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2022年9月9日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑫
省エネ中心に顧客のニーズに対応
山中造船・浅海真一社長

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 内航船業界が船員不足や脱炭素化で大きな転換点を迎えるなか、内航船建造大手の山中造船は、強みとする省エネ船型のほか、環境・デジタル技術を導入した新たな取り組みでも顧客のニーズに応えられる技術力や体制の構築を図る考えだ。稼働から8年半が経った新工場は設備投資も一段落し、今後は人材確保・育成と、DXの導入検討に注力する方針だ。浅海真一社長(写真)に内航船の造船業界の現況や事業方針を聞いた。

■経験のない大変革期に

 ― 現在は鋼材価格の高騰などに直面しているが、内航船の新造船の受注環境はどうか。
 「現在はコロナ禍直後の2020年と比べて用船市況も回復しており、内航海運暫定措置事業が終了し納付金を支払う必要はないが、新造船の受注環境は厳しい。内航船は用船料の乱高下が少ないので、外航船のような用船料の急落がない反面、上昇幅も小さく、足元の鋼材をはじめとした資材価格の値上げによる建造コストの上昇で造船所の提示する船価と用船料の乖離が大きくなっている」
 ― 内航船業界は船員不足や脱炭素化の課題があるが、内航船を建造する造船所として今後の内航船業界をどのようにみているか。
 「船員不足や新燃料の問題でこれまでに経験のない大きな変革期になってくると思う。特に船員問題が内航船業界を左右する最も大きな要因で、船を造ろうとしても船員がいないなど、新造船の動向にも影響が出てくることが予想される。さらに少子高齢化で日本国内の消費動向が変わってくると、輸送形態が大きく変化する可能性もあるのではないか。当社の主力とする貨物船では、製鉄において石炭、石灰石、スクラップが動くため、荷動きや新造需要は鉄鋼の生産量に比例している。船は今後もなくならない輸送手段だが、粗鋼生産が今後減少するといわれる中で、動向を注視していきたい」
 ― 山中造船では内航ミライ研究会の「SIM(シップス・インテグレーション・マネージャー) SHIP」に取り組んでいるほか、デジタル技術を導入した丸三海運のコンテナ船“島風(しまかじ)”に取り組んだ。
 「発注者の要望に基づいて取り組んでいるプロジェクトだが、まずは造船所として顧客の要望に対応できる設計や工事ができることが重要と考えている。その上で、これまでのように良い製品を造るだけではなく、情報交換をしながら異業種の技術も取り入れ、顧客のニーズに応えられる知識も持つことも必要になるように思う」

■省エネ船型の開発に強み

 ― 山中造船は国土交通省の内航船省エネルギー格付け制度で8隻が最高評価「5つ星」を獲得するなど省エネ船型の開発にも定評があり、499型貨物船では国内有数の建造実績を持つ。強さはどこにあると考えているか。
 「30年以上前から内航船ヤードとしてはいち早く水槽試験を行っており、省エネ船型の開発ではノウハウの蓄積もあるので、省エネを中心とした顧客のニーズにいかに応えるかを意識している。当社が特許を持つ省エネ船型の“エラ船型”のほか、栗林商船が特許を持たれるゲートラダーも共同開発した。開発コストはかかるが、造船所の選定時に省エネなど性能面を評価してもらえるよう今後も注力していきたい。また、船種も貨物船だけでなく、ガット船、コンテナ船のほか、タンカーやフェリーも実績があり、得意不得意はあるが、どの船種も対応できる」
 「8年半前に大島工場に移転し、現場の作業環境が格段に良くなった。ブロックの組み立てや船台上での作業は移動屋根が付いており、工程の安定化にもつながっている」
 ― 操業水準は。
 「ここ数年の建造実績を平均すると年間11隻程度。大島工場への移転後、499型貨物船の建造依頼が多く年間13隻という時期もあったが、現在は499型船の引き合いが少ないので、499型貨物船に加えてガット船やコンテナ船、セメント船などを建造している。年間建造隻数は減少しているが、総トン数が増大し工事量が多くなっているので、操業量としては以前の同等以上になり、これ以上操業を引き上げることは考えていない」
 ― 現在の手持ちの状況は。
 「現在は1年強程度となっている。それ以降の納期で商談中の案件もあるが、用船料と船価の乖離でなかなか決まらない」
 ― 499型貨物船といった汎用船型では短納期での受注も模索しているのか。
 「内航船はシリーズ船でも船主によって要望が異なるため、最低1年程度はみている。造船所をはじめ機器メーカーも資材や人員の余裕がなく、かつてのような短納期に臨機応変に対応できる状況ではなくなっている。さらに昨今の半導体不足やウッドショック、外航船の急激な受注の回復などで、納入遅れや発注しづらくなっている機器や資材もあるので、極端な短納期での受注は困難である」
 ― 内作率は。
 「船種や船型にもよるが、船体ブロックは8~9割を内製化しており、内航の造船所としては内作率が高い造船所であると思う。工場移転後は499型貨物船であれば100%自社でもできるようになったが、船種や船型によっては外注が必要になるので、ブロックは一定程度を継続して外注に仕事を出すようにしている」

■人材確保・育成とDX化が課題

 ― 設備投資は。
 「大島工場の稼働後に、ドック上の移動屋根を増設し、499型貨物船は全て屋根の中で作業ができるようにしたほか、艤装岸壁も50m延ばし120mにしたことで、当社の最大船型でも艤装岸壁に係船できるようになった。建造設備の大型投資は考えておらず、今後はどのように工場のDXに取り組むか、コンサルタントに入って頂きながら考えていく。また内航ミライ研究会にも意見を聞きながら取り組んでいきたい」
 ― 人員体制は。
 「山中造船本体で70人、常駐の協力会社が150人になる。平均年齢は42歳前後だが、50歳前後が少なく、その反面、設計陣は30歳前後の若手が多くなっている」
 ― 経営課題は。
 「人員の確保と若手への技術の伝承が最も大きな課題だ。人手不足は造船業全体の課題だが、当社は島にあり、より人員確保が難しい面もある。また橋の通行料が通常の高速道路よりも割高なことも通勤のネックの1つとなっており、行政にも対応を考えて頂けたらとの思いもある」
 ― どのような会社にしていきたいか。
 「得意とする省エネ船型を活かしつつ、顧客の意見を取り入れ、造船所から提案できる会社にしたい。内航船は受注の大部分が代替船なので、既存顧客との関係維持拡大を深めながら、また山中造船で建造したい、と言ってもらえる造船所にしていきたい。内航海運業界全体が魅力を感じてもらえるようにしたいと願っており、当社は省エネや安全性で評価を頂ける船の建造を通じて貢献していきたい」
(聞き手:松井弘樹)

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