2022年9月13日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑬
150隻を維持、将来見据え近代化・省力化
鶴見サンマリン 宍倉俊人社長
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内航タンカー大手、鶴見サンマリンの宍倉俊人社長は「石油の安全・安定輸送への貢献を続けつつ、将来の船種構成を考えていく」と語る。内航船隊は当面150隻規模を維持する方針で、将来の輸送需要を見ながら近代化と省力化を推し進め、より安全で汎用性が高い船隊の構築を目指していく。カーボンニュートラルに向けた移行期の対応については、二酸化炭素(CO2)排出量を極力低減するため、自社船のリプレースに際し利用可能な技術を総動員した船を、2年後をめどに建造する計画だ。
■100社の船主
― 内航船の運航規模、輸送量と主要貨物は。
「内航船隊は146隻と、近年150隻程度で推移している。全体の約8割が油タンカーで、白油船45隻、黒油船71隻。このほか、LNG船2隻、LPG船12隻、ケミカル船11隻、アスファルト船や潤滑油船などが5隻。21年度の輸送量は2960万キロリットルで、全体の約9割は白油、黒油などの燃料油。ガス・ケミカルその他が約1割となっている」
「災害に強く、エネルギー供給の『最後の砦』とも言われる石油が、今後もわが国にとって重要なエネルギーであることに変わりはないが、脱炭素の流れの中、中長期的に見て石油製品の需要が縮小していくことは避けられない。石油製品輸送を事業基盤とする当社にとって需要減退は大きな課題だが、今後もエネルギー輸送の担い手として中心的な役割を果たしていきたい」
― 今後の船隊規模はどうなるか。
「船隊整備計画の方針は、エネルギーの安全・安定輸送に向けて荷主のニーズに応え、サプライチェーンの変化にも柔軟に対応していくこと。当面、船腹は現状維持とする考えだ。石油需要の減少に伴い、製油所の機能停止等が想定されるが、必ずしも必要船腹が減少するわけではないと考えている。たとえば離島への輸送は維持しなければならず、航海距離が延びれば必要な船腹数も増える。また、船員法改正により船員の労働時間管理が厳格化されたことで運航の自由度が若干低下している。こうした要因で船腹需給が不足に振れる可能性も想定しなければならない」
― 船隊更新をいかに行っていくか。
「船は一度建造すると長く使用することになる。将来の輸送需要の変化に対応するため、既存船をリプレースする際は、極力汎用性をもたせたい。例えば、7月にリプレースした社船は白油・ケミカル兼用としている」
「当社は社船が5隻で、運航船のほとんどが船主からの用船。荷主や船主からの要望を踏まえ、最近のリプレースは年間5隻ほどで推移している。以前に比べ船舶の運用年数はのびる傾向にあるが、老齢化による設備トラブルなどのリスクも高くなるため、荷主、船主と協議しながら適正なタイミングでリプレースを進めていきたい。当社は100社ほどの船主と付き合いがあるが、船主あっての当社。今後もエネルギーの安定輸送に寄与できるよう安全運航に努め、船員の働き方改革などの課題解決に向け、船主と共に取り組んでいく」
■移行期は既存技術を総動員
― 世の中がカーボンニュートラルに向かう中、船隊構成も変わっていくか。
「石油輸送の減少に対しては、荷主と相談しながらLNG船やLPG船など特殊タンク船などの船種を伸ばしていきたい。当社が持つLNG・LPGなどの輸送に関するノウハウを、次世代エネルギーである水素やアンモニア、その他の液体貨物輸送に活かしていきたいと考えている」
「また、現時点では将来の石油にかわる貨物や船舶の動力源が何になるのか、エネルギーの見通しはまだはっきりしていない。しかし、内航タンカー業界はその潮目を読むタイミングを迎えつつあると感じている。社会の動向を注視し、荷主や船主と共に次世代のエネルギー輸送を見据えた船隊整備を進め、石油輸送に強みを持つ当社の特徴を活かしながら将来の新たな形につなげていきたい」
― 運航船の環境対応への取り組みは。
「政府のカーボンニュートラル戦略の下、内航海運も2030年までにCO2排出量を181万トン削減することとされている。従来の省エネ対策とはレベルが異なる。CO2排出ゼロを実現するには、ゼロエミッション燃料への転換が不可欠とされる。LNGや水素、アンモニア、純電池など、外航大型船や一部の実験船は動き始めているが、内航船への導入は研究段階にとどまる。燃料転換には船舶での利用技術の確立に加え、供給インフラ、コストなど、船だけにとどまらない多くの課題をクリアしなければならない」
「当社は社船のリプレースに当たり、利用可能な省エネ技術を研究し、当社クラスの船舶に適した技術は何か、環境負荷に対するCO2削減効果やコストなど、現時点でベストな技術を組み合わせて採用する計画。実船を建造して効果を検証し、その情報は船主とも共有していく。コストアップは避けられないだろうが、持続可能な社会の実現に向けて必要な投資をしていく」
■先進システム導入、出資も
― 働き方改革への取り組みは。
「船員法などの改正で船員の労働時間管理が厳格化されたことにあわせ、船員の労働時間を船主・船員と共有するシステムを構築し、船員の労働状況に配慮しつつ効率的な運航計画を策定できるよう活用している。当社は労務管理責任者、荷主と連携を取りながら船員の労働環境改善に努め、オペレーターとしての責務を果たしていく」
― 船舶運航支援システム開発を手掛けるフィンランドのスタートアップ企業グローク・テクノロジーや、船舶用ITプラットフォームを開発するマリンドウズに出資するなど、デジタル技術の導入への取り組みも進めている。
「新技術を導入することで、船員の労働負担を軽減し、生産性の向上を図り、内航海運が抱えるさまざまな課題の解決につなげていきたい。航海中の見張りをサポートするグローク社のARシステムを社船に搭載する。労務軽減、安全性の向上が目的だが、この成果は船主や関係会社にも展開する。グロークへの出資は、海事産業の課題に対応するため。同社の取り組みが、将来、さらに進んだシステムに発展していくことを期待している。マリンドウズについては、海運業界のプラットフォーム構築という構想に賛同した。当社も独自にシステムを構築してきたが、より良い形で新たなプラットフォームを構築していけたらと思う」
「これらの先進的なシステムは、船員の労働負担の軽減や航海の安全性の向上につながるものと期待している。今後もカーボンニュートラルや船員の負担軽減、安全性の向上、コスト削減に寄与できるようなシステムの開発・導入を積極的に進めていきたい」
― その他、内航海運の課題は。
「現状のチャーター料には船舶コストとのミスマッチがある。また建造船価や修繕費の高騰、船員法などの改正に伴う環境整備にはさらにコストがかかる。オペレーターや船主もコスト増を吸収しようと努めているが、運賃水準は20年以上前からほとんど変わっていない。船員の雇用環境や船舶の安全性にも影響する大きな課題であり、当たり前に船舶の代替建造ができるだけの運賃が必要である。脱炭素の流れの中でどうすればより良い形で内航海運を存続させることができるか、荷主、船主と共に考えていく」
― 最後に、営業拠点や人員構成は。
「営業拠点は本社・大阪支店・名古屋営業所の3カ所。加えて船舶を安全面でサポートする安全駐在が全国の製油所所在地を中心に9カ所ある。職員は陸上125人、海上78人で、計約200人が在籍している」
(聞き手:日下部佳子、横川ちひろ)