2022年10月13日無料公開記事内航海運、正念場の船員確保 内航NEXT

《連載》内航海運、正念場の船員確保(上)
「働き方改革」開始から半年
繁忙期の対応が目先の課題

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 内航海運業界の最大の課題である船員の確保育成の解決に向けた「船員の働き方改革」関連法の今年4月の施行から半年が経過した。従来は輸送需要増加などに法定基準を超える時間外労働で対応していたとみられるが、労務管理の強化によってこのやり方は通用しなくなり、過渡期には就労可能な船員が一時的に不足することも想定される。輸送需要の停滞もあってこれまでのところ大きな問題は生じていないものの、今後冬場の需要期に入ると船員不足が深刻化するとの見方もある。こういった課題を乗り越えながら、内航海運は働き方改革を起点に船員問題の解決に向けて前進できるかという大きな正念場を迎えている。

 「海事産業強化法」の一部である改正船員法が2022年4月1日に施行され、船舶所有者の義務として、①船員の労務管理を行う主たる事務所で労働時間などの管理を行う記録簿(労務管理記録簿)の作成・据え置き②労務管理記録簿の管理などを行う労務管理責任者の選任③労務管理責任者の意見を勘案し、船員に対して労務管理上の措置を講じる④措置を講じるために必要がある場合、内航海運事業者(オペレーター)に対して運航計画の変更などに関する意見を述べる―が規定された。
 労務管理責任者には特別な資格などは不要だが、社外の労務管理責任者講習を受講させるなど必要な知識の取得・向上を図るなどとされている。日本内航海運組合総連合会は、国交省から認定を受けて労務管理責任者講習を5月から全国で開催している。
 船員法では船員の労働時間を1日8時間・1週間40時間とし、最長労働時間を1日14時間・1週間72時間と規定している。船内労働は職住一体のため、労働時間として取り扱うかどうか統一的なものがなく、また操錬や引継ぎは労働時間の上限の対象外とされていた。そこで国交省は船員の労働時間の範囲の明確化のためのガイドライン(通達)を発出し、今年4月から適用。さらに労働時間制度上の例外的な取扱いを見直す改正法を来年4月に施行する。
 国交省は改正船員法の遵守状況について船員労務監査などを通じて確認し、労働時間の遵守や労務管理記録簿への記録などに係る違反に対し戒告を実施するなど必要な処分・指導を実施。船員の長時間労働がオペレーターの運航計画に原因があると判断された場合はオペレーターに対する運航管理監査を行う。
 さらに船員の働き方改革の第2弾として、船員の健康確保のための新たな仕組みを来年4月に施行する。常時50人以上の船員を使用する船舶所有者(それ以外の船舶所有者は努力義務)に産業医による健康管理と過重労働者への面接指導、年1回のストレスチェックを義務付け、全ての船舶所有者に健康検査の見直しを義務付ける。
 船員の働き方改革は、適切な労務管理を行う社内体制の整備などで事業者の負担が増すが、業界内では不満や不安よりも期待の声の方が大きい。ある内航オペレーターは「今回の働き方改革が大きな起点となって、これまで何度も挑んでできなかったことが実現するのではないかと期待している。これまで掛け声だけだった乗組員の待遇改善が、荷主も含めて本腰を入れて取り組むという流れに変わりつつある」と話す。
 働き方改革が浸透して内航船員の違法な時間外労働などが減れば、その“副作用”として就労可能な船員が一時的に足りなくなることも想定されている。ある内航オペレーターは「輸送需要が減っているということもあって、4月以降も船員が極端に足りないということはない」としつつ、「繁忙期の12月から3月にかけてはかなり厳しい状況になると考えており、荷主にも話をしている」と語った。荷主には繁忙期に備えて必要な船員と船舶を確保するか、輸送量をできるだけ平準化してピークを下げるといった対応が求められる。
 内航海運業界と国交省は荷主との取引環境の改善に別途取り組んでおり、船員の働き方改革もこれとリンクする。内航海運業界関係者は「取引環境の改善について荷主の受け止め方は変わってきている。船を安くこき使うという発想ではなく、必要な輸送コストは見ていかなければならないという流れになっていると思う。まずは船上業務がコンプライアンスの範囲に収まるような配船計画を立てて頂きたい」と述べた。

内航船員の新たな労務管理体制(国土交通省説明資料より)

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