2022年9月6日無料公開記事人財戦略

《シリーズ》人財戦略⑤
陸上社員増員、新卒・キャリア採用ともに
日本郵船・鈴木執行役員に聞く

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あるべき姿から人事・組織を考える

 日本郵船は陸上職社員の採用人員の増強を目指す。グループ会社の支援機能の強化や、新規領域への事業展開、新たな技術に対応するための人員増強に充てる。新卒採用だけでなく、キャリア採用も増やす。人事グループ担当の鈴木康修執行役員は「いずれ、新卒やキャリア、同期といった概念は無くなっていく」と見通す。日本郵船が求める人材像や、採用・育成・配置の考え方などを聞いた。

■2050年想定した「人材」

 ― 鈴木執行役員はこの4月から人事部門の担当役員となった。
 「私自身、これまで事業部門を長く担当してきた。これまでの経験から、実際に事業に携わる社員のモチベーション、期待や不安、本音、どのような人材がどこに配置されているかを把握できていると思っており、人事戦略に生かしていきたい」
 「2023年度から開始する予定の中期経営計画の検討に9人の執行役員が携わっており、私もメンバーの一人として昨年来、2050年に向けて当社がどうあるべきかについて検討を進めている。あるべき姿からバックキャストして、どのような人材・組織を構築すべきかが重要なテーマだ」
 ― 新規事業領域を開拓していく中、日本郵船が求める人材像は変わっていくか。
 「当社の事業はエネルギー転換や消費行動の変化、環境問題などの大きなうねりの影響を受ける。事業、ステークホルダーは多様化しており、それに呼応する当社の社員も多様化していかねば変化に対応できない。サステナブルな事業で未来の価値を創造していくには、既存事業をしっかりと回し、そこから生み出される利益を活用して事業環境の変化に対応するために新規投資をしていくことが必要。いわば両利きの経営であり、ビジネストランスフォーメーション(BX)が次期中期経営計画の大きな柱になるだろう。BXは新しい事だけをするのではなく、核になる事業を回しながら本業で生み出された利益を基に新規の取り組みも行う。当社は歴史的に海運事業から総合物流に移行して事業展開をしてきたが、さらにその先にある未来の価値創造を見据えなければならない。新規事業を担う人材、既存事業をしっかと回す人材の両方が必要になる」

■キャリア採用も増員

 ― 人員の採用計画は。
 「これまで年間採用数は陸上職社員30人程度、海上職社員25人程度だった。今後は、海上職は同程度の採用を継続する一方、陸上職は今年度の採用活動から増強させる。事務系採用のみならず技術系採用も、また新卒のみならず、キャリア採用も増やしていきたい」
 ― 陸上職社員を増員する理由は。
 「1つはグループ会社のサポート体制を構築するため。業務や規制対応が複雑化・高度化する中、個社では対応しきれない案件が増えており、日本郵船本社としてグループをサポートしていく。2つ目が新規事業、新規領域を担う人材が必要であること。3つ目が、BXを遂行する上で技術系人材が重要になることだ。技術系採用は、本船の建造監督、新造船計画、新規事業の工務的サポート、船舶管理という従来業務に加えて、海洋事業やグリーンビジネスなどの新規領域に携わる人材が必要になるためだ」
 ― 日本郵船はあまりキャリア採用をしてこなかったイメージがある。
 「キャリア採用も増やしていく計画。長期社員だけでなく、専門性の高い人材の有期採用も増えている。特に主計・財務、法務、技術、最近では人事部門も制度が高度化し高い知識を持った人材が必要となっている。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の一環でもある」
 ― 社員数は今後どうなっていくか。
 「技術系を含む陸上職を中心に増強する予定だが、もちろん、闇雲に増やすのではなく、実際のビジネスの展開や拡大に合わせる。また、投資計画に対して必要人数を確保していくだけでなく、具体的にどのような人材が必要なのかも含めて採用活用に反映させていく」

■軸のあるゼネラリスト

 ― 人員採用・育成・配置の取り組みは。
 「まず、D&I推進という人事政策の土台の上に採用・育成・活躍(配置)がある。D&Iには、キャリア採用や専門性の高い人材の有期採用、ジェンダーのダイバーシフィケーション、ナショナルスタッフの活躍が含まれる」
 「採用については前述のとおり、技術系社員とキャリア採用の増員、また、高い専門性を持った人材を自社で養成するだけでなく外部からも積極的に招くという方針だ」
 「育成は、これまでは(同期入社であれば)同じタイミングで昇進してきたものから抜け出て、会社としてコア人材をしっかりと認識し、そのような人材を会社共通のリソースとして、タフアサインメントや選抜研修などを通して育成していく。また、社員のリスキル(再学習)を研修などの機会を通してサポートしていく」
 「人員の配置、活躍については、会社の指示1つで配属が決まるのではなく、社員自ら自律的にキャリアプランを描き、その役割を積極的に取りに行くことが必要になる。会社もそのキャリアプランを支援するために面談・研修・対話を行っていく。その中で、本社、グループ会社、海外も含め、一定のポジションを公募していくような取り組みも有効だと思う。また、グループ経営強化の観点から、グループ会社の戦略的なポジションへの双方向の出向を通じて、グループ各社のコア人材に経営の経験を積んでもらう取り組みもあるだろう」
 ― 新卒者の基本的な配置は。
 「最初の10年間で最低3部署を経験してもらい、社員本人と会社が適性を見極める。ジョブローテーションは当社の強みでもあり、維持したい。採用面接をすると、ジョブローテーションを通じて自分の適性を見極めていくことに魅力を見出している学生は多いと感じる。若手・中堅社員も同様の意見だ」
 「当社が期待する社員像は『軸のあるゼネラリスト』。いわゆるスペシャリストではなく、1つないし複数の軸を持ちながらも、さまざまな部署を経験し、その相乗効果で経験値を上げ、将来的に幹部を目指す姿だ。もちろん、その中でもDXや新規事業分野で高い専門性を持った人材を採用して共に働いていくことを想定しているが、今のところ人事制度としてスペシャリストの道は用意できていない」
 ― 海外で勤務する社員も多いが、駐在人数や変化は。
 「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の発足や郵船ロジスティクスの完全子会社化といった事業構造の変化で日本郵船社員の駐在人数は減ったが、それでも陸上職社員の4分の1程度が海外で勤務している。事業会社化は駐在数以外の変化も及ぼしている。コンテナ船事業などを日本郵船本体の事業として運営していた時には海外に若手社員の教育訓練的なポジションを設けていたが、事業会社化した今では即戦力が求められる。また、事業会社への出向となると、ジョブローテーションのため3年で帰任させるわけにもいかず、出向期間が長期化する傾向もでてくる」
 「また、かつては男性社員が海外赴任する際に妻は仕事を辞め、子どもは転校して付いていく、いわば家族の犠牲のもとで人事制度が成り立っていたとも言える。しかし昨今、家庭観・夫婦観の変化、男性の子育て参加などで、従来のモデルが当然ではなくなった。家族の事情で海外赴任できないといったことも出てくる。このような変化に対応し人員不足を回避するためにも人員増強が必要。会社も考え方を多様化することが、よい人材を確保につながると考えている」
(聞き手:中村直樹、日下部佳子)

鈴木執行役員

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