2022年7月15日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

《連載》内航キーマンインタビュー①
内航強化へグループシナジー発揮
川崎近海汽船 久下豊社長

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 内航のフェリー・定期船・不定期船事業を展開する川崎近海汽船の久下豊社長は、川崎汽船の完全子会社となったことによる内航部門への効果について「内航部門でも脱炭素化を進めていかなければならず、そのために必要な技術と資金が当社だけでは十分とは言えず、川崎汽船からのサポートを期待している」と述べたほか、代替燃料船の船員訓練やDXなどに関する支援への期待を示した。モーダルシフト需要を川崎汽船の国内グループ各社と連携して捉えていく考えを示し、「例えば国内航走事業を行っているグループ会社と当社の内航RORO船事業の連携などは、いま一度お互いの最適化を目指していくことが必要と考えている」と語った。

 ― 内航部門の2021年度の業績は。
 「内航3部門で期初の予算を上回る結果を達成できたというのが全体の総括だ。フェリー事業は、Eコマース需要が大きく増えたためにコロナ下でも貨物輸送量は大きくは減らず、旅客・乗用車もコロナで落ち込んだ20年度から回復した。一方、室蘭/宮古・八戸航路を2月に休止したが、影響は限定的だ。また、コンサート関連の輸送需要が一部復活してきた。1回のコンサートの輸送が200台強と非常に大きい人気グループが活動を休止したが、新しいグループも出てきているので今後は増えていくことを期待している」
 「RORO船による内航定期船事業は北海道航路が比較的堅調で、全体でも荷動きはそれほど大きくは減らなかった。フェリーと同様にEコマース需要に加えて、巣篭り需要がまだ残っていたため冷食関連の貨物が動いたことや、北広島のボールパークなどの設備用建材の輸送需要にも支えられた。一方で清水/大分航路の収支は厳しいままだ。貨物量は徐々に増えてきたが、大分出しの消席率がまだ低いため、燃料油価格高騰によるコストアップがBAF(燃料油価格調整金)を上回っている状況。この航路は現在営業強化策を取っており、その効果が今年から出てくることを期待している」
 「内航不定期船事業は専用船と定期貸船の比率が高いので収支の大きなブレはないが、国内の合板用原木の荷動きがウッドショック以降増加する中、一般不定期船で九州出しの原木の輸送需要を取り込むことができた。この部門では前年度に減損を行った効果も現れた」
 ― 内航部門の今期の業績見通しと重点課題は。
 「フェリーでは、室蘭/宮古・八戸航路休止の効果が今期から大きく出てくる。貨物量は今のところ予算を上回る勢いで、旅客・乗用車も昨年以上に回復する見通しのため、それらが相まってフェリー部門の業績は上向くと考えている。コロナ収束後に人がどれだけ動くか次第だが、個人旅行に加えて出足が鈍い団体旅行が戻ってくることを期待している。ただ、燃料油の高騰が業績の足を引っ張ることにもなるので、そこは気にしている」
 「内航定期船は多少でこぼこはあるものの飲料、食品関係や雑貨を中心に荷動き自体は見込みどおり。ただ、この部門も燃料油価格の高騰が収支にマイナスの影響を与えている」
 「内航不定期船では鉄鋼業のスローダウンの影響が出てきていることと、大手合板工場の火災の影響で原木の荷動きが減る可能性もあるのが懸念材料。ただ当社の場合、専用船と定期貸船の比率が高いことでそれほど大きな下振れにはならないと見ている」
 「内航事業の目下の大きな課題は、燃料油価格激変緩和措置の補助金の還付問題。4月以降われわれ船社の燃料購入価格に還付金の額が十分反映されておらず、その理由について石油会社や販売会社に明確な説明を求めているが、われわれからすると今1つ不透明感がぬぐえない。荷主からも説明を求められる立場でもあり、説明に苦労している。このため、内航大型船輸送海運組合から日本内航海運組合総連合会に業界として意見を発して頂くよう要望書を提出した」
 ― 川崎汽船の完全子会社になったことで内航部門ではどのような効果を期待しているか。また、川崎汽船から内航部門についてどのような期待を受けているか。
 「川崎汽船からは、内航部門はこれまで安定的に収益を上げてきたため、従来のやり方を踏襲・発展させて今後も持続性を持った収益源であることを期待されている。一方、われわれの立場としては内航部門でも脱炭素化を進めていかなければならず、そのために必要な技術と資金が当社だけでは十分とは言えず、川崎汽船からのサポートを期待している」
