2022年9月5日無料公開記事人財戦略
《シリーズ》人財戦略④
健康経営標榜、研修も充実
福神汽船、瀬野社長に聞く
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今治市の福神汽船本社
今治市に本社を置き、船主業を展開する福神汽船が人材への投資に注力している。働き方改革ではシステム化を進め、船舶管理や経理部門などで生産性を向上させる取り組みを強化。健康経営を標榜し、産業医の設置や健康診断を充実させ、将来的には外国人船員の健康管理にも乗り出す考えだ。陸上社員と船員向けの研修制度も整備し、採用では対外的な情報発信にも力を入れている。「人材が一番大切な経営資源」と話す瀬野利之社長に同社の人材戦略などを聞いた。
■社員をバックアップ
― 人材の確保、育成に関する具体的な取り組みは。
「以前、国交省から日本籍船に関してのヒアリングを受けた時に、私は日本籍船に魅力があれば増えていくとお答えした。会社もそれと同じで、会社に魅力があれば人が集まってきてくれると思っている。そのためには、こちらからも情報発信していかなければならない。ホームページを完備しオープンな会社を目指している。ホームページはかなり大事で、中身が整っていないとそれだけで評判が落ちかねない。採用では多くの方がホームページを見て応募してくれるわけだから、重要なツールになる。われわれも新しい企業をチェックする時には必ずホームページを見る。海外の顧客の確認で見ることが多いが、内容次第では不安を感じてしまうことがある。対外的な情報発信を強化してホームページを充実させて、会社のイメージを良くし優秀な人に来てもらうのが第一の戦略だ。入社した時には会社のこと、例えば仕事の内容、福利厚生、休暇、ボーナスの決め方などを全てオープンにしている。就業規則をベースとし分かりやすく説明している」
― 社員のバックアップ体制を整え、業務も効率化している。
「昔の船主会社は船舶管理部門と経理部門の2つでやっていたが、今はそれをバックアップする部門もあり、当社でも充実させている。例えば、当社には会社全体をバックアップする業務部があって、会社の福利厚生やITを担っている。ITの専門家が2人いて、彼らがいろいろとやってくれている。今まで業者に頼っていたところの一部は独自でできるようになった。また、看護師もいて、健康経営の中で社員の健康を管理してもらっている。今は日本人社員の健康管理をしているが、将来的には海外オフィスともタイアップして外国人船員の健康管理もしていこうと思っている。マニラにも看護師がいるので、彼女たちと情報交換をして、われわれが行っている健康チェックに近いレベルの健康管理を船員たちにも行っていきたい」
「システムも導入している。ESG、DOC、IMO、ISMなどに関わる書類関係のシステムを作るシステム管理室という専門部署があって、船舶管理部隊や船舶を直接指導している。経理のシステムも導入し、効率化を図って生産性を上げていくことに取り組んでいる。経理のシステムが完成すると、現在は事務職6人でやっている仕事が3人でできるようになるので、残りの3人は今までできなかった仕事に回すことができる。船舶管理も同様にデジタル化、システム化すれば手間暇がかからなくなるので、その分新しくやれることが増える。船舶管理にはゴールがない。いくらでもやることはあるので、効率よく仕事ができるようにしていきたい。仕事を高度化していかないと付いていけなくなる。コストはかかるが、中長期的に見れば十分にペイする取り組みだ」
「船員管理室という部署もあって、そこでは約1300人の船員データを1人ずつ管理している。これからは船員の配乗ローテーションなどで、かなりの権限を持たせようと考えている。船員管理室には保険チームもあって、そこでは船体保険とP&I保険を担当しているが、その他は船員の配乗やリクルートといった船員管理の仕事をしている。当社には釜山やマニラなどに事務所があって、以前はそれぞれの事務所に任せていたが、今は本社で一元管理していて、本社から釜山やマニラなどに船員管理できめ細かい指示を出す形にしている」
