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2025年3月5日無料公開記事中国造船シェア6割時代

《連載》中国造船シェア6割時代⑤
死角は不況と労働力

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「中国が世界の船の供給の6割を握るということは、この国の政策や経済動向次第で船舶供給が大きく左右される。これはいわば、世界の海上貿易を人質に取られているような状況だ」(海事関係者)。この安全保障上の危機に気づいた米国が打ち出したのが、まさに、このたびの中国建造船への対抗措置だといえるが…。

「中国からすれば、『お手並み拝見。やれるならどうぞ』という感じではないか」。ある関係者はそう見る。

中国建造船に対して米国入港時に巨額の入港料をかけるとともに、米国貨物の輸送には米国建造船の利用を義務付ける。米国がその圧倒的な購買力を生かして中国造船業の勢いを削ぐ方法として、これは一見、正しい。だが、「もはや非現実的。15年前であれば日本と韓国が中国をある程度は代替し、それなりの効果を挙げた可能性もあるが、今となっては世界は中国建造船に頼らざるを得ない」(造船経営者)。米国が報告書の中で「中国への依存度」と指摘した通りだ。

もちろん、局地的な新造商談では今後、中国建造船のリスク回避の観点で、韓国や日本造船所を優先する動きが一部で勢いづく可能性はある。米国の措置次第では、米国寄港を前提とした船舶の新造発注先は分散が図られるかもしれない。ただ、中国からあふれる需要を他の国がどれだけ受け入れられるか。韓国造船所関係者も「短期的にはコンテナ船に期待しているものの、一方ではコンテナ船増産のために今から大規模な設備投資をするかというと…」と消極的だ。中国優位の大勢には影響がなさそうだ。

米国の力を持ってしても揺るぎそうにない中国造船の市場支配力。これを変えるきっかけは何か。
 「造船不況しかない」。国内造船経営者は語る。造船の好況が続く限り、中国造船のシェアは伸び続ける可能性がある。「新興造船所がこれから建造量を増やす。工程混乱や品質問題が出るだろうが、マーケットが良ければ船主はそれでも船を引き取る」。この一方、リーマン・ショックの頃を振り返れば、市況悪化を機に、中国の新興造船所ではキャンセルが相次ぎ、資金繰りの悪化などから経験の浅い造船所がほとんど倒れた。不況下で最も縮小したのが中国で、建造量はピーク比で半減し、シェアも下降を続けた。これから中国造船所が揺らぐとしたら、最もあり得るシナリオだ。「だがその場合は、われわれも痛みを伴う。中国造船が縮小する前には、船台を埋めるため安値の受注攻勢もあるかもしれない。消耗戦の覚悟が必要だ」(国内造船所関係者)。あるいは「不況ほどのハードランディングではなくとも、受注が停滞する時期が数年続けば、状況は変わってくるのではないか」。米国の制裁の効果も、不況下であれば話しは変わってくる。

中国造船業のもう1つの死角は、労働力だ。「中国にも早晩、今の日本・韓国と同じ状況が必ず訪れる」(海事業界関係者)。少子高齢化が急速に進む中国。生産年齢人口は、2013年の10.1億人をピークに減少に転じており、昨年末時点では8.6億人となった。この10年間で1.5億人も減少した計算だ。前回の造船ブームで中国造船業が建造量のピークを迎えたのは、労働人口も最も多かった時代。当時とは様相が大きく変わってしまった。

いま、人口減少下でも中国造船業が労働力を十分に確保できているのは、他産業の不振によって雇用市場が悪化しているからに他ならない。いまの中国造船業は、国内不況のおかげで人員確保が容易で鋼材も安く、そこに造船好況が重なり、かつ、人民元も安い、という、経営環境としては過去最高の状態にある。戦後日本やIMF危機下の韓国と同様、国難の時代に造船は栄える。だが、これからは…。

中国が急拡大する中、日本造船の世界シェアは20%を切った。しかし「中国は今が最高の状態であって、必ず落ちてくる」と国内業界幹部は見る。「その時に備え、少なくとも今の建造規模を確保して、できれば伸ばす。さらに国内協業などを通じて競争力を高めておけば、日本造船は十分に戦っていける」。中国60%の時代が続くかどうかは、残り40%の国がどこまで戦い抜けるかどうかにもかかっている。
(連載おわり。対馬和弘が担当しました)

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