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2025年7月3日無料公開記事日本造船業の再転換

《連載》日本造船業の再転換(下)
技術、人材、業界モデルに注目

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三菱造船のアンモニア燃料供給装置。重工メーカーの総合技術力が不可欠に

「常石ソリューションズ東京ベイ」に社名を改めた旧・三井E&S造船。三井から常石へと看板は掛け替えられたが、他の国内造船所に技術を提供する「造船エンジニアリング事業」を軸とする姿勢に大きな変化はない。

近年、この常石ソリューションズ東京ベイと、三菱造船の2社は、LNG燃料船を手がける日本の造船所にとって、欠かせない存在となってきた。多くの造船所が、新燃料船の艤装設計などで、ガス船に関する豊富な知見を持つ両社にエンジニアリング面での協力を求めている。

「常石造船昭島研究所」に改称された通称「アキケン」も、常石造船にとどまらず、国内の造船所から研究業務を受託している。加えて常石造船自身も、海外技術者リソースを活用し、技術者不足に悩む国内企業へ人材を派遣するなどの支援を行ってきた。近年は船舶データ関連事業にも乗り出しており、自社での船づくり以外にも技術を展開して収益化する、造船大手的なエンジニアリング型事業モデルが、常石グループ内で強化されつつある。

総合重工系が長年担ってきた、日本の造船技術のけん引役。これを今後は専業造船所が引き継ぐことになるのか。

近年、アンモニアや水素などの新燃料船、液化水素運搬船や液化二酸化炭素(LCO2)運搬船などのカーボンニュートラル貨物船、さらに自律運航船といった次世代船の開発では、改めて三菱造船や川崎重工業など総合重工系造船所の技術力が際立った。各社で得意とする技術領域には違いがあるものの、社内研究所や他事業部門の要素技術、造船研究者たちが長年積み重ねてきた独自開発の成果といった総合力が生きている。ある海外造船所が、次世代船に必要な要素技術を求めて世界中で提携先を調査したところ「その技術を持っているのは日本の総合重工だった」というエピソードもある。

もっとも、総合重工から専業造船に日本造船業の軸がシフトするとはいえ、こうした要素技術まで専業造船所が全て内製化する必要はない、との見方が大勢だ。「韓国造船大手も、必要に応じて技術は外部に求めている。むしろ、専業造船が今後強化すべきは、技術の『目利き』力と、それらを自ら統合できるシステムインテグレーションの力ではないか」(海運関係者)との指摘もある。共同研究プロジェクトなどを通じて、こうした力を高めていくことが期待されている。

また、新たな業界構造の中で、これまで以上に重要なテーマとなるのが、日本造船業としての人材の確保と育成だ。日本の造船業では長きにわたり、財閥名を冠する総合重工が人材採用で優位性を発揮してきた。これから少子化が一段と進み、産業間で優秀な人材の獲得競争がますます激化する中で、造船業としての人材戦略も大きな転換期を迎える。

さらに周囲の注目は、日本の造船業としての新たな業界モデルがどのような姿になるか、という点に集まる。20世紀の日本造船業では、総合重工の造船部門同士が人的・組織的に密接に連携し、日本の造船業全体を底上げするモデルが機能していた。一方、2000年以降は、専業造船所が互いに強いライバル意識を持ち、海外造船所だけではなく国内同業に対する競争意識と緊張感を持ちながら、切磋琢磨してきた時代だった。

業界としてではなく、自社の勝ち残りを追求してきたことが、結果的に日本造船業としての地盤沈下を食い止め、韓国・中国の成長になんとか食らいつく原動力にもなってきたといえる。

しかし、専業造船所群が日本造船業の中心になる過程で、周辺が不安視してきたのも、まさにこうした過去の経緯だ。「業界としてまとまるべき局面で、信頼関係を築けるのかどうか―」。自社の利益を超えた選択が、今後局面ごとに問われようとしていく。

中国造船所と関わる関係者の多くは、中国の圧倒的な規模とスピード感、コストを前に「競争の局面が完全に変わった」(関係者)との切迫感を共有する。日本の造船所が単独で戦うのは困難で、これ以上の脱落者を出すことも許されない。日本造船業は、業界構造の転換にとどまらず、個社の戦い方や業界との向き合い方そのものの変化を迫られている。
(対馬和弘)

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