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2022年9月13日無料公開記事日本造船の新3極構造

《連載》日本造船の新3極構造①
今治・JMU、1年目の評価
受注で成果、トップアライアンスへの期待と注文

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今治造船とJMUとも過去2番目の高水準の受注獲得

 日本造船業が、新しい産業構造に生まれ変わる。今治造船とジャパンマリンユナイテッド(JMU)の最大手グループが昨年からスタートし、大島造船所と名村造船所はそれぞれ三菱重工グループと具体的な協業プロジェクトを開始。そして、常石造船による三井E&S造船のグループ化がまもなく具体化する。これらトップグループの「総合重工+専業造船」というアライアンス体を1つの極とし、これに続く中堅造船所群、そして中小造船所という3つの極が新しい業界の体制だ。造船所間の連携を基軸とした新3極構造で、生き残りを図る。

 一昨年来から本格化した国内の造船再編は、提携や撤退などさまざまな視点があった。特に大きな変化が、売上高と建造量で国内トップを誇る造船所群による新たなグループ化だ。建造量・売上高で国内首位の今治造船と2位のJMUが連携してグループを形成し、売上規模で3位の常石造船グループが三井E&S造船と連携した。常石造船に次ぐ規模の大島造船所と名村造船所は、それぞれ三菱造船とのアライアンスを強めている。「総合重工+専業造船所」の組み合わせで、業界の新しい中核体をそれぞれが形成したといえる。
 各社の視線の先には、海外との競合がある。現代重工グループを筆頭とする韓国造船大手。統合を果たした中国国営グループの中国船舶集団(CSSC)。いずれも共通しているのは、技術と規模を兼ね備えていることだ。自前の研究所と豊富な技術者をベースとした強力な研究開発機能を持ちつつ、巨大な建造設備による量産体制を持つ。ここに日本が対抗するには、技術で主導権を持つ総合重工系と、規模を持つ専業造船のアライアンス体制が不可欠だった。
 先行したのが今治・JMU連合。昨年1月に資本業務提携がスタートし、合弁の営業・設計会社「日本シップヤード(NSY)」が立ち上がった。2社合わせて国内シェアは50%という巨大グループの、この1年半の「成績表」はどうか。
 「新造船発注が回復する局面の統合だったので営業・設計機能の統合はタイミング的には良かった」(商社関係者)。そんな評価が周囲にはある。実際、今治造船は2021年度の新造船受注が過去2番目となる129隻を記録。JMUも受注高が4073億円で過去2番目に高い水準だった。「今治造船として過去2番目の受注を果たしたのはNSYの効果。両社とも一緒になってよかったと思っている」(檜垣幸人社長)、「少しでも高い船価で受注を重ねていくという目的意識が合致し、営業を一緒に行った成果がはっきり表れた」(JMU千葉光太郎社長)と、それぞれに前向きなコメントを示している。
 もともと懸念されていたのが、企業文化の違いを乗り越えられるか、という点だったが、檜垣社長は「当社はトップダウン型、JMUはボトムアップ型で営業スタイルが異なるが、相乗効果で営業の情報量が圧倒的に高まった」とむしろ効果があったとする。
 一方、「もう一段の対応力がほしい」との声も周囲にはあった。2社を合わせて建造能力と設計対応が倍増したものの、それでもこの急激な需要拡大と設計ニーズには対応しきれない面があったようだ。日本の圧倒的なトップ造船アライアンスに対する期待の裏返しともいえる。NSYの前田明徳社長も「まだ足りないところはある。特に新燃料船については、顧客が期待している深度とスピードに十分追い付けていないので、対応力を高める必要がある」と語る。
 また、日本の建造量の5割を握る会社として、その営業方針や製品戦略がマーケットに与える影響力もはっきりと見えてきた。「例えば今後、特定の船種について『NSYは対応しない』となれば、その船種を日本で建造する工場がほとんどなくなる。これはものすごく大きな影響だ」(船主関係者)。日本国内の工場で新造船事業の撤退・縮小が相次いだこともあり、このアライアンスの市場影響力は大きくなっている。「LNG船に対応していただけないものか」との声が依然として根強いのも、この一環だろう。
 「現代重工やCSSCに対抗する日本の主軸」―。新しい日本造船業でトップに立つアライアンスは、こうした期待に応えられるかが今後のテーマとなる。
(この連載は、対馬和弘が担当します)

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