動(BCP)の観点からも、ジェットフォイルは離島航路に最適かつ不可欠な船だと考えている」
― ジェットフォイルは離島航路に不可欠ではあるが、船齢の高齢化も進んでいる。貨客船も含めた今後の船隊整備の方針は。
「当社は直近9年間で貨物船を含めて11隻を建造した。“さるびあ丸”と“セブンアイランド結”をもち船隊整備はひと段落した。今後はソフトの面でサービス水準の向上に力を入れてきたい」
「ただ、ジェットフォイルについては優位性や必要性が高まっている。“セブンアイランド愛”は16年にリニューアル工事を実施したが、船齢が42年を超えた。50年以上利用できる見通しであるので、メンテナンスをしっかり行い延命していくが、今後2回目の大規模修繕も検討している。新造代替については建造資金など、今後の検討課題として慎重に取り組む必要がある」
― ジェットフォイルの新造には課題も多いが、国に求めることは。
「ジェットフォイルは建造費用が50億~60億円程度と負担が大きい。今後も船価は上がり、さらに建造が難しくなるだろう。ジェットフォイルを運航する船社は国内に6社あるが、同じ課題を抱えており、すぐに新造船を建造していくことは難しい。しかし、ジェットフォイルは離島航路には最適かつ不可欠な船で、島の方からのニーズは高い。20年に鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の船舶共有建造制度の改正で、ジェットフォイルの共有期間の延長と共有比率を高めてもらったが、国に対しては、さらなる建造支援をお願いしたい。業界として連携して要望していく」
― 内航海運業界でも環境対応が求められている。東海汽船の取り組みの方向性は。
「環境対応は主に、(1)船隊の低・脱炭素化、(2)運航手法の改善、(3)燃料の転換、の3つを進めていく必要があると考えている。(1)については、貨客船“さるびあ丸”と“橘丸”は二重反転プロペラやバトックフロー船型を実装しているスーパーエコシップをコンセプトとしており、省エネ・省CO2排出性能が極めて高い船として『内航船省エネルギー格付制度』で最高評価を取得している。30年度のCO2排出削減目標は既に達成済みとなっている。(2)については、旅客動向や営業戦略を考慮しながら、運航ダイヤを都度見直し、より省エネで効率的な運航ができるように対応している」
「一方で、50年カーボンニュートラルに向けては、(3)の燃料の問題が大きい。当社の貨客船は6000総トンが最大船型となっており、これ以上の大型化は島嶼港湾のインフラを考えると難しい。例えば、水素燃料はエネルギー密度が小さく、タンクを大型化しなければならないため、生活航路で人員と貨物輸送能力を維持しなければならないことを考えるとかなりハードルが高く、また、バッテリー船についても着岸時間や航路の特性を考えると難しい。そのため現状では有望になるのがバイオ燃料だ。ジェットフォイルでも使用出来るようなので、今後、コスト面なども含めて模索していきたい」
― 足元では燃料油価格が高騰している。経営への影響と対策は。
「生活航路という特性上、簡単にはコストを転嫁し、値上げすることはできない。当社は今年で創立133周年になるが、生活航路で地域社会に貢献しているという社会的意義を感じて事業展開している。足元の燃料油価格の高騰に対しては、国の激変緩和措置の効果が出ているが、燃料油コストは運航経費の3割を超える水準に拡大しており、カバーしきれていない状況だ。また、将来的には新たな燃料を採用したときのコスト増の可能性もあり、生活航路として利用されている島の方に負担増を求めていくことは難しく、内航旅客船業界が連携して国などに対して支援を要望していきたい」
― デジタル化への取り組みは。
「デジタル化により目指すものは、(1)船舶の安全性向上、(2)船員不足への対応、(3)サービスの向上、の3つだ。(1)ではクジラと船舶の衝突を防ぐため、クジラの発生ポイントをデータ化し、事故の抑制につなげている。また、さるびあ丸・橘丸には主機の運転状態や燃料消費量、船の速度や位置から自動で燃費を算出するデジタル燃費計を取り付けており、効率的で燃費の良い運航を心がけている。またECDISと呼ばれる電子海図情報表示装置を新たに搭載しており、他船との位置関係や潮流などのデジタル情報を活用し、安全運航に努めている。(2)は、船員の安定的な採用と定着を図るためには、洋上通信環境の整備と業務の効率化が必要不可欠だろう。1社単独では難しいため、業界が連携して取り組んでいく必要がある。(3)では、東京都との連携事業である『うみそら便』への取り組みを進めている。東京諸島の運航情報を一元化して発信するサイトで、海路・空路の運航状況を総合的に視覚化し、わかりやすい情報発信を進めていく。今後は予約・発券システムのリニューアルなどにも取り組み、さらなる利便性の向上を目指す」
(聞き手:中村晃輔)