「4月にはマリンプロジェクト室を発足させた。そこでは今後の新燃料の研究、原子力船も含めた新しいプロジェクトの研究に加えて、新造船のテクネゴなども改革の一環として担っている。今後は既存船のドック対応などで、当社海外事務所のメンバー、本社該当船監督と連携を密にし、常に担当監督がドックに張り付くのではなく、メリハリを付けてドック対応を行い、デイリー(他船)の監督業務と合わせて効率よく船舶管理を行えるよう当室で体制を整える準備をしている。マリンプロジェクト室は初めての取り組みの部署だが、会社としての新しい方向性を見出せるのではないかと期待している。これからはこのチームが重要な役割を果たすと思っている」
■安全研修を充実
― 人材育成の取り組みは。
「幹部船員に対してはマニラと釜山で年に3回ずつ研修を行っている。陸上社員の研修も以前から関係各社の協力も仰ぎつつ、社内外の講師問わず、行っている。保険関係の研修が多く、船体保険やP&I保険の担当者に来てもらってロスプリベンションの勉強会を開いている。事故が起きてから処理するのは当たり前で、事故が起きる前にやることがあるということを保険会社には口を酸っぱくして言っている。事故を起こさないためにはどうすれば良いかという事故防止をコンセプトに、船体保険やP&I保険の事故例や判決をベースにしたロスプリベンションの勉強会にしている。IT関係のセミナーなども行っている。また、春と秋の年2回、安全委員会を開いていて、今治本社、東京、釜山、マニラ、上海の陸上スタッフを全て集めて安全運航についての研修を2日間にわたって実施している。参加スタッフは船舶管理部門を中心に40人くらいになる」
― 福利厚生についてはどうか。
「福利厚生にはいくつかの施策があって、1つ目は病気や怪我、介護に伴う長期休業時の収入減を補償するGLTD(長期休業補償制度)を導入していることだ。もしそうなった場合には最長60歳まで、標準報酬月額の70%が補償される。これからは介護のために仕事ができなくなる人も出てくるだろうが、そういう理由での離職を防ぐ意味がある。2つ目は401K(企業型確定拠出年金)を導入していること。3つ目は企業主導型保育園で、保育園と提携して協賛企業となることで、社員の子供を優先的に入園させてもらっている。当社の女性社員は結婚しても仕事を続けてくれるが、出産後に子供を預けるのが大変で、今治でも結構苦労するそうなので、この制度を導入した。4つ目は健康診断メニューの充実で、人間ドック並みのメニューになっている。費用は5倍になったが、人は非常に大切だと思っているのでやることにした。1人が病気になると、仕事はかなりしんどくなる。健康第一をベースにやっていかないと良い仕事ができない。同様の健康診断を将来社員の配偶者も対象にできるよう検討している」
「当社には産業医もいる。産業医とはネットでつながっていて、人間ドックのデータを全て共有していて、各社員結果問わず、年に1回は面談をしている。今までの健康診断では法定検診しかしていなかったので、人間ドックにしたら若い人も含めてみんなが何らかの項目に引っ掛かってしまう。診断の結果、指摘項目があった場合はすぐに再検査を受けるようお願いしている」
「社員寮は独身寮と家族寮があるが、足りないので、当社所有の2つの賃貸マンションの空いている部屋にも入居してもらっているほか、一軒家を改造した寮も造っている。家族寮はメゾネットタイプで、90㎡以上の広さがあり、また独身(単身)寮も40㎡以上で家具もガレージもついており、高いスペックの部屋を割安で提供している。フィリピン人や韓国人にも来てもらっているが、彼らから家賃は取っていない。リゾート会員権は国内ではエクシヴ、海外ではマリオットを持っているし、長期勤続表彰では10年、20年、30年勤めたら金一封と5日間の休暇を与えている。また、社員持株会もやっていて、社員に株主になってもらうことで、自分たちの会社として経営に参加しているという意識を持ってもらう」
― 福神汽船は人の採用をしっかりやって、入社後も各種の研修を行い、しかも福利厚生もきちんと提供していて人を大切にしているイメージだ。
「この会社で働きたいという気持ちを持ってもらうことが大切だと思っている。みんな細かい不満は持っていると思うが、できる範囲で解消したい。いろいろな会社がある中で、当社に来て働いて良かったという気持ちを持ってもらいたいというのが私の希望だ」
(聞き手:中村直樹)