 「フェリー・RORO船のLNG燃料船は従前から検討しているものの、それだけでなく、将来的にはアンモニアや水素、バイオマス燃料、さらには電気推進船などのゼロエミッション燃料船の動向も注視している。これらの取り組みは外航大型船から導入が進められることも多いため、川崎汽船と知見を共有していきたい。また、代替燃料船の船員教育へのサポートも川崎汽船にお願いすることになるだろう。デジタル技術を活用したよりスマートなブッキングや船舶の運航管理や船舶管理なども進めているところ。これらについても全部ではないものの、川崎汽船が先行して取り組んでいるものでわれわれにも応用できるものは活用していきたい」
 「トラックドライバーの労務管理強化などで海上輸送へのモーダルシフトはさらに進む見通しで、国内における川崎汽船グループ会社の力を使ってその動きをとらえていきたい。例えば、以前も検討した件ではあるが、国内航走事業を行っているグループ会社と当社の内航RORO船事業の連携などは、いま一度お互いの最適化を目指していくことが必要と考えている。また、これだけにとどまらず、さまざまなシナジー効果を出していくためのワーキンググループを川崎汽船との間で立ち上げ、具体的な取り組みを深めていくことにしている」
 ― 内航オペレーターも環境やデジタル領域を中心により高度な対応を求められる中で、総合海運グループの中にいることは強みになる。
 「今はまだ従来のやり方でいい部分もあるが、5年先、10年先を見据えると顧客や社会がより高度化していくことになるだろうし、それに対応できる会社とできない会社では大きな差が付く。川崎汽船の完全子会社化を機に、将来への備えを強化して持続性のある事業展開を行っていく」
 ― 内航海運業界全体の課題とそれに対する処方箋は。
 「事業環境の課題では、船員の働き方改革、荷主との取引環境の改善を進めていくことが大きな課題。船員問題は職場環境や待遇の改善を行う必要があり、そのためにDXも活用していかなければならない。また、船員の確保に向けて内航海運業界と船員教育機関がより深く連携する必要があるだろう。取引環境の改善については、内航海運業界と荷主との対話が国土交通省の主導の下昨年度末から始まっており、これを続けていくことでわれわれの立場を理解して頂くことになろう。内航海運の現場が労働時間などのコンプライアンスを守るためには荷主にご理解を頂き、ある程度余裕を持った配船を考えるなどの対応が必要になってくる。そうすることで健全な内航海運が醸成されるし、荷主との信頼関係もより深まると思う。コロナ禍によって引き起こされた外航コンテナ物流の混乱などにより、物流の重要性が荷主にもかなり深く理解頂けたと思うので、これをきっかけに持続可能な内航海運に向けて関係者が覚悟をもって動いていくべきと考える。その中においてわれわれオペレーターの責任は大きいと感じている」
 「環境対応については、まずは国土交通省が進めている連携型省エネ船の開発に内航海運業界がしっかりと関わっていくことがあるだろう。内航海運のGHG(温室効果ガス)排出削減の当面の目標は何とか達成可能と思われるが、問題はそこから先をどう見るかだ。考え方としてはもっと先を見越して120%、130%の達成率を目指すべきで、そうすると連携型省エネ船だけではなく代替燃料などにも積極的に取り組むということになるだろう。このあたりの進め方については日本内航海運組合総連合会が旗振り役をやり、業界におけるシンクタンクの機能を発揮してくれることを大いに期待している」
 「知床観光船の大変痛ましい事故があったが、この事故を起こした会社における間違った考えの根本にあるのは、安全管理規定をつくってそれを国も受理し、さらに国の検査もパスしたのだから事故が起こったことに国の責任もあるというところ。船舶の安全を確保していくのはまず事業者自身であることを認識していない。国はそれを担保するための制度を整備したうえでそれが正しく行われているかをサンプリングで検査することにとどまるので、それが完全であると期待することがそもそもおかしい。安全を確保していくには、ルールミニマムの考え方から一歩も二歩も踏み込んで不断の努力をしていくことが必要。外航船の安全管理が基本的に船主・個船で行うという考え方なのに対して、日本の内航海運の安全管理規定はオペレーターが自社の運航船の安全に対して責任を持つという考え方。われわれオペレーターは改めてそのことをしっかりと理解する必要がある」
(聞き手:深澤義仁、中村晃輔)

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このインタビュー連載は、内航分野の主要海運会社・造船所のトップや専門家などに事業方針や業界動向について聞く(随時掲載)。

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